学習会「自治体再編と、これからの社会保障を考える…「全世代型社会保障」の目指す方向と対抗軸…」 | 労働組合ってなにするところ?

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2008年3月から2011年3月まで、労働組合専従として活動しました。
現在は現場に戻って医療労働者の端くれとして働きつつ、労働組合の活動も行なっています。

あまり知られていない労働組合の真の姿(!?)を伝えていきたいと思います。

まず、台風と水害の被害に遭われた皆さんにお見舞い申し上げます。

 

2019年は、正念場の年です。

憲法9条を中心とする憲法改悪を断念させ、沖縄の辺野古新基地建設をストップさせ、「自己責任論」を背景に進行し続ける社会保障切り下げに歯止めをかけ、特定秘密保護法・戦争法・共謀罪法などの悪法の廃止を求め、「働き方改革」一括法に含まれている毒を制し、よい部分を生かし、労働者をはじめとする99%の人たちのいのちと健康と働く権利を守るために行動し、憲法が活きる社会となることを目指し、声を上げ続けることを提起します。

 

 

10月31日、職場で行なわれた学習会の記録です。

テーマは、「自治体再編と、これからの社会保障を考える…「全世代型社会保障」の目指す方向と対抗軸…」でした。講師は、立教大学の芝田英昭教授でした。

 

自治体の再編については、総務省が自治体戦略2040構想研究会を立ち上げ、案を示しているそうです。昨年7月3日、「自治体戦略2040」という最終報告が示されており、それによると自治体の姿が今とは全く違うものとなることが構想されているそうです。

その自治体の姿とは、「プラットフォーム型」と呼ばれており、基盤だけをつくり、マネジメントだけを行なうというものだそうです。今ある自治体の相談窓口やサービスがなくなり、外部団体に委託して、お金だけを出す形になるそうです。

それにあたって、20くらいの市町村を「圏域行政体」にまとめ、自治体としての自治権はなく、法人などにアウトソーシングして広域で様々なサービス提供を行なうという構想がされているそうです。圏域行政体は市町村合併とは違って自治権はなく、議会もなくて議員もおらず、サービスの料金は委託先が設定することになり、国や自治体のやることが不十分だから市民が運動をして帰るということができなくなるそうです。そし、マネジメントのみを行なうので、自治体の職員が削減されることになるそうです。

全世代型社会保障改革については、2019年9月11日に「基本方針」が閣議決定され、全世代型社会保障検討会議が新設されることとなり、9月17日に9人のメンバーが発表されたそうです。メンバーには、経団連と経済同友会の代表が入っているそうです。

現在は、社会保障については社会保障審議会が検討を行なっており、その下に各分野の部会があってさらに細かい検討を行なっていますが、全世代社会保障検討会議は全く別建てで首相直結だそうです。2019年中に中間報告を行ない、2020年の通常国会で年金と介護関連の法案を提出し、2020年6月に最終報告を提出し、2020年の秋以降、医療関連の法案を国会に提出するというスケジュールだそうです。

その具体的な内容は、まず年金制度については、支給開始年齢を70歳へ変更することが検討されているそうです。その背景は、60歳以上の高齢者の就労意欲が高いというデータだそうですが、年金が少ないからという事実を無視しているということが指摘されました。また、70歳以降も開始年齢を選択可能とすることが検討されており、支給開始を遅くすれば割増がありますが、平均寿命まで生きれば同じ金額になるように設定されているので、得はしないそうです。政府はなるべく年金を払いたくないと考えており、支給開始年齢を上げることで全く年金を受け取れないで亡くなる人を増やそうとしているのだということが指摘されました。在職老齢年金の廃止については、年金支給が増えてしまうので見送られたそうです。

医療保険については、75歳以上の一部負担を1割から2割へ変更することが検討されているそうです。現役が3割だから大したことはないと政府は説明していますが、当人にとっては2倍になるということです。そして、この引き上げは将来3割にするためのとっかかりとして行なわれるのだということが指摘されました。現役と同じだけ負担しろということです。3割以上もありうるのかというと、「厚生労働白書」の分析から、0割負担を100として、負担割合を変えると、3割負担なら60、4割負担なら48.8になると試算されているそうです。給付を半分にするということはないだろうとのことでしたが、保険がきかない部分を増やすことで給付を減らそうとしているそうです。市販薬類似薬を保険から外すということで、花粉症の薬、湿布、ビタミン剤、皮膚保湿薬などが検討されているそうです。これらの変更で、2000億円が削減されるそうです。

医療制度については、地域別診療報酬の具体化が検討されているそうです。これは、既に法律は通っているそうですが、まだ実施しているところはないそうです。財務省が厚労省に圧力をかけているので、1~2年で、診療報酬の1点を8、9円とするモデル地域が設定されるのではないかとのことでした。また、地域医療構想により、公的・公立病院の統廃合が狙われています。政府が車で20分以内の競合する医療機関がある公的・公立病院のリストを発表したことで波紋が広がっていますが、各都道府県に設置されている地域医療構想検討会議で病床転換や統廃合の議論が行なわれているそうです。知事権限で病床転換ができるのは公的・公立病院のみなので、第1回会議で民間病院の病床転換の権限も知事に与えることが求められたそうです。

