2017年 第25回埼玉社会保障学校 第1講義 | 労働組合ってなにするところ?

労働組合ってなにするところ?

2008年3月から2011年3月まで、労働組合専従として活動しました。
現在は現場に戻って医療労働者の端くれとして働きつつ、労働組合の活動も行なっています。

あまり知られていない労働組合の真の姿(!?)を伝えていきたいと思います。

まず、「8時間働いたら帰る、暮らせるワークルールをつくろう」の署名へのご協力をお願い致します。

 

https://www.change.org/p/8%E6%99%82%E9%96%93%E5%83%8D%E3%81%84%E3%81%9F%E3%82%89%E5%B8%B0%E3%82%8B-%E6%9A%AE%E3%82%89%E3%81%9B%E3%82%8B%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%82%AF%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%82%92%E3%81%A4%E3%81%8F%E3%82%8D%E3%81%86

 

 

続いて、避難不可能な状況下での原発災害を防ぐために、川内原発の運転停止を求める署名への賛同を呼び掛けます。

 

https://www.change.org/p/%E5%B7%9D%E5%86%85%E5%8E%9F%E7%99%BA%E3%82%92%E6%AD%A2%E3%82%81%E3%81%A6%E3%81%8F%E3%81%A0%E3%81%95%E3%81%84?source_location=discover_feed
 

 

そして、戦争法を早急に廃止することを求め、沖縄をはじめとする全国での基地強化・日米軍事一体化の策動を許さず、医療と介護をはじめとする社会保障切り捨て政策に反対し、労働者をはじめとする99%の人たちのいのちと生活と働く権利を守るために行動し、政治をはじめとするあらゆる分野で憲法が活きる社会となることを目指し、声を上げ続けることを提起します。

 

 

9月3日、第25回埼玉社会保障学校が開催され、参加してきました。3つの講義が行なわれましたので、1つずつ概要をご紹介致します。

 

第1講義は「改悪介護保険関連法改正と私たちの運動」というテーマで、講師は全労連ヘルパーネットの森永伊紀さんでした。

介護保険が始まって17年が経ちました。2000年4月に介護保険がスタートした時は、「老後はバラ色」、「過酷な介護から家族を解放する」、「どんなサービスでも自由に選択できる」と言われていて、そうではないと言っても無視されてしまったそうです。

介護が措置であった頃は、国の負担は2分の1で、都道府県が4分の1、市町村が4分の1を負担していましたが、介護保険が始まって新たに保険料が徴収されるようになり、その裏で国の負担が4分の1に減らされたそうです。現在は、介護保険は10兆円規模だとされていますが、国の負担は2兆円だそうです。当初、介護保険料は低く抑えられていましたが。少しずつ引き上げられ、現在は1万3000人が差し押さえを受けているそうです。

また、措置の頃は非課税世帯の8割が無料でしたが、介護保険になって誰もが1割負担になりました。多くの人はまだ介護保険を利用する予定がなかったので、無料から1割負担になることに反対する人が少なかったそうです。しかし、今では2割負担が導入され、来年からは3割負担も導入されることになっています。

特別養護老人ホームは、当初は要介護1の人から入ることができたのですが、原則、要介護3以上でないと入れなくなりました。国は「特養の待機者が減った」と言っていますが、入れる人が制限されたからなのです。要介護3がどの程度かというと、車椅子で移動する状態だそうです。要支援1はつかまらなければ立ち上がれない状態、要支援2は杖やシルバーカーを使って歩き、認知症はない状態、要介護1も杖やシルバーカーを使うが、認知症があるなどのためにリハビリは適せない状態、要介護2は家の中で伝い歩きができる状態、要介護3は車椅子で移動する状態、要介護4は寝たきりだが寝返りはできる状態、要介護5は寝たきりで寝返りができない状態だそうです。ただし、認定制度が変わり、寝たきりでも胃ろうなどで食事介助の手間が少ない人は要介護4になってしまうそうです。

