民主党は昨年、「介護労働者の賃金4万円引き上げ」を公約しました……(毎日新聞より) | 労働組合ってなにするところ?

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2008年3月から2011年3月まで、労働組合専従として活動しました。
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あまり知られていない労働組合の真の姿(!?)を伝えていきたいと思います。

もう何度か書いてきたことですが、介護労働者の低処遇は未だに改善されていません。本日の毎日新聞に現状をまとめた記事が掲載されましたのでご紹介したいと思います。引用部分は青で表記します。



働くナビ:民主党は昨年、「介護労働者の賃金4万円引き上げ」を公約しました……

毎日新聞  2010年11月22日

http://mainichi.jp/life/job/news/20101122ddm013100036000c.html


 ◆民主党は昨年、「介護労働者の賃金4万円引き上げ」を公約しました。処遇改善は進んだのでしょうか。


 ◇進まない、介護職の処遇改善 低賃金で人材定着せず/国の交付金も「不十分」の声


 雇用情勢が改善されない中、常に「売り手市場」とされてきた介護職への注目が集まっている。だが、低賃金や長時間労働など介護職の労働環境に改善の兆しは見えず、現場では「人材がせっかく流入しても一時的なものになりかねない」と定着を疑問視する見方が根強い。12年度の介護保険制度改革を前に、生活が成り立つような賃金を確保すべきだとの声が高まっている。

 10月17日、全労連などが開催した介護労働者の全国学習交流集会で、熊本県の訪問介護事業所に勤務する登録ヘルパーの労働実態が報告された。

 男性は40代後半。建設業界で働いていたが、不況で職を失い、介護の道を選んだ。賃金は生活介護が時給1000円、身体介護が1300円。手取りは月15万円程度で、妻子のために勤務のない日もアルバイトをしているという。

 「もう少し、賃金が上がれば」。男性と同じ事業所に勤務する女性(59)は言う。女性は認知症の母と2人暮らしで、月10万円のヘルパーの収入と、週2~3回の認知症高齢者グループホームの宿直のダブルワークで生計を立てている。グループホームの宿直は1回15時間勤務、仮眠3時間で9000円。体力的にもきつい。女性は「この年では他に仕事もなく、介護の仕事をせざるをえない。訪問介護は7年、宿直は5年続けているが、どちらも賃金が1円も上がっていないのが悲しい」と話す。

 国は09年10月から、介護職員の処遇改善に取り組む事業所に介護職員1人当たり平均月1・5万円の「介護職員処遇改善交付金」を支給。だが、全労連が組合員などを通じて全国7855人の介護労働者に実施した調査では、交付金の効果について「ある」と答えたのは13・1%で、「あるけど不十分」が32・8%、「ない」は7・7%、「分からない」が20・4%だった。

 同調査によると、月給制の労働者の賃金は平均18万6300円。より良い仕事をするために何が必要かという質問では、「職員が働き続けられる賃金・労働条件」が77・6%で最も多かった。勤続年数は5年未満が54・2%を占め、就職しても長続きせず、離職率が高い状況が続いている。

 介護労働者の過酷な労働環境と慢性的な人手不足の問題は07年、コムスンによる介護報酬不正請求の発覚を機に注目を集めた。以来3年が経過するが、労働環境はほとんど改善されていない。民主党は、政権交代を果たした09年の衆院選の公約に「介護労働者の賃金月4万円引き上げ」を掲げたが、いまだにめどは立たない。

 一方で、厚生労働省によると、リーマン・ショック直前の08年9月の有効求人倍率は全業種が0・82倍、福祉関係は1・74倍だったのに対し、今年9月は全業種が0・52倍、福祉関係は1・18倍。特に人手不足の東京でも、福祉関係は3・65倍から2・58倍まで下がっている。雇用悪化で介護の求職者も増えている。

 厚労省や都内のハローワークなどが11日に実施した介護職の合同面接会には、479人の求職者が参加した。東京労働局職業安定課では「国や自治体がヘルパー資格取得や介護職への就職支援を積極的に実施したこともあり、介護現場の人手不足感は一段落しているのではないか」としている。

 だが、全労連の小松民子副議長は「単に人を押し込むだけでは定着は難しい。処遇が変わらない限り、離職率の高い現状は変わらない」と危惧(きぐ)する。【市川明代】



はっきり言って、この記事で紹介されている時給や宿直手当はいい方です!

政府が雇用対策として介護分野での雇用を拡大していくという方針を示していることを取り上げる都度、介護分野の労働者を増やすことは必要であるが、同時に現在の低処遇を改善していかないと、無責任にワーキングプアを増やすだけであるということは指摘してきました。

そして、介護報酬のアップは処遇改善にはあまり回っていないし、介護職員処遇改善交付金も平均1人1万5000円には達していないし、そもそも手続が煩雑で活用していない事業所もあるということも指摘してきました。

合わせて、介護の仕事というのは肉体的にも精神的にもきつく、施設勤務ならば夜勤や当直もあります。きつい仕事をして、しかもワーキングプアならば、せめてあまりきつくない仕事をしてワーキングプアの方がまだマシだと思うのが当たり前でしょう。

また、低処遇でもやり甲斐を持って介護の仕事をしていたとしても、結婚や子育てなどの人生の転機で別の仕事を選ばざるを得なくなるということもあります。

ですから、介護分野にはなかなか労働者が定着しないのです。


なぜ介護労働者の処遇が低いのかというと、介護報酬が低いからです。つまり介護報酬は、十分な人材を確保して介護を行なうことを前提とした報酬体系になっていないのです。

介護報酬が低く設定されている理由の一つは、高齢化によって介護の支出が爆発的に増えることを防ごうとしている政府が、適切な介護報酬の引き上げを行なわずにきたからだと考えられます。

もう一つ、介護という仕事の社会的評価の低さが介護報酬の低さにつながっているのではないかということが考えられます。

介護の仕事は、以前は女性の無償の家事労働の一部とされていました。かつて無償だった労働に対して、その労働の従事者が自立して生活していけるだけの賃金を払わなければならないという意識が働かないのではないかと思います。

しかし、介護の仕事における生活援助は、たとえイメージとしては無償の家事労働に似ていても、実際は介護度を維持、あるいは改善させることを目的にしている専門的な業務であるという側面を持っています。

こうした、専門職としての介護労働者の社会的評価を上げていかなければ、処遇の改善も実現しないのではないかと思います。


以上のように、介護労働者を定着させるためには、介護報酬が底上げされて労働者の処遇が改善することと、介護労働者の社会的評価を上げていくことの両面が必要なのではないかと考えます。

”介護分野で雇用創出”と言う前に、まずは介護労働者の置かれている状況を改善しなければならないと思います。