10・18労基法改正問題学習会 | 労働組合ってなにするところ?

労働組合ってなにするところ?

2008年3月から2011年3月まで、労働組合専従として活動しました。
現在は現場に戻って医療労働者の端くれとして働きつつ、労働組合の活動も行なっています。

あまり知られていない労働組合の真の姿(!?)を伝えていきたいと思います。

まず、熊本、大分を中心とした地震の被害に遭われた皆さまにお見舞い申し上げます。

合わせて、避難不可能な状況下での原発災害を防ぐために、川内原発の運転停止を求める署名への賛同を呼び掛けます。


 

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そして、戦争法廃止に向けてたゆまず行動し、憲法に違反する政治を推し進めようとする策動を許さず、医療・介護を国の責任で充実させることを求め、最低生活基準を切り下げようとする動きに抵抗し、労働者のいのちと健康と働く権利を守り、東日本大震災の被災地の復旧・復興が住民の立場に立った形で1日も早く実現することを目指して、声を上げていくことを提起します。

 

 

10月18日、労働法制埼玉連絡会の主催で、「10.18労基法改正問題学習会」が開催されました。講師は埼玉中央法律事務所の弁護士、小内克浩さんでした。以下、その概要をまとめます。

 

小内先生の講義は、「安部『働き方改革』を切る」というテーマで行なわれました。

安倍内閣の労基法改悪法案は、TPP審議のために来年に先送りされそうな見通しだそうですが、次の総選挙で安倍自民党が勝利すれば次の国会で進められる恐れがあるということで、今回の学習会が企画されたそうです。

安倍首相は「長時間労働の是正」、「同一労働同一賃金」といった耳ざわりのよいことを言っていますが、法案の内容をよくよく見ると、労働者のメリットはわずかで、デメリットの方が大きいそうです。

まず、ホワイトカラーエグゼンプションが取り上げられました。これは、「残業代ゼロ法案」とも呼ばれており、専門的な労働者の残業代をゼロにするという法案です。

現行の労働基準法においては、労働時間の上限は1日8時間、週40時間と定められています。しかし、ほとんどの労働者はこれを超えて働いています。労働時間の上限には例外があり、三六協定によって時間外、休日の労働が可能となっています。三六協定とは、使用者と過半数労働組合、または労働者代表が時間外・休日労働の上限についての協定を結び、それを労働基準監督署に届け出ることにより、労働基準法の労働時間の上限を超えて労働者を働かせることができるというものです。三六協定では、1日、3ヶ月以内の一定期間、1年間の3種のすべてについて時間外労働の上限を定めなければならないこととなっています。このうち、1日の時間外労働については上限規制がなく、理論上は16時間を上限とすることも可能だそうです。3ヶ月以内の一定期間、1年間については、厚生労働省の告示によって「基準時間」が定められているそうです。ただし、この告示は会社への強制力はなく、厚生労働省の役人を縛るものだそうです。そして、三六協定は労働基準監督署に届けられますので、そこで基準を超えているものがあれば、是正指導が行われるそうです。1日に6~7時間の時間外労働を続ければ過労死ラインを超えてしまうそうです。電通の過労自殺は、三六協定の上限を超える時間外労働をさせていたということで、悪質と判断され、労働基準監督者が調査に入ったそうです。

また、割増賃金によっても長時間労働は抑制されています。法定労働時間を超える労働や休日労働に対しては、労働基準法で定められている割増以上の割増賃金を支払わなければならないこととなっています。割増率は、時間外労働は25%以上、休日労働は35%以上、深夜労働は25%以上です。この割増率は累積するので、時間外労働かつ深夜労働の場合は50%の割増となります。これは会社にとっては大きな負担なので、長時間労働を抑制する仕組みとなります。小内先生が担当した保育士さんが退職時に未払い残業代を請求した事件では、2年間で300万円超の算定となり、会社は分割してそれを支払うことになったそうです。政策研究・研修機構の調査によると、勤務時間制度別に見た総実労働時間で、通常勤務の人で281時間以上になる人は5.6%ですが、時間管理がされていない管理監督者などでは、281時間以上になる人は21.2%だそうです。このデータからは、割増賃金が時間外労働を抑制しているということが読み取れます。

残業代ゼロ法案の内容は、対象を特定高度専門業務に充実している労働者で、たとえば金融商品の開発業務、アナリスト業務、コンサルタント業務、研究開発業務などが想定されており、どの業務を特定高度専門業務とするかは厚生労働省の省令で規定する予定だそうです。また、使用者との合意で職務が明確に定められていること、平均賃金額の3倍相当程度、現在は年収1075万円を上回る水準以上の賃金額が要件とされる予定だそうです。この要件では、なかなか該当する人はいませんが、対象者は今後拡大する可能性が大きいそうです。経団連は、年収400万円以上のホワイトカラーを対象とすることを要求していますし、法案の検討過程でも将来の対象者拡大を強く要望しているそうです。労働者派遣法も、当初は専門的な職種に限られていましたが、次々と対象が拡大されていきました。アメリカでも、同様の制度の導入後、対象が次々と拡大されたそうです。アメリカの残業代ゼロの労働者のうち、156~624万円の年収の労働者が60%となっているそうです。