そのように、常識とは異なる要介護認定の基準は他にもあり、つかまって10秒そのままでいられる状態を「立てる」と言い、連続して5メートル歩ければどれだけ時間がかかっても「歩ける」と言うそうです。1度でも休むと「歩けない」ということになるそうです。肩まで手があがれば更衣の手間が少ないので「拘縮なし」とされ、足の麻痺はだいたい足が真っ直ぐのばせれば「麻痺なし」とされるそうです。股関節は、片足だけでも開けばおむつ換えができるので「拘縮なし」とされるそうです。

施設入所の低所得者対策については、以前は配偶者と別居ならば別世帯と判断されましたが、今は離婚しなければ同一世帯として判断されるそうです。なお、配偶者の所得、資産が判断の対象に含まれるようになっただけでなく、遺族年金も対象に含まれるようになったそうです。今後は、不動産も判断の対象に含めようとしているそうです。

ホームヘルパーについては、かつては時間制限はなく、措置の頃は3時間か6時間でしたが、今では最短20分、最長1時間程度で、45分の自治体もあるそうです。ヘルパーが忙しくて声もかけられず、利用者が置き去りにされてしまう状態だそうです。ヘルパーは時給で働く場合が多く、収入が低いため、成り手が不足しているそうです。そのため、3割が60歳以上で、都市部では70歳が中心となっているそうです。賃金は、措置時代は補助金があってベテランは年収500万円ほどだったそうですが。今では一般労働者よりも月収が約10万円少ない状態だそうです。

介護施設の職員は正規は5割で、16時間連続夜勤が当たり前で、休憩も仮眠もできず、20数名を1人で見なければならないそうです。安心して介護を受けられることも制度をよくすることであり、働いている人も生き生き働けなければならないということが指摘されました。

また、サービスの使い過ぎは高齢者を駄目にするとして、健康な家族がいる人は生活援助を受けられなくなったそうです。”健康な家族”に、小学生を含める自治体もあるそうです。家族が介護を一人で頑張ろうとして、過労死に追い込まれる悲劇も起こっているそうです。

介護用ベッドや車椅子は、要介護2以上でなければ利用できなくなっているそうです。

 

次に、自治体の状況が取り上げられました。

労働者が見えているのは介護保険の利用につながった人だけであり、介護保険につながっていない人がどうなっているかということが問いかけられました。

人口90万人の世田谷区では、約4万人が要介護認定を受け、約2万人が認知症で、認知症の人は毎年約1000人ずつ増えているそうです。高齢者の半分は高齢者のみの世帯となっており、孤立死が4年間で約200件起こっているそうです。毎週4人は孤立死していることになります。市役所が把握している孤立死、死後数日で発見された人は67人だそうです。区議会での報告によると、体調不良や体力低下があるにもかかわらずサービス利用を拒否する人が多く、そうした人は認知症や精神疾患があることが多いそうです。そうした人は自立心が強かったり、警戒心が強かったりするので、専門家がチームを組んでサービス利用につなげる必要があるということが指摘されました。

2016年度、虐待通報は211件あり、そのうちの144件が虐待と認定されているそうです。虐待が起こったとき、家族自身も追い詰められた結果であることが多く、どちらも支援が必要な人だと認識すべきだということが指摘されました。最終目的は元の仲の良い家族に戻すことであり、粘り強いかかわりが必要だそうです。会議は年間500回開かれ、毎日複数の虐待通報に対応しているそうです。孤立死が発見されている数の約10倍は、自治体が助けているそうです。

認知症などの高齢者が詐欺にだまされたりしないよう、区長が家庭裁判所に申し立てて指定する後見人は、毎週1件ずつくらい申し立てをしているそうです。

自治体がセーフティネットをつくらなければ高齢者は安心して暮らせない状態であり、今の制度にのらない人に対する対策が必要だということが指摘されました。

 

この間の介護保険制度の改悪は、平成24年8月に成立した社会保障制度改革推進法に基づいて行なわれているそうです。この法律により、社会保障は国の責任から自己責任とされ、憲法25条が空文化してしまったそうです。

