NHKスペシャル「調査報告 女性たちの貧困」の感想 | 労働組合ってなにするところ?

労働組合ってなにするところ?

2008年3月から2011年3月まで、労働組合専従として活動しました。
現在は現場に戻って医療労働者の端くれとして働きつつ、労働組合の活動も行なっています。

あまり知られていない労働組合の真の姿(!?)を伝えていきたいと思います。

まず、最低生活基準を切り下げようとする動きに抵抗し、労働者のいのちと健康と働く権利を守り、東日本大震災の被災地の復旧・復興が住民の立場に立った形で1日も早く実現することを目指して、声を上げていくことを提起します。



録画をしておいた、4月27日放映のNHKスペシャル「調査報告 女性たちの貧困 ~”新たな連鎖”の衝撃~」を見ました。

ネットカフェの別々のブースでそれぞれ生活する19歳と14歳の姉妹とその母、朝5時から仕事に出かけて母子家庭の生計を支える19歳の女性、大学の学費を稼ぐために休みの度に愛媛県から東京まで”出稼ぎ”に出てくる19歳の女性、奨学金516万円の返済が重くのしかかる、非正規で働く24歳の女性、娘を希望する進路に進ませたいと、収入を増やすために資格を取ろうと専門学校に通うものの、賃金収入が増えたために国の支援金10万円が7万円に減額されてしまった28歳の女性……

確かに若い女性、しかも未成年も深刻な貧困状態にあるということには、痛々しく、悲惨な印象を受けます。しかし、”衝撃”というのは語弊があるように感じます。

「ネットカフェ難民」という言葉が社会問題として認識されるようになってから、もう10年近くが経っていますし、その間、政府は抜本的な対策を全く立てられていないのですから、このような状況になることは容易に予想がついたことでしょう。もちろん、「既にここまで来ていたのか」という意味での衝撃はあるかもしれませんが。

28歳の女性の事例には、制度の欠陥が如実に表れていますが、日本の社会保障制度にはこうした使い勝手の悪さがあちこちにあるように感じます。第一に、住居の確保のための施策が生活保護の住宅扶助くらいしか思い当たらないということが問題でしょう。住居が確保できなければ、あらゆる生活の基盤が不安定のままとなってしまいますし、就職活動にも支障が出ます。そもそも、履歴書に住所が書けなければ正社員の仕事に就くことはほとんど不可能でしょう。そして、番組のコメンテーターが施策はできているがバラバラに存在していて、一人一人のニーズに合わせて制度をコーディネイトすることが必要だということを述べていましたが、そうしたことは公設派遣村のときに既に提起され、パーソナルサポートというモデル事業が始められたはずですが、それが全国的な実施につながっていないということが問題でしょう。また、本当に必要な施策がそろっているのか、必要としている人がちゃんと使える制度になっているのかという検証もしなければならないと思います。


つまり、今回の番組で指摘されているような問題は、既に何年も前からわかっていたことであって、そうしたことに有効な政策を実現できないままに何年も経過してしまっているということを認識すべきです。むしろ、非正規労働者の増加は政策的にもたらされたものであり、政府が問題をより深刻にさせているということも指摘すべきでしょう。そうした、悲惨な状況を作り出してきた原因と、それに対する無策を批判することなしに、”個人の努力をサポートすることが重要”といった結論に導こうとすることは、結局は抜本的な解決を遅らせることになるのではないかと危惧します。


努力することは貴重なことですが、資格を取ろうと専門学校に通い始めた19歳の女性は、それからも朝5時に起きて家族の生活を支えるために働く日々が続くのです。その困難に何ら解決の道を示すこともせず、「頑張って」と発することの無責任さを自覚すべきです。

そして、彼女たちが取ろうとしている資格、保育士や福祉関係の職種などは、正規であってもワーキングプアと言われる低賃金で重労働な職種であり、彼女たちの頑張った先の目標が、「年収300万円台」という、男性正社員の年収レベルと比較するとあまりにも低い水準であることも直視すべきです。

女性の貧困は今に始まった問題ではなく、現在の社会状況の矛盾が、そもそも働くうえで差別を受けてきた女性によりひどくしわ寄せしてしまっているという現状なのだという認識したうえで、何重もの対策を講じていかなければならないと思います。