また、政府はホワイトカラーエグゼンプションとセットで長時間労働防止策を導入するとしていますが、在社時間と社外で働いた時間を健康管理時間として把握するということと、休息時間規制、健康管理時間の上限規制、休日の確保の3つのうちのどれか一つを実施すればいいとしているそうです。このうち、休息時間規制は、退社から翌日の出社までに一定時間以上の継続した休息時間を付与することと、深夜業の回数制限だそうです。健康管理時間の上限規制は、1ヶ月または3ヶ月の合計が一定時間を超えないこととしているそうです。休日の確保は、4週を通じ4日、かつ、年104日の休日を取るようにするというものだそうです。こうした中身をみると、形式的で実効性がないものだということが指摘されました。

もう一つ、注意しなければならないことは、政府は時間ではなく成果で評価すべきだと言っていますが、法案には「成果で評価する」ということも、「成果で報酬を決める」ということも全く含まれていないそうです。決まっているのは時間で評価されないということだけであり、現行制度でも成果主義の賃金は可能だということが指摘されました。

また、マスメディアは、政府が「成果で報酬を決める」と言っているのは誤りなのにも関わらず、そのまま報道をしており、労働弁護団が抗議したそうです。

 

次に、裁量労働制の拡大について取り上げられました。

現行の裁量労働制は、労使で一定の「みなし労働時間」を定めれば、実際の労働時間数に関わらず、「みなし労働時間」だけ労働したとみなす制度です。例えば、対象労働者について「みなし労働時間」を10時間と定めれば、4時間しか働かなくても10時間分の賃金をもらえ、12時間働いても10時間分しかもらえないそうです。現行の裁量労働制には2つのタイプがあり、業務の性質常、その遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねるという専門業務型と、事業の運営に関する自公について、企画・立案・調査・分析を組み合わせて行なう業務であって、業務の性質上その遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があり、業務遂行の手段および時間配分の決定等に関して使用者が具体的指示をしないこととする企画業務型だそうです。労基法改正案では、企画業務型の裁量労働制を拡大するとしているそうです。

企画型裁量労働制は、出退勤の時間や業務遂行の方法について、労働者に大幅な裁量を認める制度であり、使用者は労働時間について具体的な指示をしてはならないとされているそうです。つまり、帰りたい時間に帰ることが事実上できなかったり、業務遂行の方法について上司から詳細な指示を受けているような場合には、要件を満たさず、「みなし労働時間」は無効となるそうです。しかし、出退勤時間や業務遂行方法の裁量権がほとんどないのに、入社2~3年目以降のホワイトカラー全員を裁量労働制にしている会社もあるそうです。要件を満たしていないので違法なのですが、労働者が違法と気がつかないことが多いそうです。

労基法改正案での対象業務の拡大の一つは、法人顧客の事業の運営に関する事項についての企画立案調査分析と一体的に行なう商品やサービス内容に係る課題解決型提案営業の業務とされているそうです。しかし、一般的な営業は提案型であり、要件が極めてあいまいで、一般的な営業職の全てがあてはまってしまう恐れがあります。

拡大される業務のもう一つは、事業の運営に関する事項の実施の管理と、その実施状況の検証結果に基づく事業の運営に関する事項の企画立案調査分析を一体的に行なう業務とされています。この要件もあいまいであり、解釈によっては現場で業務管理を行なう労働者が広く裁量労働制の対象とされる危険があるそうです。つまり、労働者保護が成り立たなくなってしまいます。

 

次に、解雇の金銭解決制度について取り上げられました。この法案は現在は提出されていませんが、政府は前のめりだそうです。

現行法の解雇規制は、労働契約法16条に定められており、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」とされています。例えば、軽微な勤務態度不良を理由に指導や戒告などを経ずにいきなり解雇した場合、解雇回避努力を尽くさないまま、業績不良を理由に解雇した場合、労働組合員であることや組合活動を理由に解雇した場合などは、解雇は無効とされます。

無効な解雇を解決する方法としては、労働審判と訴訟がありますが、労使交渉によって解決する場合もあるそうです。労働審判とは、最大3回までの期日で証拠に基づいて解雇が有効か無効かの心証を取った跡、話し合いでの解決を目指すものです。解雇無効の心証の場合は賃金の6ヶ月分とプラスアルファの解決金、解雇有効の心証の場合は賃金の2~3ヶ月の解決金が相場だそうです。訴訟の場合は、6~7割が和解で、職場復帰を勝ち取るか、解雇無効の心証なら賃金の1年分とプラスアルファの解決金を取るかで解決するそうです。3割は判決となり、解雇無効なら職場復帰と解雇から判決までの賃金を勝ち取ることができるそうです。ただし、他で仕事をすると0円か減額になるそうです。訴訟が長引くほど解決金は高くなるそうです。解雇しようとした職場に戻ることは大きな負担なので、解決金で解決することが多いそうです。つまり、今の制度でもお金で解雇を解決することは可能であり、最終的な決定権は労働者にあることになります。

