全国医師ユニオンが声明 「医師2万4千人不足」は誤解招く(連合通信・隔日版より) | 労働組合ってなにするところ?

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あまり知られていない労働組合の真の姿(!?)を伝えていきたいと思います。

9月30日のエントリー で、厚生労働省が発表した医師数の調査結果についての新聞記事をご紹介し、この調査の問題点についていくつかの指摘を行ないました。

その際の指摘は私のまったくの私見によるものでしたが、全国医師ユニオンがこの調査の問題点を指摘している声明を発表しているということなので、その内容を「連合通信・隔日版」の記事を引用してご紹介したいと思います。引用部分は青で表記します。



「医師2万4千人不足」は誤解招く

全国医師ユニオンが声明  医師抑制政策の転換を

連合通信・隔日版  2010年10月9日付  No.8380  p11


 厚生労働省が全国の病院を調べた結果、「医師数は2万4000人不足」とされた問題で、勤務医などでつくる全国医師ユニオン(植山直人代表)は10月7日、「この数字が一人歩きするのを危ぐ」するとの声明を発表した。

 声明は、日本の医師数をOECD(経済協力開発機構)並みにするには最低でも13万人の増員が必要であり、「今回の調査は、使い方を誤れば、これまでの医師数抑制政策を肯定することになりかねない」と懸念を表明している。

 厚生労働省が9月29日に発表した「病院等における必要医師数実態調査」は、全国の病院と分娩(ぶんべん)を取り扱う診療所1万施設余りを調査。約8700施設から回答を得た。

 それによると、求人しているにもかかわらず充足されていない医師数の合計は1万8288人。求人していないが必要とされる数を合わせると2万4033人だった。

 同ユニオンは、厚労省が初めて現場の実態を調査した点は評価したものの、その内容は「各医療機関の経営的視点も含めた主観的調査」にすぎないと指摘。

 医師不足により病院が廃院となった地域の必要医師数はゼロになってしまうことや、調査の対象外とされた一般診療所の不足数が形状されていないなどの問題もあり、「このような調査で必要医師数を論ずることは不適当」としている。

 あわせて、今回の調査は現在の低い診療報酬や医師の労働基準法違反の現状を前提としたものであると批判。厚労省などに対し、本来あるべき医師数を明らかにし、医療再生に向けた医師増員と公的医療費や研究費、教育費の増額を求めている。



全国医師ユニオンの声明の全文は、下記URLのページで読むことができます。


2010年10月7日 厚労省の「必要医師数実態調査」に関する声明

http://union.or.jp/30/2010107.html



上記の声明文の中に、今回の調査は「あくまで各医療機関の求人に対する意識を知るために活用すべきデータ」という指摘がありますが、まさしくその通りだと思います。この調査は、各医療機関の経営者が、現状の診療報酬や医師の長時間過密労働を前提として、必要と考える医師数の不足を答えたものの集計でしかありません。ですから、実態に即した本当の医師不足数は、また別の方法で調査する必要があります。

にも関わらず、この調査が日本の医師の不足数を正確に表したデータであると誤解することは、実際に必要とされている医師数を不適切に低く見積もり過ぎることになり、地域ごとの医療過疎状態や、人員不足による現場の医師の過重労働を放置することになりかねません。この調査を報道した他のメディアにも、ぜひそのような視点での指摘をしてもらいたいところです。

また、声明の中には「今回の調査では、交代制勤務を導入している病院は9.2%となっていますが、当直で過重労働を強いている全ての医療機関で交代制勤務を導入した場合の医師数を調べることが重要です。」との指摘もあります。24時間対応を行なっている病院では、看護師は交代勤務で夜間の対応を行なうことが一般的ですが、医師の場合は交代勤務はほとんど実現しておらず、「当直」という名目で昼と夜の勤務を通しで行なうことが未だに常態となっています。午前8時に出勤した医師が夜間も通しで勤務し、さらに翌日の日中の勤務もこなすことが珍しくありません。状況によっては夜間の仮眠も十分に取れないこともあり、医師の勤務は非常に過酷です。看護師同様に医師も交代勤務とするためには、今のような医師数では到底足りないことは明白です。こうした状況を改善することは、医師自身の健康や人間らしい生活の確保のためだけでなく、患者さんにとっても医療の安全・安心を高めるために必要なことです。

現在の日本では、医療へのアクセスが一定程度保障されていますが、それは十分に医療体制が整備されているうえで成り立っているのではなく、多くの医師の健康や人間らしい生活を犠牲とした労働のうえで成り立っているということを忘れてはなりません。


以上のような問題点をふまえたうえで、厚労省が現場の医師数の調査を初めて行なったことは評価しつつも、必要とされている医療体制を整備するための医療政策を構築する資料としてはこの調査だけでは不十分であり、現場の医師の労働実態、各地域での医療機関の不足の実態などにも切り込んだ調査が必要であるということを提起していく必要があると思います。