洋楽スタンダードの日本語タイトル(邦題)には、なかなか味わい深いものが多い。私が大好きなビリー・ヴォーン楽団の1961年のヒット曲「峠の幌馬車」の原題は「Wheels」で直訳すると「車輪」。ま、そんな感じの曲だが、ムード音楽らしい「峠の幌馬車」というタイトルを意識して聴くと、それっぽい情景も浮かんでくる。

 

スターダスト(Stardust)」「サテン・ドール(Satin Dall)」「トゥー・ヤング(Too Young)」など原題のままカタカナにすれば済むものもあるし、「身も心も(Body And Soul)」「嘘は罪(It's A Sin To Tell A Lie)」「降っても晴れても(Come Rain Or Come Shin)」など、シンプルに直訳してもそのまま邦題としてイケるものもある。

 

また戦前のものでは「月光値千金(Get Out And Get Under The Moon)」「捧ぐるは愛のみ(I Can't Give You Anything But Love)」など、漢文調や文語調の邦題が歌詞の内容とピタッとハマるものもある一方、単語2、3個程度ならまだしも文章になるとカタカナでは長過ぎるし日本語に直訳しても「?」というケースも多い。

 

トニー・ベネットの代表曲「I Left My Heart In SanFrancisco」には「霧のサンフランシスコ」「想い出のサンフランシスコ」「わが心のサンフランシスコ」など邦題が複数あるCBSソニーのトニー盤は「霧の~」、東芝のジュリー・ロンドン盤は「想い出の~」、ビクターのブレンダ・リー盤は「わが心の~」、これレコード会社の事情?(因みに「花のサンフランシスコ」は全く違う曲なのでお間違いなく)

 

思い出のたね(These Foolish Things (Remind Me Of You)」などは、直訳すると「それらのつまらない事柄(が私に貴方を想い出させる)」となる。本編の歌詞も「タバコの吸殻、航空便の半券、隣の部屋のピアノの音など、ふとした日常の何でもない出来事(Foolish Things)が、私に貴方のことを想い出させる」といった詩的な内容なので、「思い出のたね」とは実に上手いネーミングだと思う

 

こうした邦題の中で最近ドキッとしたのは「貴方と夜と音楽と(You And The Night And The Music)」だ。これは一見「夜も昼も(Night And Day)」のように難無く直訳出来ているように思えるが違う。定冠詞(The)が付いているからだ。つまり、正しく直訳するなら「貴方とあの夜とあの音楽と」になる。これ全然意味違いますよね!

 

定冠詞(The)が付いていない「You And Night And Music」だったら「(ワタシってぇ)貴方と夜と音楽(が好きなのよねー)」ってな軽い感じになるのだが、定冠詞(The)があることで事情は一変!「貴方と、あの夜と、あの音楽(勿論、忘れたなんて言わないわよね!)」という、スッゲー重い感じになってくるじゃないの。

 

そう考えながら改めて原詞を見ていくと・・・おおー怖ッ!

 

Saigottimo