2012年8月25日(土)、福島県いわき市中央台高久(たかく)にある広野町仮設住宅集会場で、我々童謡ユニット「Nostal♪sic」の公演をさせて戴いた。


手当の輪 」のメンバーで「椿フラガール 」の一員でもあるlimonさん から読売新聞に8/14から5回連載で「広野町の帰還」という記事が掲載されていることを教えて戴き、我々メンバーもこの記事 を読んだ。

記事を読んで、地震や津波が去っても原発という特殊事情を抱えた人々がどんな気持ちで過ごしているのかと考えたが我々にはとても想像しきれないし、むしろ分かったような気持ちになる事は避けたいと改めて思った。


東京からクルマで約3時間、いわき公園に隣接する山並みが美しい高台に仮設住宅は建てられていた。

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早めに出発したのでこの日は午前中に到着したが、12時までは同集会場で「折り紙教室」が開催されていたので、近くのメガストアで昼食を済ませて12時過ぎにお邪魔するとスタッフの来山さんらが笑顔で迎えてくれた。

ただし私がバンドのチラシをお送りするのをうっかり失念していたため、今日のライブの告知がされていない。

「あまり人が集まらないかも知れませんが・・・」と申し訳なさそうに言われるので、「いえいえ、いいんです。お一人でもいらしたらやりますので」と恐縮してしまう。

我々がゴソゴソ会場のセッティングをしている間、どうやらスタッフの方々がわざわざ皆さんを呼びに行ってくださっていたようだ。
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20席の椅子と歌詞カードを並べ、開演時間までの間、リハ代わりに演目曲ではない「ダイアナ」や「ルート66」などを歌っていると、1人、また1人とお客さんが入って来られ、最終的には19人もの方が来て下さったのでとても嬉しかった。

特にチラシを送り忘れた私はホッと胸を撫で下ろした。


この日のプログラムは次のような3部構成とした。

第1部と第3部は歌詞カードを見て一緒に歌って戴くという趣向である。

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【第1部】一緒に歌おう夏の童謡
夏の思い出
夏は来ぬ
われは海の子

椰子の実
浜千鳥
浜辺の歌

【第2部】みなさんに届けたい歌
この広い野原いっぱい

時代
ロンドンデリーの歌(ダニー・ボーイ)
ムーンリバー
見上げてごらん夜の星を
翼をください

【第3部】たいせつな故郷
故郷の人々
埴生の宿
この道
ばあや訪ねて
旅愁
故郷
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通常、我々が高齢者施設等で公演をする場合は、30分間前後という制約を頂戴することが殆どだが、今回は「13時から15時までの間、自由にお使いください」ということだったので、かなり曲数を増やして45分~60分程度は可能なプログラムとした。

内容も、小さい頃から「コロムビア音羽ゆりかご会」で童謡を歌ってきたマリースK(女性vo.)の得意とする童謡・唱歌を中心にしながらも、フォークバンド出身のJOEJII (KB、男性vo.)が好きなフォークソング、私が得意な洋楽(特にオールディーズ)など、メンバーそれぞれの持ち味を総動員したプログラムにした。


最初の挨拶で「我々は、いつもマッサージボランティアでここにいらしている『手当の輪 』の斉藤京子さん のご紹介で参りました」と言った途端、「ああ、そうかい。うん、いつもお世話になってるから」という声があちこちで上がり、皆さんの表情が急にパッと明るくなって一気にライブ会場の雰囲気が出来上がってしまった。

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それからの1時間半は、思えばあっという間の出来事だったようにも思える。

昔から子供達によって歌い継がれてきた美しい歌、好きな歌を、人生の大先輩達が、我々と一緒になって楽しく歌ってくれる。

とても幸せな時間だった。

マリースKの十八番である「ばあや訪ねて 」を知っている方が居た。

私も彼女から教わるまで知らなかったが、とても品の良い、趣がある歌なのだが知っている人は少ない。

「これね、学芸会で歌ったのよ」「あ、そうなんですか」

彼女と一緒に歌ってもらった後に「あ、これ、私昔歌った。思い出した」と言った人も居た。


普段、カラオケで歌うことはあっても、みんなで合唱する機会は「中学校以来無かったなー」「いやあ、こういう歌は60年ぶりに歌ったわ!」「70年ぶりよ」「もう懐かしくて今涙が出てきました」などと感慨深げに喜んで下さる方も多く、我々も感動してしまった。

最初は恐る恐る小さい声で口ずさむように歌っていた皆さんも一緒に歌っていくうちにだんだん大きな声で歌うようになっていった。

第3部まで終わって1時間ちょっと経っていたが、その時点で皆さんの顔を見ると「まだ歌いたい!」というご様子だった。

「では、アンコールタイムです!もう一度歌いたい歌はありませんか?」と水を向けると「じゃ『夏の思い出』!」「いいですね、じゃあ、もう一回歌いましょう」歌いだすと最初の時とは別人の集団のようだ。

「次は?」「『海』!」そして「浜千鳥」「旅愁」「故郷」と、何曲かtake2を演り、もう、最後の方はすっかり合唱隊になっていた。
14時半になったので「では、最後に『上を向いて歩こう』を歌っておしまいにしましょう!」


我々「Nostal♪sic」として、これまで最長の90分間のステージだったが、来場者の方々と一体となった点でも最高のステージだった。

終演時に皆さんをお見送りした際、口々に「いやあ、斉藤さんには本当にお世話になっていて・・・」と、笑顔で話しかけて下さるお客様が多かった。

それにつけても「手当の輪 」そして斉藤京子さん の影響力は絶大で、仮設住宅で暮らす方々の大きな支えになっているのだということを実感させられた。


「あぁ、そうだ、ナイロンたわし 、持ってくっからちょっと待ってな」と、数人の方がわざわざ我々のためにご自身で編んだナイロンたわし をメンバーに2個ずつと刺繍飾りの鈴を1個ずつプレゼントとして持って来てくださった。

なんて心優しい、温かい方々なんだろう。
メンバー一同はとても感激して帰途に着いた。

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どんなボランティアでもそうだが、参加された方の多くが「逆に自分達の方こそ多くのことをして戴いた」という感想を持つものだが、今回は本当に「多くの事を頂戴した」という思いでいっぱいになった。


人に対する愛情の深さ、人としての温もり・・・何からどう書いていいのか分からないが、ご自分の家や土地がありながら仮設住宅での暮らしを余儀なくされている方々から我々がして戴いたこと、頂戴したものはとても大きく、重く、温かく、我々を包んでくれたということしか、今は書けない。

皆さん、どうもありがとうございました!

Saigottimo