約束手形や小切手など、紙の有価証券は将来的に廃止される予定です。これまで企業間取引を支えてきた決済手段が、なぜ廃止に向かっているのでしょうか。現在の約束手形の概要と、そのデメリットを解消するために推奨されている新たな決済手段について説明します。

明治時代から今も続く決済手段  しかし政府は廃止する方針を発表

   約束手形において、発行する側を『振出人』、受け取る側を『受取人』といいます。約束手形は、振出人が一定の期日までに受取人に所定の金額を支払うことを約束する決済手段で、日本では明治時代に普及しました。企業間の取引で行われる現金決済の場合は、商品の受け渡し後の約1~2カ月以内に代金を支払うのが一般的ですが、約束手形であれば、現金決済よりも遅い期日に設定することができます。
中小企業庁の資料によれば、約束手形の支払いサイトの平均値は110日となっています。このように、約束手形による決済は、代金の支払い期限を現金決済よりも伸ばすことができるため、振出人となる発注側の企業は資金繰りの負担が減ります。
 約束手形を利用するには、振出人は銀行に当座預金口座を開設します。そして、銀行から交付を受けた約束手形を受取人に発行することで、口座に残高がなくても高額な取引が可能になります。その後、支払期日までに口座に所定の金額を振り込みます。
一方、受取人は支払期日に約束手形を銀行に提示することで、振出人の口座から決済日に所定の金額を受け取れるという仕組みです。
 資金調達や決済手段の多様化などにより、最盛期だった1990年代と比べると減少している約束手形ですが、現在も高額な資材費や原材料費などが発生する製造業や建設業などで主に利用されています。
しかし、政府は2026年を目処に約束手形と小切手を廃止する方針を打ち出しており、メガバンクも2024年1月から当座預金口座の新規開設者を対象に、紙の手形や小切手の発行停止を発表しました。
また、既存顧客に対しても2027年4月以降を期日とする手形や小切手の受付停止を発表しています。

リスクや負担を軽減するために電子化が推奨されている

   銀行が取り扱いを止めるしまうと、今後は約束手形での取引ができなくなります。長年の慣習だった小切手や約束手形などが廃止されようとしている理由の一つに、受取人の負担があります。受取人の企業にしてみれば、商品を納品したにもかかわらず、長期間に渡って代金が入ってこないことになります。
さらに、振出人が期日までに口座に入金できない場合は、約束手形を銀行に持参しても、受取人は支払いを受けることができません。約束手形が現金化できないことを『不渡り』といいます。そのほかに、受取人が取立手数料や割引料などを負担するなど、受取人のデメリットや振出人に有利な約束手形の取引慣行はかねてから問題視されていました。また、支払期日までに紙の約束手形を紛失しないように保管しておかなければならず、こうしたリスクや事務負担も廃止に向かっている理由です。
 

 現在、経済産業省や全国銀行協会では、紙の約束手形の代替手段として、ネット上で取引できる『でんさい』や『電手決済サービス(以下、電手)』などの利用を推奨しています。どちらも約束手形など紙の手形を電子化したもので、紙の手形と同様に利用でき、ペーパーレス化によってコストや事務負担も軽くなりました。また、紙の約束手形は現金化するために受取人が自社の取引銀行に『取立依頼』をする必要がありましたが、でんさいや電手は支払期日に自動入金されるため、この取立依頼も不要になります。
 紙の約束手形はいずれ廃止されることが決定しています。事務負担の軽減や資金繰りの円滑化など、振出人と受取人の双方にメリットのある電子化された約束手形の利用を検討しましょう。