第30回埼玉社会保障学校 30周年記念シンポジウム | 労働組合ってなにするところ?

労働組合ってなにするところ?

2008年3月から2011年3月まで、労働組合専従として活動しました。
現在は現場に戻って医療労働者の端くれとして働きつつ、労働組合の活動も行なっています。

あまり知られていない労働組合の真の姿(!?)を伝えていきたいと思います。

2023年は、逆転の年です。

ロシアのウクライナ侵攻を言い訳とした軍拡とそれに伴う防衛費倍増を許さず、社会保障の削減や負担増、増税の方針を転換させ、不十分なコロナ対策を見直し、疲弊している医療従事者・介護従事者を支援し、人員増のための施策を行ない、憲法改悪を阻止し、安心して働ける職場をつくるため、行動し、声を上げることを提起します。

そして、相次ぐ自然災害の被災者の皆さんにお見舞いを申し上げます。一刻も早く生活が再建されることをお祈り致します。

 

 

9月10日、第30回埼玉社会保障学校に参加しました。

今回は後半の30周年記念シンポジウムの概要をまとめます。

 

 

シンポジウムのコーディネーターは埼玉県社会保障推進協議会(以下、埼玉社保協)の柴田泰彦会長でした。

パネリストのお一人目は、埼玉社保協の立ち上げメンバーで前副会長の原冨悟さんでした。

原冨さんは、30年前に埼玉社保協を立ち上げた背景から戦後の社会保障を考えると述べました。

第一に、戦後の社会保障運動についてです。戦後は、暮らしと戦争政策と憲法をめぐるせめぎ合いが起こり、今もそれが続いているそうです。

1992年、埼玉県では畑革新県政が崩壊して保守県政となり、「憲法をくらいに生かそう」と書かれた垂れ幕が県庁からはずされるという情報が入り、原冨さんたちは県庁前に駆け付け、「憲法を守れの心一つに」という横断幕を掲げたそうです。「再び憲法の垂れ幕を掲げるぞ」という決意表明でした。そして、埼玉社保協準備会を立ち上げたそうです。

畑革新県政は、県民参加型の県政であり、民主的総合政策審議会が開かれ、障害者福祉や学童が充実し、県内でくらしと福祉を守る運動体「くらふく」がつくられ、国民医療を守る共同行動実行委員会もつくられたそうです。しかし、審議会は自民党中心の県議会が廃止してしまったそうです。

1993年6月に埼玉社保協が結成されたそうです。革新県政運動時代に育てられた運動体が集まって、いろいろ話し合って運動体をつなぎ、たくさんの人たちが力を合わせたそうです。

 

1954年、アメリカの要求で社会保障予算を8%カットし、防衛費が増額されたそうです。

それに対して、MSA予算反対運動が起こり、社会保障を守る会ができ、MSA予算は撤回されたそうです。

1958年、朝日訴訟支援をきっかけに社会保障推進協議会が結成されたそうです。朝日訴訟によって、社会保障は憲法で保障されている権利だという認識が広がっていたそうです。

しかし、1980年の第二臨調で、社会保障は削減へと転換され、1984年には健保本人10割給付が廃止されてしまったそうです。

また、1980年の社公合意によって運動体の統一が弱まり、各分野の運動が再構成されたそうです。1984年に健保改悪反対中央連絡会がつくられ、1989年には国民医療を守る共同行動が結成されたそうです。

1989年に総評が解体され、社保協の事務局がなくなってしまったそうです。

しかし、1989年に全労連が結成され、中央社会保障推進協議会が再出発したそうです。その後、各地で社保協の再建・結成が行なわれ、2000年には47都道府県全てで社保協ができたそうです。

 

パネリストのお二人目は、全労連議長の小畑雅子さんでした。

小畑さんは「ジェンダー平等と社会保障」というテーマでお話ししてくださいました。

雑誌『社会保障』の座談会で、全労連青年部の「青年アンケート」が取り上げられたそうです。そのアンケートによると、7割超が「現在の手取りでは生活にゆとりがない」と答えており、賃上げがされたらやりたいことという問いに対して、貯金がダントツ一位で、二位は生活費だったそうです。この結果には青年部も驚いたということでした。

