私は「あまちゃん」の頃からかNHK“朝の連続テレビ小説”を観る習慣がついてしまった。現役時代は時間的に見ることが難しかったがサラリーマンを辞めてからは朝起きるトリガーになるので逆に重宝している。カミさんのようにドラマ自体が好きという訳ではないが習慣になると続くものだ。


現在は往年の“ブギの女王”笠置シズ子をモデルにしたオリジナル脚本「ブギウギ」を放送中だ。私が生まれる前の日本の音楽界、歌謡界という設定も興味深い。笠置シズ子(役名は福来スズ子)を演じる趣里もなかなかのハマり役だが淡谷のり子がモデルとされる茨田りつ子役を菊地凛子が好演している


  【「ブギウギ」相関図、NHKの番組Webより】

先週、その茨田りつ子が芸能ゴシップ記者の「あんたら人気商売だろ」と挑発する言質に対して睨み返しながら不敵な笑みでこう言い放った。「(私は)人気が欲しくて歌ってるんじゃないわ。客なんて一人だっていいのよ、一生忘れられない歌、聴かせてあげるわ」これには私もグッと来た。


というか「まさに、そうだ!」と心から共感したのである。プロの歌手の台詞に共感するなんて誠におこがましい限りだが、私自身、歌も歌えば朗読もするし、ときにはプレゼンもする“ステージパフォーマーの端くれ“として、その感覚は理解出来るし、とても大事だと思っていたからだ。


私が現役の人事部長だった時に幾つかの大学から頼まれて就活学生相手にキャリア開発の講演をしたことが何度かあった。事後に受講生からのアンケート(講演の所感)を見せてもらうこともあり、その中である学生の下記コメントを読んだ時の感動は今でも忘れることが出来ない

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私の父は大きな会社に勤めていたのに病気で入院してから小さな会社に転職しました。当時、私は父の考えが全く理解できませんでしたが、今日、初めて父の気持ちが分かったような気がしました。この講義を聴けて本当に良かったです。
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私は講演の中で「神山所長のワークショップ」と呼ぶケーススタディを入れる。神山というのは仮名だが人から聞いた実話で、“仕事の鬼“と呼ばれる営業所長が体調を崩して長期入院する事になり、退院後に退職した。さて、彼は何を思って何故退職したのか?と学生達にただただ問いかけるのだ。


このケーススタディに正解は無い。実際のその人の名前も素性も事情も私は全く知らないし、それがどうであっても関係ないのだ。受講生が自分ならどう思うか、その会社を何故辞め何をしようとするか、という“自分への問いかけ”をすることで自らのキャリア観を確認することが狙いだからだ。

上記のアンケートを書いた学生は女性で、彼女は続けてこう書いていた。「私は絶対に自分の父親のような働き方だけはしたくないと思いました」この意味は“仕事の鬼”にはなりたくないという事か、入退院しても転職はしないという事かは分からない。でも彼女の心に響いた事は確かだろう。


大講堂で100人以上の学生相手の講演だったのだが、この1枚のアンケートを読んだ時、私は自分がこの講演を引き受けて本当に良かったと思ったし、今日この1人の学生の心にこれだけ響いたのなら、もうそれだけでも自分はこの世に生まれてきた価値があったとすら思ったのだ。

但し「1人でもいい」のだが「0人ではダメ」だ。1人と0人の差はたった1人だが101人と100人の差とは違う。有と無、可能と不可能くらい大違いなのだ。仮に聴衆が何万人いても心に響く人が1人も居なかったらダメだし、聴衆がたった1人でも、その人の心に響けば、それでOKだと思うのだ。

講演や講義と歌や朗読を一緒にして良いのかどうか分からないが、少なくとも両者とも聴いている人が居て初めて成り立つものである。誰も聴いてないならどんなに素晴らしい話や歌も自己満足に過ぎないが、たった1人でも聴いている人の心に響けばOKと思って私は常にステージに立っている。

Saigottimo