介護制度については、一部負担を1割から2割へ引き上げることが検討されていますが、厚労省は2割の範囲を広げる方向へシフトしようとしているそうです。また、ケアプランの有料化も検討されているそうです。2015年、特別養護老人ホームの多床室の室料が自己負担化され、基本サービスから抜かされましたが、現在はすべての高齢者入所サービスに広げようとしているそうです。また、総量規制を入所だけでなく、居宅サービスへも広げようとしており、一定の人口に比例してヘルパーの人数を制限したり、事業所の出店を限ったりし、過疎地域でサービスがなくなる恐れがあるそうです。

元々、国は国民医療費が増えて来たため、減らすために人件費の安い介護へシフトするために介護保険をつくりましたが、現在は介護給付も増え、医療給付との合計が50兆円に達しているそうです。社会保障費の7割が医療、年金、介護によるものであり、それらを減らすのが「全世代型社会保障」なのだそうです。

「全世代型社会保障」という言葉を聞くといい世代のように聞こえますが、実際は全ての人に負担をさせる制度だそうです。パイ、つまり、給付総額は変えないで、切り方を変えようとしているのであり、高齢者分の給付が多いから、それを減らして均等にしようということです。

なぜ9月に検討が始まったのかというと、1989年の消費税導入の時には、12月にゴールドプランをつくって消費税を上げた分を何に使うかを示し、ホームヘルパーの増員などを行なったそうです。今回はそのてつを踏まないように、消費税を上げる口実として、早めにやっていることを示そうとしているのではないとのことでした。

また、「全世代型社会保障」の大きな狙いは、「健康自己責任論」を徹底することだそうです。自分の健康には自分で気を付けるのが当然であり、認知症も含めて、疾患の原因を生活習慣に矮小化しようとしているということが指摘されました。つまり、健康でない人、認知症の人を社会から排除するということです。しかし、実際には原因が生活習慣だけということはなく、遺伝、親の職業、本人の職場環境などの背景があるということが指摘されました。社会的背景は働き方との関連もあり、食生活の改善には時間もお金も必要だということです。労働者の4割が非正規労働者という現状、時間もお金も確保することが難しくなっています。

朝日新聞の「論戦ハイライト」で、大門みきし議員の予算委員会での質問が紹介されたそうです。大門議員は、年収200円万以下のワーキングプアが1098万人に達している一方、金融資産1億円以上の世帯は126万7000世帯に達していることを示したそうです。また、その金融資産の合計は300兆円であり、国家予算の3倍にあたるそうです。それほどの格差が広がっているということです。ダブルワーク、トリプルワークをしている非正規労働者には時間がなく、不規則な生活になります。

安倍政権には人権感覚が全くないということが指摘されました。

ではどうするべきかというと、医療の一部負担の問題が指摘されました。「一部負担」については、「自己負担」、「患者負担」という間違った言い方をすると、負担しなければならないものというニュアンスになりますが、「一部負担」は法律上は「負担する場合がある」程度のものだそうです。世界では無償がトレンドであり、ドイツは国の制度として一部負担を撤廃し、フランスは2保険形式で一部負担をゼロにし、スウェーデンは税方式で20歳未満は無償とし、イギリスは原則一部負担なしだそうです。

保険には、「社会保険」と「民間保険」の2種類があり、「民間保険」は商品として購入するものであり、選択の自由があるものです。「社会保険」とは、公的に運営されており、社会的責任があるものです。保険料納付は法律によって強制とされています。だから公的負担があり、一番メリットを受けるのは企業だということが指摘されました。医療保険によって健康な労働者をつくり、年金制度によって退職金を減らせるからです。

保険料を負担しているのですから、利用時にも負担すると費用の二重負担となります。ですから、「一部負担」は本来あってはならないものですが、たまたま今は取っているものだということが指摘されました。

また、保険料は応能負担とすべきであり、応益負担をなくし、高所得者により負担してもらうために上限をなくすことなどが必要だと指摘されました。

 

質疑応答では、自治体は「地域丸ごと共生社会」をつくろうとしているが、もっと自治体がやるべきではないか、やるにあたって、どう行政に働きかけるべきかとの質問がされました。

芝田先生は、悩んでいる人がたくさんいるが、社会福祉法改定で、4条に地域社会のことは地域住民が責任を持つということが書き込まれ、憲法25条との齟齬が生じていると述べました。このせめぎ合いが大事であり、目の前で困っている人がいれば助けるが、自治体の肩代わりだということをはっきり言うべきだと指摘しました。下請けになっては駄目であり、国の制度が間に合っていないから今はやるが、いずれは国がやるべきことだと言うべきで、言いながら実践することが提起されました。

 

以上で報告を終わります。