その背景として、自己責任論、将来不安、低すぎる日本の賃金などがあるとあげられました。

日本の賃金は16ヶ月連続減少しており、その背景には正規雇用から非正規雇用への流れがあると指摘しました。非正規比率は、男性では21.8%、女性では53.6%となっているそうです。

中間層が消え、貧困層が拡大し、コロナ禍と物価高騰が起こって大変なことになっています。

8月18日の東京新聞では、「節約のためにフードバンクをおとずれる人が増えている」、「何か起きた時のために蓄えがなければ不安でならない」といったことが書かれているそうです。

全労連の運動は、全国一律最低賃金引き上げ、男女賃金格差の解消を求めてきたそうです。

本来は、憲法25条で全ての国民に生存権が保障されているはずですが、しかし、あまりにも社会保障が貧弱なため、自分で何とかしないとと思わされていると指摘しました。

年金への不安は、若い人たちが自分の時には年金そのものがなくなっているのではないかと思うほどになっているそうです。

女性の低年金について、『聞こえていますか? 今、ここにある窮状』という報告集がつくられたそうです。それによると、世帯単位の年金制度なので、女性単身の年金では暮らせないそうです。女性の低賃金を背景とした女性の低年金は、約30年働いても月10万円程度だそうです。

全労連と年金者組合では、合同の年金要求運動を行なっているそうです。フランスでは、年金引き下げへの抗議のデモ、ストライキが行なわれているそうです。CGT(フランス労働総同盟)との懇談で聴いたことによると、8つのナショナルセンターが50年ぶりに共闘し、5つの学生組織も加わっているそうです。

フランスでも若者は年金がもらえなくなる不安を持っていますが、今、2年年金受給年齢を延ばすということは、若者の問題でもあると述べているそうです。若者のプラカードには、「親の年金のために私たちが闘えなければ、誰が私たちの年金のために闘うのか」ということが書かれていたそうです。

誰もが、一人ひとりが生活できる社会保障にするために、「男性稼ぎ主モデル」によって、女性は補助的な労働である、賃金は安くてよいとされているのが問題であり、格差を乗り越えるには個人の尊厳が守られる制度への転換が必要だと述べました。

 

三人目のパネリストは、記念講演をしてくださった濱畑芳和先生でした。

濱畑先生は、ジェンダー平等は制度がつくられる時には差を設けることが妥当で、徐々に和える報告へと変わってきていると述べました。戦後、どこの国でも「男性稼ぎ主モデル」で制度を構築したそうです。海外では格差是正が行なわれたところがありますが、日本では残っていると指摘しました。問題は働き方であり、働かせ方にあると述べました。それをどれだけ労働運動が意識してきたかと問いかけました。非正規労働が増加したのは男女雇用機会均等法がつくられてからであり、雇用形態別に格差を温存してきたと指摘しました。パート労働は家計補助的であり、低賃金でいいとされてきましたが、男性もそれで生計を立てなければならなくなり、介護制度はそれを前提に報酬が抑えられていると述べ、ここを変えなければならないと指摘しました。

 

原冨さんは、2つのテーマがあると述べました。

ひとつは、憲法を掘り下げる必要があるということです。たとえば、社会保障が悪くなる時には同時進行で改憲策動があるそうです。

MSA予算の時は、自衛隊が発足し、1980年の中曽根臨調の時は、「日本を不沈空母のように強力に防衛する」(1983年)、「行政改革でお座敷をきれいにして立派な憲法を安置する」とし、社会保障削減と改憲策動が同時に起こったそうです。

2012年には社会保障改革推進法がつくられ、安倍改憲が着々と進められ、2022年には、安保3文書と43兆円の大軍拡が進められたと指摘しました。

憲法13条には、個人の尊重と幸福追求権が定められていますが、13条、25条、9条を改めて掘り下げた議論をすべきだと述べました。

分断を乗り越えて県民運動を広げ、野党共闘を促進するには、「ラディカルな批判力」が必要だと述べました。

保険料を払っているのに、なぜ窓口でまたお金を払うのかと問いかけました。かつては健保本人の窓口負担はただでした。

根本的な疑問をもう一度議論すべきであり、昔で言えば井戸端会議のようなことをすることを提起しました。

 

