ステージパフォーマーの世界では「歌は語れ、セリフは歌え」という言葉がある。

歌い手はメロディーやリズムに乗ってただ歌えばいいのではなく歌詞の内容を「語れ」なければいけない、そして、役者はセリフをただしゃべればいいのではなく自分なりの節回しで「歌え」なければいけない、ということなのだろう。


スタンダード・ナンバーによくあるバース(前歌)などはまさにルバート(自由なテンポ)で「語る」わけだし、バースがない歌でも私はバース代わりに訳詞を読んでから歌に入ることがあり、もともと落語や講談、ラジオドラマや朗読などが好きで、「語る」こと自体にも興味はあった。

先月まで1年余にわたってナビゲーターを務めさせて戴いた表参道・jazzbirdのセッションでは様々な勉強の機会やご縁を頂戴したが、なかでも得難かったのは朗読家の前尾津也子さんと出会えたことだ。
前尾さんがセッションでピアノをバックに詩などを朗読するのを聴いて、とても新鮮な感動を覚え、その後、前尾さんが出演される朗読会を聴きに行き、様々な人の朗読を聴かせてもらったりするうちに自分もやってみたくなり、前尾さんが参加されている絵本を読み聞かせるボランティアを紹介してもらった。
Saigottimoのブログ
場所はJR高円寺駅のそばにある「座・高円寺」(正式名称は杉並区立杉並芸術会館 http://za-koenji.jp/home/index.php )。ここの2Fに「アンリ・ファーブル」(http://www.cafe-fabre.net/top/ )というオープンカフェがあり、ここには常時200冊以上の絵本が置いてあって誰でも自由に読むことができるのだが、毎週土曜日の朝10時半~12時の時間帯に利用を申し込むと、参加料500円でドリンクとお菓子のセットが付き、「本読み案内人」と呼ばれる登録ボランティアが子供達一人ひとりに好きな絵本を好きなだけ読んでくれる「絵本の旅@カフェ」(http://ehonnotabi.seesaa.net/ )というイベントがある。
Saigottimoのブログ
本読み案内人には私のような会社員や主婦も居ればプロのナレーターや前尾さんのような朗読家、そして杉並区は劇団が多いせいか役者さんも結構多い。
子供の反応は残酷なほど正直なので役者さんにとっては芝居の修行にもなっているようである。
私も6月に登録させてもらってこれまでに「いないいないばあ」など幼児用の遊び絵本から「長靴をはいた猫」などしっかりした物語本まで、いろんな絵本を様々な年齢のお子さんに読ませてもらったが、幾つかの発見があった。
Saigottimoのブログ
Saigottimoのブログ
Saigottimoのブログ
その一つは我々ヴォーカリストがセッションで譜面を渡して初見で伴奏してくれるミュージシャンの心境を疑似体験できたことだ。
つまり子供が「これ、読んで!」と持ってくる絵本の殆どは大抵はじめて読むわけでどんなストーリーかも分からないが、これはどんなメロディーか分からないまま演奏する初見の楽譜のようなものだ。
「・・・おひさまは、こう言いました」でページが終わっていると、平静を装ってページをめくりながらも「一体どうなるの?」と内心はドキドキしながら何とか最後まで読み進め「ということで、おしまい」となる。
これは知らない曲を何とかエンディングまで伴奏し終えるミュージシャンの心境と同じではないかと気が付いたのだ。


絵本読みボランティアを体験することでセッションミュージシャンの気持ちを知ることになるとは思わなかったが、改めて伴奏をしてくれるミュージシャンの難しさ、有難さを実感させられた。

ミュージシャンの皆さま、いつもありがとうございます。

お世話になっているヴォーカリストの端くれとして御礼申し上げます。


Saigottimo