三郷生活保護裁判判決についての新聞報道(産経新聞など) | 労働組合ってなにするところ?

労働組合ってなにするところ?

2008年3月から2011年3月まで、労働組合専従として活動しました。
現在は現場に戻って医療労働者の端くれとして働きつつ、労働組合の活動も行なっています。

あまり知られていない労働組合の真の姿(!?)を伝えていきたいと思います。

まず、最低生活基準を切り下げようとする動きに抵抗し、労働者のいのちと健康と働く権利を守り、東日本大震災の被災地の復旧・復興が住民の立場に立った形で1日も早く実現することを目指して、声を上げていくことを提起します。



遅くなってしまいましたが、三郷生活保護裁判の判決についての新聞報道をいくつかご紹介したいと思います。引用部分は青で表記します。


まず、判決を聴きにきていたのを視認した産経新聞から。MSN産経ニュースで検索しても見つかりませんでしが、地方面の埼玉版の記事一覧の中から見つけました。



「生活保護費拒否は不当」申請の夫妻に433万円支払い命じる さいたま地裁

MSN産経ニュース  2013.2.20  20:07

http://sankei.jp.msn.com/region/news/130220/stm13022020100003-n1.htm


 生活苦で埼玉県三郷市に申し込んだ生活保護の申請を断られたなどとして、同市に住んでいた夫婦が市を相手取り、受給できたはずの保護費や慰謝料などの賠償を求めた民事訴訟の判決公判が20日、さいたま地裁で開かれ、中西茂裁判長は市側に保護費など計約530万円の支払いを命じた。

 訴状などによると、平成16年、夫婦は夫が重病になるなどして収入が途絶え、妻が生活保護申請をしたが市の担当者が拒否。認定に時間がかかり、夫の実家に転居しなければ打ち切りも示唆されたなどとしていた。中西裁判長は、市側の説明が妻に受給要件を誤解させるなど一連の対応に問題があったと指摘した。市側は「判決をよく検討して対応したい」としている。



見出しでは「433万円」、本文では「約530万円」なので、”??”となってしまうのですが……見出しでは「夫妻に」となっていますが、実際には夫妻の子どもの分の生活保護費も支払いの対象となっていますので、子どもの分を引いて「夫妻に433万円」、本文では子どもの分も含めて「約530万円」としているのかしら?と考えることができます。

弁護団の報告会での説明ですと支払い総額は約537万円なので、少なくとも本文は正しいです。

次に、読売新聞の記事をご紹介します。こちらは実際の紙面を確認しました。やはり地方面の小さな記事ですが、産経新聞よりは文字数が多くなっています。見出しは、「生活保護 申請不受理 540万賠償命令」「三郷市、職務上の義務違反」となっています。オンライン版では見出しが違い、社会面に掲載されていました。オンライン版でご紹介します。



夫が白血病で失職、でも生活保護不受理だった市

YOMIURI ONLINE  (2013年2月21日17時38分 読売新聞)

http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20130221-OYT1T00383.htm


 白血病が原因で夫が失職したのに、生活保護申請を埼玉県三郷市が受理しなかったのは違法だとして、元市民で現在は東京都に住む女性(54)と家族らが市に約950万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が20日、さいたま地裁であった。

 中西茂裁判長は「(生活保護)申請権を侵害するのは職務上の義務違反」として、市に約540万円の支払いを命じた。

 判決によると、夫(2008年3月に病死)は04年12月に白血病で入院して仕事を続けられなくなったほか、女性は同時期から精神科に通院。05年2月以降、女性は市福祉事務所を数回にわたって訪れたが、市側は「兄弟で助け合うように」などと助言し、生活保護申請を受理しなかった。

 女性が06年6月、弁護士と共に福祉事務所を訪れ、申請は認められた。夫と女性らは07年、本来受け取れたはずの生活保護費と慰謝料を求めて提訴した。

 判決では「市は原告が生活費に困窮していることを認識していたが、身内からの援助を確認するように述べ、原告の申請権を侵害した」と認定した。女性は代理人の弁護士を通じ「判決が出たことで、これから保護を受けようとしている人が受けられるようになればいい」とコメント。同市生活ふくし課は「判決内容を精査し、弁護士や関係機関と協議する」としている。




興味深いことに、新聞記事の方は朝刊に掲載されているのに、オンライン記事は同日の17時38分の配信なのですね。本文は同じですが。一般的に、新聞記事になるより先にオンライン記事が配信される方が多いと思いますので、なぜそれが逆だったのかかんぐりたくなってしまいます。

それから、請求額が「約950万円」となっていて、私は「約658万円」とメモを取っていたので”あれ?”と思いましたが、他の新聞の記事でも「約950万円」や「約1千万円」となっていたので、私が聞き違えたか、約658万円は慰謝料が含まれない請求額だったのかもしれません。いずれにせよ、新聞社は判決文のコピーを受け取っていたので、複数の新聞社で共通した数字を書いているということは新聞の方が正しいと思います。