自分の健康には自分が責任を持ち、要介護にならないように努力するという「自己責任」は当たり前だという考え方もありますが、ここでの「自己責任」とは、国の責任を免除するということを意味するそうです。つまり、国が国民全員に社会保障を提供する必要がなくなり、「本当に困っている人」だかを援助すればいいということになったそうです。自治体にもその精神が浸透してしまっているそうです。そうすると、自己負担はどんどん増やしていい、国がやってきたサービスを自治体や地域の助け合いに丸投げする、財源は消費税からとし、浮いたお金は企業が活躍しやすい国づくりや、戦争できる国づくりに使い、社会保障の自然増は1300億円抑制されることになるそうです。

医療介護の一体改革では、地域包括ケアシステムで「安心の老後」にするとしていますが、入院ベッドを15万6000床削減し、入院期間の短期間化も会わせて32万人が入院できなくなり、そうした人たちをサービス付き高齢者住宅へと誘導し、在宅医療を受けさせようとしているそうです。死ぬときは自宅で死にたい人が多いというアンケート結果があり、自宅に返すのが当たり前とされ、ガン末期で治療法がなくなった人を自宅に戻すなどしているそうです。そうした人たちに対して、24時間365日の地域包括ケアがあります。

しかし、改革の第一の目的は給付費抑制であり、入院から在宅に移せば給付費は3分の1になるそうです。

地域支援事業・総合事業は、30数万人の中重度者が入院ができずに地域へ出ていくため、その人たちの介護の担い手が必要であるため、要支援者と要介護1、2の人を介護保険あら切り離すということを目的としています。現在、手始めに要支援者に対する介護サービスは、自治体の責任でボランティアや無資格者へまかせることになっています。

総合事業のうち、専門職が行なう現行相当のサービスは、残すかどうかは自治体が決めることになっており、残すように要求しないと残らない恐れがあるそうです。基準緩和型Aは研修を受けた無資格者、基準緩和型Bはボランティアによるサービスです。ボランティアには、守秘義務がない人を個人宅に入れていのかという問題が指摘されています。

また、総合事業への移行により、「給付」から「事業」に転換されることにも意味があるそうです。「給付」ならば、認定を受けた人が必要なサービスを使うという仕組みであり、利用者が多ければ保険料が上がってしまいますが、給付費総額に制限はありません。しかし、「事業」になると自治体で予算が決まることになり、今は経過措置中ですが、それが終われば国は予算を高齢者の伸び率の半分に抑えるとしています。予算内に費用を抑えるためには、サービスを減らしたり、自立、非該当の人を増やしたりすることが必要となることが指摘されました。

総合事業は「壮大な失敗」であり、制度はつくったが中身は空っぽという状態だそうです。原因は従事者がいないためで、安い賃金で、いい加減な研修で、重い責任を任せられるのは嫌だと思われているということです。しかし、うまくいかないのは自治体の責任になるので国は困らないという構造なので、自治体と一緒に声を上げる必要があります。

 

2017年改悪では、一部の改悪は先送りになったそうですが、それは自治体や市民団体の強い反対があったからだそうです。

しかし、次の改悪に向けて、12月には報告書が出される予定だそうです。

先送りされずに残った改悪の一つは、3割負担の導入です。これは所得条件が高いので関係ないという人が多いそうですが、これから国は2割負担の人を増やし、最終的には3割負担にしようとしているそうです。

2号保険者の介護保険料は、ボーナスからも徴収される「総報酬制」に変わります。これにより、協会けんぽへの国庫負担1400億円を段階的に減らそうとしています。健保組合員、共済組合の組合員の保険料は増えますが、協会けんぽの組合員は保険料が下がるそうです。

また、要介護認定率が下がると自治体に対して補助金が出るという、自治体へのインセンティブが設定されました。そのため、わざと非該当にしたり、要介護認定の低くしたりといったことが起こる危険性があることが指摘されました。

こうした改悪に対し、全国市長会議が決議を採択しており、内容は、安上がりな人材養成をするな、ちゃんと賃金を保障して人材確保をすべき、介護保険財政の5%が調整交付金であるが、これをインセンティブの財源にするべきではなく、国の財源を確保すべきだということが宣言されているそうです。自治体も頑張っており、一緒に要求できるところがあります。

