労働者として許せない!標準報酬月額の改ざん | 労働組合ってなにするところ?

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2008年3月から2011年3月まで、労働組合専従として活動しました。
現在は現場に戻って医療労働者の端くれとして働きつつ、労働組合の活動も行なっています。

あまり知られていない労働組合の真の姿(!?)を伝えていきたいと思います。

今日はこの件について言及しない訳にはいかないでしょう。

まず、問題を端的に表している新聞記事をご紹介します。引用部分は青で表記します。



厚生年金:標準報酬改ざん、1件は職員関与 氷山の一角?

毎日新聞 2008年9月9日13時58分

http://mainichi.jp/select/wadai/news/20080909k0000e010073000c.html


 厚生年金の標準報酬月額の改ざん問題は、総務省の年金記録確認第三者委員会に事例が約150件申し立てられているほか、既に56件は「合理的な減額理由がない」と改ざんが認定されている。社会保険庁は9日、職員が関与したケースは17件中1件だったと報告したが、保険料納付率アップのため、社保事務所が組織的に関与したとの内部告発もある。09年中に全受給者に文書で確認を求めれば、不正事例はさらに増えると見られ、新たな政治問題に発展する可能性がある。

 標準報酬月額は4~6月の税込み給与や各種手当に定期代などを1カ月当たりならしたもので、企業が社保事務所に届け出る。労使は標準報酬月額に応じた保険料を折半して払うが、これまで明らかになった例では、企業が過去にさかのぼって従業員の標準報酬を引き下げて保険料を少なくするなどしていた。減額されると、その分将来の年金額が減ることになる。

 改ざんは資金繰りの悪化した企業が負担減を狙ってウソを届け出るケースが一般的。ただ、納付率アップや、「倒産して取りはぐれるよりマシ」と考える社保庁側があうんの呼吸で働きかけているとの指摘もある。滋賀県の社保事務所の元課長は「組織ぐるみで改ざんした」と民主党の会合で暴露している。

 厚生年金の加入者は3380万人で、受給者は1200万人いる。政府は全記録を調べ、改ざんが疑われる記録の持ち主に通知するほか、09年内に標準報酬月額などを記した文書を全受給者に送る。

 これまでは社保事務所に足を運ばないと自分の標準報酬を見る機会はなかったが、通知で改ざんに気付く人が相次ぎ、騒動に発展する可能性もある。民主党は改ざん問題を年金を巡る次の焦点と位置付けて政府を追及する構えだ。【吉田啓志】



標準報酬月額は厚生年金保険料の計算の基礎となり、将来受け取る年金の額にも影響します。健康組合の保険料の算定基礎にもなっています。なので、労働者にとっては大変重要な金額であり、企業の総務担当者はこの金額の算定のために大変な労力を払っているはずです。

私が総務担当をしていた頃、4月か5月の給与改定、12月の年末調整と並んで、7月の標準報酬月額改定は三大過密労働期間の一つでした。標準報酬月額は記事にありますように4~6月の給与を元に計算します。その結果を7月の決められた期日までに提出し、社会保険事務所の点検を受け、確定すると10月給与から改定後の標準報酬月額に基づいて保険料が算定されることになります。(9月分の保険料から改定が反映されるのですが、厚生年金保険料は9月分を10月給与から天引きすることになっているのです) この際、4~6月の間に3月以前の給与の誤支給分を調整していたり、遅配分を支給したりしている場合、正確に三か月分の給与を平均したことにはならないのでそう言った部分を修正します。また、出勤日数の少ない月は含めないなどの調整もあります。(平成18年の改定から、17日以上出勤している月の平均を計算することになっています) 基本的な部分はプログラムがあって計算結果が出てきますが、そういったイレギュラーな部分を一つ一つチェックして修正していく必要があります。

そして、4月には人事異動、昇進、給与改定などで大きく給与が変動する場合があります。そうした非稼動手当分の増減によって標準報酬月額が2ランク以上変動した場合、10月給与からの変更を待たずに7月給与から改定後の標準報酬月額を元に保険料を算定することになります。これは随時改定といい、4月のみならず、一年を通して大きな給与の変動があれば3か月分の給与をチェックして、2ランク以上の変動に該当すれば標準報酬月額改定の手続きをとります。これは、本人の収入に対して適切な保険料を納めてもらうためでもありますし、将来本人が受け取る年金が公正に算定されるようにするためでもあります。

ルールに沿って、正確に。そういったポリシーを持って総務担当者は仕事をしているはずですし、また、そうでなければならないはずなのです。


……にもかかわらず、経営者と社会保険庁がお互いの都合のためにルールを歪めるなんて、到底許されない行為です! しかも、改ざんして標準報酬月額を引き下げた分だけ下がった保険料を労働者本人に返金した様子は見られません。と言うことは、その分の保険料は経営者が着服したにも等しいのです。全くもって許せません!

経営者は給与を支払い、その一部を各種保険料として天引きして納入します。ですから、保険料は会社のものと考えているのもしれません。しかし、実際に保険料が労働者本人の手を経由することなく社会保険庁などに支払われるにしても、個人負担分の保険料は労働者本人のものです。それを誤魔化して保険料として支払わず、労働者本人に返還することもなかったのだとすれば、それは経営者が労働者の給与の一部を着服したという行為なのです。

そして、社会保険庁がその改ざんを認め、不当に低い保険料が支払われるのを見逃し、結果として労働者本人が本来受け取られる年金よりも低い金額しか受け取ることができなくなったとしたら、それは社会保険庁が労働者本人のものである金銭を着服したに等しい行為です。被害にあった人が、公務員の不法行為として国家賠償訴訟を起こしてもおかしくない事件です。

そういったことに対する自覚、犯罪行為をなしたという自覚が、経営者にも、社会保険庁にも、そしてそれを統括すべき厚生労働省、ひいては政府にも欠けているとしか思えません。この問題については徹底的に事実関係を追及し、犯罪行為は取り締まるべきだと思います。


追記  総務担当時代、4、5、6月はやたらと残業が多い時期だったので、私の社会保険料は実際の年収と比較するとやたらと高かったのです。(実際の年収を平均した金額よりも4、5ランク上の保険料を支払っていました) これだけ社会保険料を引かれているのに将来無事に年金が支給されるかどうかわからないなんて本当に腹立たしいといつも思っていましたが、更に不正まで行われていたとは腹立たしいどころではすみません!