2023年4月から、金融機関の慣行となっていた『経営者保証』に制限が設けられました。経営者保証は、中小企業の経営者本人が銀行からの借入時に法人の連帯保証人となっていましたが、その見直しが進められました。

今回はこの見直しの経緯やポイントを解説します。

見直しが進められてきた経営者保証とその問題点
 

 『経営者保証』とは、中小企業が金融機関から融資を受ける際に、経営者個人が連帯保証人となるものです。金融機関にとっては貸し倒れのリスクを抑えられ、経営者にとっては融資を受けやすくなるというメリットがあるため、長年、慣習化されてきました。中小企業庁の調べによると2020年度時点で、『すべての借り入れ』に対して、経営者保証を提供していると答えた中小企業は44%、『借り入れの一部』に対して提供していると答えたのは36%と、中小企業の約8割で経営者保証が利用されています。
 では、その問題点はどこにあるのでしょうか。経営者保証は企業が倒産した際、経営者個人に企業の借入金返済を求めるため、多額の借入金を返済できず自己破産せざるを得ないケースもあります。景気が悪化した近年、経営者にとっては経営者保証のデメリットが増大したといえるでしょう。自己破産によって再チャレンジがむずかしくなるほか、借り換え手続きが煩雑で、スムーズな事業継承や早めの事業再生を阻害しており、創業や新たな事業展開をためらう大きな要因となっているからです。

 

 このような状況を鑑み、2014年2月から『経営者保証に関するガイドライン』の運用が開始されました。これは経営者保証なしの融資拡大を後押しすることを目的に、金融庁、日本商工会議所などが官民一体でまとめたもので、金融機関に経営者保証が不要となる条件の明示を求めたほか、経営者が早期の事業再生や廃業を決断した場合に一定の生活費を残し華美でない自宅に住み続けられる可能性などが示されました。合わせて経営者保証に代わる個人の保証を求めない各種保証制度の創設など、環境整備も進められてきました。

 

起業、事業展開、事業継承……期待される中小企業の活性化

 経営者保証に関する取り組みをさらに進めるため、2023年4月に『中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針』が改正されました。それにより、金融機関が経営者保証を求める際に、それが必要となる理由の説明と、経営者保証を解除するための改善点などを明示のうえ、説明内容を書面などで保存し金融庁へ報告することが義務化されました。

これらの措置により、今後は『経営者保証に関するガイドライン』に示された以下の3要件を満たしている企業に対して、経営者保証なしで融資を行う金融機関が増えることが期待されています。
●資産の所有やお金のやりとりに関して、法人と経 営者が明確に区分・分離されている
●財務基盤が強化されており、法人のみの資産や 収益力で返済が可能である
●金融機関に対し、適時適切に財務情報が開示されている
 

また、この改革によって、現在経営者保証をつけている融資についても、保証を外せる可能性が高まります。融資や経営者保証について疑問がある方は専門家にも相談しながら、状況を確認してはいかがでしょうか。