解雇の金銭解決制度の問題点は、職場復帰を望んでいる労働者に対しても使用者が一方的に金銭で解決することが可能になることだそうです。つまり、使用者が楽に解雇できることになり、恣意的な解雇が増える恐れがあります。

政府は、今でもお金をもらって解決する人が多いのだから法律で定めてもよいとしていますが、労働者の決定権がなくなるので、労使の関係が崩れてしまうことになるのが問題だということが指摘されました。

 

次に、安倍政権の進める「働き方改革」の問題点が指摘されました。

最低賃金の引き上げは、2016年7月の時点で全国平均24円、3%相当引き上げられることとなり、最低賃金の平均は822円となりました。しかし、地域間格差が大きく、国際的にはまだ低いという問題があります。

参院選の自民党の公約には、「最低賃金1000円を目指します」という項目があるそうです。引き上げは望ましい政策ですが、最低賃金の引き上げのみでは、構造的な貧困の解決は難しいということも指摘されました。

10数年前の最低賃金は600円台でしたが、主に家計補助的に働く主婦パートに適用されており、男性正社員が最低賃金で働くことはまずありませんでした。しかし、現在は非正規の若年労働者の多くが最低賃金レベルで働いています。彼らは家計補助ではなくその収入で生計を立てなければなりません。日本は、欧米に比べて住宅費が高く、ヨーロッパでは無償の教育費も高いので、若年労働者の多くは貧困に陥っています。その一方で、正社員は長時間労働を強いられています。

政府は、「ニッポン一億総活躍プラン」において、同一賃金同一労働の実現に向けて法改正の準備を進めるとしていますが、どのような待遇差が合理的であるかまたは不合理であるかを事例等で示すガイドラインを策定するともしています。つまり、「合理的」であれば職務が同一でも待遇差を認める方向です。「ガイドライン」には法的拘束力はなく、「不合理」とされた待遇差の是正方法も不明であり、理論的には正規の待遇を下げて同一賃金とすることも可能で、実行性が大いに疑問だということが指摘されました。

日本労働弁護団は、現在は待遇差の合理性についての立証責任は労働者のあるため、不合理と認められて格差が是正されるにはハードルが高いのですが、使用者に立証責任を持たせる法改正を提案しているそうです。そして、待遇差に合理性が認められない場合に、正社員と同じ労働条件を認める効力を明文化することと、待遇差を改善するために正規雇用労働者の労働条件を引き下げてはならないことを明記することも提案しているそうです。

「ニッポン一億総活躍プラン」には、長時間労働の是正も含まれているそうです。第一に、法規制の執行を強化するとしているそうですが、予算や人員は不明だそうです。第二に、長時間労働の背景として、親事業者の下請代金法・独占禁止法違反が疑われる場合に、中小企業庁や公正取引員会に通報する制度を構築するとしているそうですが、役人が役人に通報するだけでは実行性がないということが指摘されました。第三に、三六協定における時間外労働規制の在り方について再検討を開始するとしていますが、是正の保障はなく、これらも実行性が疑問で空虚な内容だということが指摘されました。

野党4党は対案として「長時間労働規制法案」を提出しており、三六協定による労働時間の延長に上限を規定すること、退社から翌日の出社までの一定時間以上の連続休憩時間を保障するインターバル規制を導入すること、裁量労働制の要件の厳格化をあげ、実行性の確保のために、労働時間管理簿の作成の義務付け、違反事例を会社名を含めて公表すること、罰則の強化をあげているそうです。

また、有識者会議で議論を進める手法が問題視されています。従来は、使用者代表、労働者代表、公益代表委員が同数で、バランスがとれた構成であり労働政策審議会が労働についての法案の議論を行なってきました。しかし、一億総活躍国民会議や働き方改革実現会議なので議論が行なわれるようになってきているそうです。働き方改革実現会議は、経済団体代表3人、経営者・エコノミスト6人、労働組合代表1人、学者3人、ジャーナリスト1人、女優1人という偏った構成であり、そこで労働法制の改変を進めるのは重大な問題があるということが指摘されました。

 

最後に、今後の運動の進め方が提案されました。

2014年6月の世論調査では、残業代ゼロ法案に反対が53%で、反対理由として「長時間労働への不安」をあげる人が42%と一番多かったそうです。賛成理由としては、「ホワイトカラーの仕事は、時間ではなく成果で評価されるべき」というのが51%ですが、これは制度への誤解であり、法案には成果で評価することは含まれていません。こうした制度への正確な理解を広げる必要があり、わかりやすく内容を示して争点化すべきだということが提起されました。

そして、労働組合、民主団体、弁護士の連携が必要だということが指摘されました。

労働組合の強みは、労働の現場を知っており、豊富な情報を持ち、交渉力や機動力を持っていることです。民主団体の強みは、地域に基盤があり、幅広いネットワークを持っていることから労働組合に組織されていない労働者ともつながることができ、機動力、運動力を持っていることです。弁護士の強みは、専門知識を持っており、専門家のネットワークがあり、中立とみなされるということです。

こうしたそれぞれの強みを発揮して、連携していくことが提起されました。

 

以上で報告を終わります。