総合事業における「自立」とは、これまでの「自立」が介護サービスを利用して自分らしい生活をすることだったのに対して、介護サービスを利用しなくなることを指すそうです。介護保険からの「卒業」が目指されているそうです。しかし、「自立」の中には難病の人やいつ急変してもおかしくない人がたくさんいるので、25項目の基本チェックリストによって地域支援事業に振り分けられると医師意見書が不要であり、医師の確認なしに介護を提供することは大変危険だと指摘されました。

次に、「我が事・丸ごと」地域強制社会について取り上げられました。これは、”自己責任”が聞こえが悪くなったので導入した考え方だそうです。「我が事」とは、サービスの受け手から担い手になるということだそうです。共生型サービスは、高齢者、障害者、障害児へのサービスについて、共通する部分は一緒に提供するというもので、デイサービスと生活介護、ヘルパー、ショートステイがそれらに当たるそうです。

障害者サービスには、65歳以降は介護保険優先原則があります。そのため、65歳になると、それまで使っていた障害者サービスが使えなくなり、介護保険のサービスに移ることになりますが、その両方のサービスを同じ事業所で受けられるようにするために規制を緩和するのが共生型サービスだそうです。過疎などにより、小さい自治体では縦割りのサービスは維持できないため、統廃合が進むことになります。国はサービスの数は変わらないとしていますが、統廃合で遠くへ行かないとサービスが受けられなくなり、移動難民が生じることになると指摘されました。

また、人の丸ごと化として、看護師、保育士、介護福祉士などの基礎資格をつくり、その資格があると他の専門資格を取る際に一部試験を免除し、資格を取りやすくするという案も出されているそうです。

現在は施設でしか働けない外国人の介護労働者は、技能研修生として在宅サービスでも従事できるようになるそうです。しかし、技能研修生には労働者としての権利があいまいになっているという問題も指摘されました。

「我が事」とは、住民がサービスの担い手になるということ、国の責任から自治体の責任に移すということであり、「丸ごと」は縦割りだったサービスを総合的に提供できるようにするということです。社会保障に対する国の責任を自治体に丸投げし、自己責任原則によって社会保障費を抑制するという、社会保障改革の総仕上げとなるものであり、完成させるための改悪案が目白押しになっているそうです。

改悪を進める手口として、法律では「共生型サービスをつくります」ということだけ決め、中身は国会を通さずに現場で決めてしまっているそうです。

法改正をせずに実施する事項もあり、高額介護サービスの負担上限の引き上げや、生活援助の人員基準緩和などがあげられました。生活援助から家事援助を切り離し、専門性の低いヘルパーが対応するというもので、そうなると、家事援助として食事をつくる人と、身体介護として食べさせる人が変わるといったことが起きるそうです。サービスの間は2時間開けなければならないというルールもあるので、食事をつくる人は午前9時から10時くらいに作業し、12時頃に食事介助する人が来るということになります。このような矛盾が起きることに対して、厚生労働省の役人も説明ができなかったそうです。ここでも、担い手がいないことは目に見えています。

また、「入門研修」というものを設けて、主に施設サービスに従事する職員を、初任者研修よりも短時間で研修し、安上がりな報酬で掃除や洗濯などをさせることが想定されているそうです。これは施設の人員配置基準の緩和につながりますが、具体化についてはまだ「検討中」で不透明だそうです。

ヘルパーを月30回以上使っている人に対しては、1日に使えるヘルパーの上限を決めるという意見も出されているそうです。

デイサービスの報酬引き下げ、同一建物への訪問の報酬引き下げなども提案されているそうです。

11月末に報告書が出されることになっているので、よく学んで国に要求を出す必要があるということが指摘されました。

第7期介護保険事業計画も現在検討中であり、自治体の担当者と話し合って要求を出すことが大切だということが指摘されました。世田谷区では、第6期の検討中に要求した、小規模特養ホームの建築、グループホームの建設、多機能サービスとつくること、低所得者対策などが採用されたそうです。自治体の担当者を読んで話を聴き、励ますことも必要だそうです。反対運動だけでは私たちが求める介護は実現せず、要求運動が必要だということが指摘されました。

自治体の担当者は資料はたくさん持っているがよくわかっていないこともあるので、1度会って資料をもらい、それを研究してから再度懇談し、一緒に要求を出していくことが提案されました。

 

以上で第1講義のまとめを終わります。