小畑さんは、ジェンダー平等実現のためには、一人ひとりの生活を支える制度が必要だと述べました。

女性の労働は家計補助であり、低賃金で短期間でよいとされてきましたが、今や男性も非正規で低賃金となっており、年収の壁が賃上げの足かせになっていると指摘しました。東京新聞が特集を組んだそうです。

政府は、女性を労働市場に引き出すために年収の壁を変えようとしていますが、そうではなく、ジェンダーの問題として考えるべきだと述べました。

労働総研の「最低賃金が全国一律になったら、生活はどう変化し、経済はどう変わるか」で、中澤秀一静岡県立大学准教授は、「男女間格差を是正するためには、最低賃金制度だけでなく、税・社会保障制度を含めた社会制度をトータルで変える視点も必要である」としているそうです。後藤道夫都留文科大学名誉教授は、「103万円の壁」と「130万円の壁」といった被扶養者の制度のため、最低賃金の引き上げは細切れ労働を増やしたにすぎず、ただ壁を無くすだけでは収入の逆転が起きると指摘しました。

2023年に最低賃金は8都府県で1,000円以上になりましたが、どこに住んでいても1,500円は必要だと述べました。

非課税限度額の抜本的な引き上げと最低保障年金制度など、トータルな改革が必要だと指摘しました。

 

濱畑先生は、憲法13条は「すべて国民は個人として尊重される」としており、「共同体があって、個人がある」と考える保守政権の人たちは嫌いで、変な方向へ議論を持って行くと述べました。

社会保障の個人単位化をどう考えるかですが、メリットとデメリットがあり、「家族は必要ないのか」、「支え合いは必要ないのか」という議論になりかねないと指摘しました。一定の集団によってつくられてきたのが社会保障と言う側面があると述べました。

女性の自立という観念からの要求になっていくのではないかと指摘し、雇用差別、賃金差別をどう是正するか、大きな議論が必要だと述べました。

憲法14条、24条には平等原則が定められていますが、日本は平等ではなく、ジェンダー平等ではかなり下位だと指摘しました。そして、そこへ安住する人もいて、われわれの意識改革も必要だと指摘しました。

103万円の壁、130万円の壁については、壁に合わせて労働時間を減らすことになり、労働時間調整がされると産業界も困るので、政府側も議論しているそうです。しかし、政府は就業調整も限界が来ると読んでおり、短時間労働を減らそうとしているそうです。

妙なものが出てくるのを監視していないと、社会保障逃れが制限なく出てくると指摘しました。

そして、税金は財務省マターなので、厚労省との交渉では変えられず、財務省とも闘う必要があると指摘しました。

戦争と社会保障、「大砲かバターか」という問題については、パイは決まっているので切り方をどうするかの問題だと述べました。今回も43兆円の軍拡を先に進め、社会保障をどこで削るかは少しずつ進めようとしていると指摘しました。

ステルス式で、復興財源の所得税引き上げを10年延ばし、その分を軍拡へ回し、酒税やたばこ税へ広げていこうとしているそうです。

わからないところ、文句を言われにくいところから財源をまわそうとしており、税金の学習も合わせてやっていく必要があると述べました。

消費税は、人件費には消費税がのらないが、派遣労働にはのるので、控除できるそうです。そのため、直接雇用するより派遣労働の方が有利になっていると指摘しました。

 

コーディネーターの柴田さんは、非課税限度額とは、その額で暮らせということだが、103万円で暮らせるかと問いかけしました。

ステルス式は、国民一人ひとりには見えず、メディアがやらなければならないと述べました。メディアが何を報道し、何を報道しないかで私たちの気分は左右されると指摘しました。

私たちの仲間ではない人たちに話を広げていく工夫をすることが、これからの社保協の課題だと述べました。

 

以上で報告を終わります。