コロナ禍でかれこれ半年も歌えないため楽譜などを整理していたら懐かしい曲も出てきた。その一つが「Thou Swell(ゾウ・スウェル)」、一瞬「象、吸える」と聞こえる変わったタイトルの曲だが、名コンビ、ロジャース/ハート(リチャード・ロジャース作曲/ローレンツ・ハート作詞)の戦前(1927年)の正統派スタンダードである。
私がヴォーカルデビューしたばかりのSEABIRD一金(第一金曜日)ライブ等で何度か歌ったが最近は全く歌っておらず、レパートリーであることさえも忘れていた。当時の一金バンドのベーシスト、Big-Mこと松本勝之さんから「これは“ジャズの端唄小唄”だからさ、軽~く粋に歌ってね」と言われていたのを想い出した。
【ローレンツ•ハート】
このブログで私は「ヴォーカリストは歌詞が重要」だの「詞の意味を如何に表現するか」等について散々語り、シャンソン、カンツォーネ、ドゥアップ、カントリーなどの曲を採り上げてきた。でも、ジャズには意味のない歌詞もある。所謂「ジャズ・ノリでゴキゲンに歌えればいい」という曲もあることを、この曲で改めて思い出した。
これも随分ご無沙汰している私のレパートリーで、歌仲間の益田伸子さんのレパートリーでもある「Frim Fram Source(フリム・フラム・ソース)」というスタンダードもそうだ。様々な料理の名前が出て来て、これに韻を踏んだ名称の架空のソースをかけるという、歌っても聴いても楽しい曲だが、歌詞には余り意味がない。
さて、この「Thou Swell」は「コネチカットヤンキー」というミュージカルの挿入歌だそうで、英語の古語とスラングが入り混じっていている。「Thou(ゾウ)」は古語で「あなた」、「swell(スウェル)」はスラングで「素敵!」。詳細な歌詞は歌詞サイトに譲るが、翻訳するのもアホらしいほど意味の無い内容だ。
ちょっとナンチャッテ和訳を試みてみると・・・
---------------------------------
貴方は素敵!頭が良いし、優しいし、立派だし
キスして!可愛い~ 手も握ってよ!
そのお目々で可憐に見つめてどうするつもり?
ブッ飛んだ貴方を選んだ私の叫びを聞いて!
二人だけの甘~い小さな愛の巣を頂戴。
大きな土地なんか要らない、二部屋とキッチン
これで充分やっていけるって。
ああ、ホントに、貴方は素敵!
--------------------------------
ってな内容だからねーこれを真面目に表現しようってもねえ…。
だから、まさにBig-M氏の言うように、それこそジャズのリズムに乗せて軽快に、小唄端歌のノリで歌い流す、という感じで歌えるかどうか、という曲である。私は寄席が好きでよく新宿の「末廣亭」に行くが、色物(落語以外の芸)で「俗曲」と称して三味線のお姉様が歌う都々逸なんかが近いのかもしれない。
ロジャース/ハートの名曲だけあって、錚々たるジャズ・ヴォーカリストの音源がある。ビング・クロスビー、ナット・キング・コール、ナタリー・コール、フランク・シナトラ、ブロッサム・ディアリー、ジョー・ウィリアムズ、エラ・フィッツジェラルド、サラ・ヴォーン、とキリがないが、こんなに軽薄で意味のない内容の歌詞なのに、である。
これを軽~く、粋に歌えれば、それこそ「いよっ、ジャズ・ヴォーカリスト!」って感じなんだろうけどジャズはおろかナンチャッテ・ヴォーカリストの私だからそれは当然できない相談。でも折角ジャズ・スポットで歌わせてもらっている以上は継続的にチャレンジし、いつかはBig-M氏に「なかなかいいじゃない」と言わせたい。
ライブに復活した際の楽しみがまた一つ増えたとも言えよう。下記はかれこれ20年近く前の録音で、当時の和田敬三バンマス(アルトサックス)と橋本潔さん(ギター)の2トップの共演が懐かしい。ま、私のヴォーカルも、そこそこ頑張っているとは思うけどね…。
♪Thou Swell 2001年5月2日・渋谷「SEABIRD」一金ライブにて♪
Saigottimo