次は、朝日新聞の記事をご紹介します。サイトの方では見つからなかったので、実際の紙面から引用します。



生活保護渋る窓口、違法

さいたま地裁  三郷市に賠償命令

朝日新聞  2013年2月21日


 埼玉県三郷市に生活保護を申請したのに受け付けてもらえなかったとして、住民が市に慰謝料など約1千万円の賠償を求めた訴訟で、さいたま地裁(中西茂裁判長)は20日、「生活保護を申請する権利を侵害した」と認め、約530万円の支払いを命じる判決を言い渡した。

 判決はまず、申請を受けた際の行政の対応について、「親族の扶養や援助を受けるよう(相談者が)求めなければ、申請を受け付けない」といった職員の発言によって住民が申請できなかった場合には、職務上の義務違反が生じるとの判断を示した。

 今回のケースでは、原告が数回にわたって市の窓口を訪れていたのに、市側が原告に働くことや身内からの援助を受けることを繰り返し勧めたため、「原告は生活保護が受けられないと誤信した」と指摘。市側の対応に過失があったと結論づけた。

 判決によると、原告は三郷市に住んでいた夫妻と子供3人。夫が2004年に白血病で倒れ、収入が途絶え、妻は05年2月から数回にわたって生活保護の相談をしていた。

 三郷市生活ふくし課は「判決内容を十分精査して対応したい」としている。

(高橋諒子)


自治体の水際作戦に警鐘


生活保護問題に詳しい首都大学東京の岡部卓教授の話


 生活保護の申請時に就労や親族不要を強く求める窓口規制が、常態化している自治体もある。生活保護へのバッシングが強まるなか、こうした水際作戦を進める傾向が高まるだろう。今回の判決は、窓口規制が職務上の義務違反であることを司法の場で明らかにした。生活保護制度の適正な運用を自治体に求めた点で非常に意義がある。


       ◇


 厚生労働省保護課は「2008年にまとめた実施要領で、生活保護の申請権の侵害や、侵害を疑われるような行為はしてはならないと伝えている。引き続き周知していきたい」としている。



限られた紙面の中で、判決の意義もしっかり伝えているとてもいい記事だと思います。水際作戦が違法であることはこれまでも法律に照らせばわかることでしたが、ここまではっきりと申請権の侵害と断じた判決は貴重です。しかも、これから政府が進めようとしている親族による扶養の強化が、現行の制度では保護の要件では全くなく、保護を申請しようとしている住民に対して親族による扶養を強く勧めることが申請権の侵害に当たるということを示しています。

受けられるかどうかわからない親族の援助を理由に、生活困窮者が生活保護を申請することを阻んでは、最悪の場合にはその人の生死に係わります。まずは申請を受け付け、それから福祉課が親族に対して扶養や援助が可能かどうかの問い合わせを行なうのが正しい対応です。

生活保護制度の改悪を防ぐためにも、各地で今も行なわれている水際作戦を正すため、この判決を大いに活用すべきです。


最後に、私が見つけた記事の中では最も字数を割いている埼玉新聞の記事をご紹介します。何と、埼玉新聞は1面にこの記事をもってきていました。更に、19面に関連記事として報告会の様子や関係者のコメントを掲載しています。



生活保護損賠訴訟  申請権侵害を認定

地裁  三郷市に賠償命令

埼玉新聞  2013年2月21日


 三郷市に生活保護申請を1年以上にわたって拒否され、認められた後も理由なく打ち切られたとして、現在は東京都内に住む女性(54)と家族が市を相手取り、未支給の生活保護費など計約950万円を求めた国家賠償訴訟の判決で、さいたま地裁の中西茂裁判長は20日、市が生活保護を申請する権利を侵害したと認定。2005年3月から06年6月分の生活保護費など、市に約540万円の支払いを命じた。原告側弁護団によると、生活保護の申請権侵害を明確に認めた判決は全国初。

 女性は三郷市内で夫らと暮らし、夫が病気で働けなくなったため生活保護を市に申請した。不当に拒否されたとして、夫妻は07年7月に提訴。夫は08年3月に50歳で亡くなり、3人の子どもが権利を相続していた。

 判決で中西裁判長は、原告側が05年1月以降に行ったと主張する福祉事務所への生活保護申請のうち、05年11月、06年5月の2回で、「生活保護を申請しており、生活保護実施機関が申請に応答していないから、審査・応答義務に違反した」と申請権の侵害を認定。05年3月の申請は申請行為を認めなかったものの、「職員が女性に、身内からの援助などを求めた上でなければ生活保護を受給できないと誤信させたから、申請権を侵害した過失がある」とした。

 女性らは弁護士の付き添いで06年6月から生活保護を受け始めたものの、同年8月に都内へ転居した後、いったん生活保護を打ち切られ、空白期間が生じた。中西裁判長は、「新しい居住地の福祉事務所長に通知しておらず、通知義務違反があった」と認定。市職員から転居後の生活保護申請を禁止されたとの主張については、「相談に行ってはいけない旨述べた」と職務義務違反を認めた。

