リンゴというと日本では青森や長野など“寒い地方で秋冬に収穫する果物”というイメージだが、開花時期は4~5月だし収穫期も品種によっては8月以降だから、真夏でもリンゴを収穫していることになる。ジャズスタンダード「リンゴの木の下で(In The Shade Of The Old Apple Tree)」の季節感も見直す必要があろう。

 

この曲はスタンダードの中でも古い曲だが「ラバーズ・コンチェルト」のようなクラシック由来(実はバッハのメヌエット)でも、「ダニー・ボーイ」のような民謡由来(曲はアイルランド・エアー)でもない。20世紀初頭の1905年、米国のHarry Williams & Egbert Van Alstyne作で、“ポピュラーソング最古のヒット曲”ではないだろうかと思う。

 

ヒット曲といってもその時代にはまだアナログレコードも蓄音機も普及していないのでレコードが売れる訳ではないし、ラジオ放送もまだ始まってないので電リク(ラジオ局への電話リクエスト)もない。では、どうやってヒットしたのかというと「楽譜の売上」だ。書籍のように楽譜がベストセラーになればヒット曲になるのである。

 

【1905年出版の楽譜(Wikipediaより)】

 

「○○という曲が良いらしいぞ」と聞くや書店で楽譜を買い、楽器が弾ける人に演奏してもらって「イイね!」となるとその演奏を聴いた人が口コミで伝えたり地元の新聞等で広まって、地域の書店に楽譜の注文が入る、というのが当時のヒット曲誕生のプロセスだったというから全米中でヒットするのに何年間もかかったらしい。

 

原詞(歌詞専門サイトご参照)にはリンゴの花(blossom)は出て来るが果実は出てこないので楽譜の表紙絵にあるように季節としては“春”だ。しかし、この歌は日本では柏木みのるの作詞で「深紅に燃ゆる想い、リンゴの実のように」と歌われており、リンゴの果実が出てくるので、ついつい“秋冬“を連想してしまう

 

昭和12年(1937年)にはディック・ミネが歌ってヒットしているので、年配の方々にとっては“日本の古い流行歌”としてお馴染みである。また1979年以降は舞台「上海バンスキング」でも代表的な往年の戦前ジャズ歌謡として吉田日出子が歌っているので、年配者のみならず戦後の若い世代にもよく知られている曲だ。

 

と私は思っていたのだが数年前、銀座の歌えるバーでこの曲を歌ったことがあり、20代と思しき若い女性ピアニストが伴奏してくれた。歌い終わり、さすが超スタンダードだけに伴奏も手慣れたものだなと思ったら「私、この曲、知りませんでした」と言われ絶句した。え?そうか、う~ん、もうそういう時代かぁ…。

 

♪リンゴの木の下で…2003年7月11日、渋谷SEABIRD第二金曜ライブにて♪ 

※この時は元・東京ユニオンの深田悟氏(tb.)が参加され、ディキシーランドスタイルのソロで大いに盛り上げてくれた。

 

Saigottimo