今はちょっとしたサウナブームらしい。サウナ(*1)と水風呂の交互浴による一種のトランス状態を指す「ととのう」という言葉は、昨年の流行語大賞にもノミネートされた。漫画家でイラストレーターのタナカカツキの「サ道 心と体がととのうサウナの心得」を原作に原田泰造が主演したテレ東のドラマ「サ道」が火付け役になった。

 

トースト(パン)は、バターを食べるための口実」(byバカリズム)とはまさに名言だと思うが、実はサウナも水風呂に入るための口実に過ぎない。てゆーか、サウナの悦楽の殆どは「水風呂の気持ち良さ」に他ならない。「ととのう」という感覚もこれまでに様々な深さで何度も経験したが、水風呂なくしては到達し難い境地である。

 

【テレ東・番組ホームページより】

 

サウナ愛好者を「サウナ―」と呼ぶらしいが、ならば私は中学時代から、もう半世紀来のサウナ―だ。会社員時代は「役員がカプセル(ホテル)はやめて下さいよー」と若手に嫌がられながらも単身出張はホテルを予約せずにサウナに泊まり、合宿に行けば皆が呑み終わって寝鎮まる深夜まで一人でサウナに入っていたくらいだ。

【行きつけの銭湯サウナ(笹塚温泉 栄湯webより)】

 

一般的にはサウナ室と水風呂を3回くらい往復するようだが、私の場合は野球に見立ててサウナを「表」、水風呂を「裏」として9回裏までの完投を目指す。体調や時間が許さない場合はせめて7回、それも厳しい場合は(先発投手の責任回数)5回を自らに課してきたので、1回の表裏が15分としてもサウナ入浴には3時間必要だ。

 

サウナ室に居る時間も「(タイマー半周の)最低6分間!」と決めていた。しかし最近になって「あと1分!」「あと1イニング(1往復)!」などと「頑張るのはアホらしい」と思うようになった。水風呂に行きたくなったらまだ5分でもサウナ室を出ればいいし、満足すれば4イニングでも上がればいい。要は「自分の心身に聞けばいい」と。

 

【12分計(赤い秒針が1周したら1分間)】

 

実は私は中学では茶道部だったのだが、茶道に「守破離」という言葉がある「守」とは基本原則やお作法を知って守ること、「破」とは原則を知りながら敢えてそれを一寸破ってみること、「離」とはもう原則等を離れて思いのまま自由に振る舞うこと。これは茶道に限らずどんな分野でも初心者から達人に至る道程なのだろう。

 

例えばファッションでも基本のコーデを「守」る段階を経ると、わざと原則を「破」ってスポーティな装いにドレッシーな小物を合わせてみたりしてみたくなる。そのうちに原則等から「離」れて自分の思いのままに装えるようになる。ジョージ秋山の漫画「浮浪雲」で主人公の女物の着流しなどは、まさに「離」の装いだろう。

 

つまり“サ道”において、私はようやく自分で勝手に作ったルールを「守」るのではなく「破」ったり「離」れようと思った訳だ。ヴォーカルは20年ちょっとだし、朗読はその半分以下だから、まだまだ「守」もままならないのは仕方ないとして、サウナ―歴は50年以上あるのだから、そろそろ「破」や「離」の境地もアリなのだろう。

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*1:「サウナ」にはミストサウナやウエットサウナもあり私は皆好きだが、本稿では高温低湿度の「ドライサウナ」を指す。

 

Saigottimo