地球温暖化の影響か日本でも猛暑日が頻出しているが、私が夏になると思い出すのは代々木「オリエンタル・ムーン」というジャズスポットでのヴォーカルセッションだ。ヴォーカルを始めた20年程前、マスターの城石さんから“夏に因んだ選曲”をして来てねと言われて「う~ん、どうしようか」と困った事である。

 

前年(1999年)10月にヴォーカルデビューしたばかりの私には、そもそもジャズのレパートリーが殆ど無い。夏らしいボサノヴァなど1曲も歌えないので、せめて大好きなビリー・ヴォーン楽団お得意のハワイアンから何か1曲歌えるようにしてくるとしても、もう1曲はジャズスタンダードが歌いたい

 

そこで思いついたのは連想ゲームのように曲紹介のMCで“自分が歌える曲を無理やり夏にこじつける”という方法だ。カミさんに“口先小手先男”と呼ばれている私としては、ここは何とか口先で誤魔化すしかないと思って辿り付いたのが、「グリーン・ドルフィン・ストリート(On Green Dolphin Street)」だった

 

 

この曲は1947年に製作されたイギリス映画の挿入歌だそうで、マイルス・デイビズの演奏(1958年)によってスタンダードになったそうで夏のイメージなどどこにもないが、「“夏”と言えば海、“海”と言えばイルカ、“イルカ”と言えば緑イルカですよね?」とか何とか苦しい曲紹介をしてこの曲に結び付けた。

 

♪On Green Dolphin Street…2000年8月27日、代々木「オリエンタル・ムーン」でのセッションにて♪

 

この曲はマイルス以外にビル・エバンス盤も有名で、ジャズスポットでよく演奏される定番曲だが、いつも譜面を渡すと「え、この曲、ヴァースがあるんですか?」と聞かれる。私がこの曲を知ったマーク・マーフィー盤(1961年)では、主旋律(コーラス)からでなくヴァース(前歌)から歌っているので私もヴァースから歌うのだ。

 

そして同日の2巡目はハワイアンに持ち込んで「ハワイの結婚の歌(Hawaiian Wedding Song)」を選曲。但しまだ“ジャズのお約束”も知らなかったので1コーラスで歌い終えるつもりだった。でも伴奏は2コーラス目に突入したので、仕方なくもう一度エンディングを歌うと、ピアニストがデュエット風に応じてくれるではないか。

 

♪Hawaiian Wedding Song…2000年8月27日、代々木「オリエンタル・ムーン」でのセッションにて♪

 

あとで知ったのだが、この時ピアノ伴奏をしてくれたのは、多くのお弟子さんを持つ日本を代表するプロのジャズシンガー、加藤アオイさんだった。恐らくこのセッションには遊びに来ていたのだろう。加藤さんはエルヴィス盤アンディ・ウィリアムス盤等でこの曲もご存じだったので女性パートを歌ってくれたのだろう

 

もう代々木「オリエンタル・ムーン」も無いし、私自身も積極的にヴォーカル・セッションに参加する機会も少なくなった。仮に季節に因んだ選曲縛りがあったとしても、この20年間でレパートリーも増えたし面の皮も厚くなったので困るという事も無くなった。という事で、8月の猛暑以外は全て“今は昔の物語”である。

 

Saigottimo