 判決理由で中西裁判長は「相談者が生活保護申請の意思があることを知りながら確認しなかったり、誤解を与える発言をした結果、申請することができなかった場合、生じた損害を賠償する責任がある」との判断を示した。


(後略)


生活保護賠償訴訟  「全面勝訴」掲げ喜び

原告家族 「亡き父に伝えたい」

埼玉新聞  2013年2月21日


(中略)


 「被告は原告に金員を支払え」。支援者らで傍聴席が満席となった法廷に、中西茂裁判長の声が響き渡った。裁判長は、続いて判決の骨子を説明。主文だけで終わらせない異例の言い渡しに、判決の意義が象徴されていた。

 弁護団は判決後、さいたま市浦和区の埼玉弁護士会館で、支援者らを集めた報告集会と記者会見を実施。報告集会では会場内に「全面的勝訴」などの垂れ幕が掲げられ、弁護団長の中山福二弁護士が「内容的にはわれわれの主張が九十五パーセント認められた。皆さんに最後まで応援してもらった成果」と感謝すると、大きな拍手が起こった。

 原告夫妻はトラック運転手だった夫が白血病で働けなくなるなどしたため、市に生活保護を申請したものの、1年以上にわたって拒否されたとして提訴に踏み切った。

 夫は判決を待つことなく、08年3月に死去。記者会見に出席した夫妻の長男(32)は、「すごく長かったが、非常にうれしく思う。何よりも亡くなった父親に、こういう結果が出たことを伝えたい」と話した。女性は体調不良で欠席し、「主人も判決を喜んでくれていると思う。これから生活保護を受けようとする人が保護してもらえるようになってほしい」とコメントした。

 弁護団は今後、市側に控訴権の放棄を働き掛けるほか、再発防止策を講じるため、話し合いの場を持つように求めていく方針。弁護団の吉広慶子弁護士は、「全国には申請を拒否されて苦しんでいる人がいる。この判決がそうした人たちの力になってくれればいい」と期待した。


違法を指摘している


 埼玉弁護士会の田島義久会長談話 判決は生活保護申請権を侵害する違法があったと指摘しており重要。生活保護法の精神にのっとり、適正に制度を運用するよう求める。


謝罪と控訴権放棄を


 三郷生活保護国家賠償請求訴訟原告弁護団声明(中山福二団長) 三郷市に対し、原告らに謝罪し、控訴権を放棄して判決に従い、原告らの被った損害を賠償し、再発防止の措置を講じるよう求める。


生存権圧迫に警鐘


 国と地方の財政難や、不正受給の問題などを背景に、生活保護受給への風当たりが、かつてないほど強い。そうした中で今回の判決は、憲法25条で保障された「健康で文化的な最低限度の生活を営む」生存権に基づいて、生活困窮者には必要な援助を行うように促す意味合いがある。弁護団長の中山福二弁護士は、「現在の社会状況では、大きな判決だ。司法が生活保護法の趣旨に沿った判断をしてくれた」と高く評価した。

 女性が福祉事務所に生活保護を申請したとき、職員が親族の援助などを求めなければ、申請を受け付けないと伝えたとされることについて、判決は「誤解を与える発言」と認定した。弁護団の猪股正弁護士は、「間違った説明をして帰らせる事態は、各地の窓口で起きている」と指摘。昨年、人気タレントの母親が生活保護を受給したとしてバッシングを浴びた例は、実際は正当な権利であるのに、誤った認識が関係機関の職員だけでなく社会全体に広がっていることを示している。

 政府は今年1月、生活保護費を2013年度から3年間で約6.5%マイナスの約670億円削減することを決めた。昨年10月時点で約156万世帯と、受給世帯が増え続けて財政を圧迫。地域によっては最低賃金法で定めた額を生活保護費が上回っているとの批判もあり、予算圧縮となった。だが、生活保護費の減額は、最低賃金のさらなる低下を招く危険もはらむ。

 弁護団によると、生活保護批判や政府の削減方針に影響され、申請受け付けを控える「水際作戦」が既に起きているという。「こうしたことが再びないように、働き掛けていく」と中山弁護士。生活困窮者を守るためには、今後の取り組みが重要になる。                       (田付智大)




裁判の意義については朝日新聞の記事にも言及がありましたが、現在の社会情勢と政府の生活保護政策も絡め、現行の生活保護制度についての誤った認識と政府の削減方針が、制度改定を先取りするかのような「水際作戦」となって既に起こっていることに警鐘を鳴らしている点で、埼玉新聞の方が一歩リードしていると思います。


この裁判のことを伝えるのはこの埼玉新聞の記事だけを引用すれば十分でしたが、各紙の伝え方の違いも記録しておくために4紙から引用致しました。ご参考になれば幸いです。

埼玉新聞は埼玉県の地方紙ですので埼玉県の事件に多くの字数を割けると有利な点はあるものの、それだけに留まらず、他紙を圧倒する情報量と取材力と分析力を示した記事だと思います。