私が一番好きな音楽は、1950年代から60年代にかけて世界中で、そして特に日本で愛されたビリー・ヴォーン楽団のサウンドで、ジャンルとしてはいわゆる「ムード音楽」である。
「ムード音楽」はインストゥルメンタル(演奏のみ)のBGM(バック・グラウンド・ミュージック)であり、ヴォーカルとは対極にある音楽だが、私は楽器が出来ないのでjazzや童謡・唱歌などを歌いながらも、求めている音楽の原点と目標は常にそこにある。
つまり、通常は「歌モノ」と呼ばれるヴォーカル入りの音楽は、歌い手の想いや歌詞をメッセージとして伝える音楽でありBGMのように聴き流すものではないのだが、私は自分の歌を「ムード音楽としてBGMのようにも聴いて欲しい」のである。
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2013年6月12日(水)、休暇を取って福島県いわき市にある広野町仮設住宅でのマッサージ・ボランティアに同行した。
今回同行したボランティア・グループ「手当ての輪」主催者の斉藤京子さんは、3.11の大震災直後に避難所を訪れてマッサージ・ボランティアのムーブメントを起こし、それから2年以上経った今でも毎月、被災地を訪問してマッサージ・ボランティアを継続しているカリスマ・アロマセラピストだ。
私は縁あって斉藤さんと知り合い、彼女の紹介により昨年8月に「Nostal♪sic」という童謡ユニットで音楽ボランティアとしてここに訪問させてもらった。
その時以来、お互い「いつかマッサージと音楽のコラボをしましょう」と言っていたが、訪問日が平日ということもあってなかなかバンドメンバーの都合がつかなかった。
そこで今回、まず私一人が自動車送迎ボランティアを兼ねて初のコラボ企画に挑戦してみることにした。
そしてその狙いとしては、私の歌をマッサージを受けている人にとってのBGMとして、もっと今風に言えばヒーリング・ミュージックのように受け止めてもらおうという挑戦である。

朝7時、JR東浦和駅で3人のセラピスト(斉藤さん、愛さん、なつこさん)を乗せた愛車レガシイは濃い雨霧の中を一路、福島へと向かった。
常磐自動車道の「いわき湯本I.C」を降り10時過ぎに到着、アロマ隊はすぐにマットを敷いてマッサージを開始する。
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この日は市内の仮設集会場を巡回してコーヒーを振る舞うハルミさんという女性による「カフェ・ボランティア」も重なったため、マッサージの前後に特設ハルミ・カフェで紙コップのコーヒーを味わいながら歓談でき、またマッサージをしている間も音楽を楽しめるというトリプルコラボレーションとなった。
私は部屋の隅で「Nostal♪sic」で使っているアンプスピーカー(Roland MOVILE CUBE)とi-POD、マイク、マイクスタンドなどを組み立ててDJコーナーを設営した。

最初からいきなりマイクて歌ったら注目されてBGM的にはならないので、まずはi-PODから音楽を流すことにした。
最初の曲に選んだのは、歌の無い曲の方がBGMになり易いため、ウクレレの名手ハーブオオタの「Together Again」というアルバムから軽快なナンバー「サンバ・ドーロ」。
マイクミキシングでDJ風に曲紹介などをする。
曲がかかると早速ハルミさんやカフェのお客様から「ああ、音楽があると違うねえ。別の空間みたい」「ボサノヴァはいいですねえ」の声が上がる。ボサノヴァもサンバも同じ軽快な16ビートだから曇り模様のアンニュイな朝の雰囲気にもマッチするのだろう。
特設ハルミ・カフェに集う人達が音楽に聴き入ることなくおしゃべりを始める。
「お、いいぞいいぞ、BGMになってるなってる」
ちょうどラジオで曲を流しているような雰囲気になっているのだろう。
2曲目からは歌モノにして、ボサノヴァの女王、小野リサの1st.アルバムから、この日のためのようなタイトルの「水曜日の朝」をかけた。
カフェの人達のおしゃべりは続いている。
「よし、よし」
そして3曲目からいよいよ自分の歌を入れるが、まずは同アルバムの「ルック・フォー・ア・スター(星を求めて)」をマイクミキシングで小野リサとの“なんちゃってデュエット”にして聴いてもらう。
もし曲が終わった時に拍手が起きたらBGM化は失敗ということになる。
できるだけ私がナマで歌っていることを感じさせないように自然な感じで歌ったのでカフェで懇談している人達の会話は止まず、曲が終わっても拍手が来ない。
「やったー!」(拍手が来ないで喜ぶというのもヘンな感じだが…)
そして4曲目以降は洋物カラオケに乗せて「酒とバラの日々」「ムーン・リヴァー」「ブルー・レディーに赤いバラ」など、今度は私がソロで歌うのだが、これまでの流れが出来ているので、皆自然におしゃべりしながら聴き流してくれている。
「いいぞ、いいぞ」

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洋物カラオケが10曲で尽きたので、ビリー・ヴォーン楽団の「真珠貝の唄」をかけたところ、マッサージを受けている年配の男性がハミングで口ずさみ始め、終わった途端、私に向かって「これ、ビリーボーンだな」と言うではないか。
「そうです、そうです!良くお分かりですね」「うん、特徴があるからなぁ…」
やはりこの世代には絶大な人気がある楽団なんだなあと実感するとともに“日本一のビリーヴォーンファン”を自認する私としては、実にうれしい体験だった。
そしてここから遂にア・カペラ(無伴奏)に突入する。
まず同じ「真珠貝の唄」、そしてハワイアンの「アイル・リメンバー・ユー」、そして「ラブ・ミー・テンダー」「スマイル」「ソラメンテ・ウナ・ベス」など次々と約20曲ほどをア・カペラで歌った。
途中、少し拍手を頂戴したりしたものの、曲間を縮めて拍手する暇を無くしたりして、なんとかア・カペラでもBGM化することが出来た!

途中に短いお弁当休憩を挟んで14時まで、アロマ隊はせっせとマッサージを続け、ハルミさんはコーヒーメーカーでコーヒーを淹れ、私は次々とBGMとして絶え間なく音楽を提供し、こうして「マッサージとカフェと音楽の三連コラボ」は皆さんに楽しんで戴くことが出来たと思う。
最後はタヒチのお別れの曲「Now Is The Hour(お別れの時)」をビリー・ヴォーン楽団の演奏にマイク・ミキシングで歌い、そして同楽団演奏の「蛍の光」をかけて店仕舞い。


入居者の方々からは笑顔で送られ、お土産に自作の豆菓子やトマトなどを頂戴し、帰途は高速をスイスイ駆け抜けて17時半にはJR東浦和駅に無事到着。我々4人にとっては、多くの人達の笑い声や笑顔からたくさんの元気を戴いた一日だった。
そしてヴォーカリストの私にとっては「ア・カペラをBGM化する」という意欲的な挑戦が成就した貴重な体験となった。


Saigottimo