保湿クリームや化粧水をつけたとき、“顔は刺激感があるのに、身体は塗っても大丈夫。”なんてことはよくあると思います。これはなんでなのか?

 

ステロイド外用薬の経皮吸収率の図を作ってみました。物質によって分子量が違うので多少の違いはありますが、この図を身体の部位別の吸収率と考えていただいて良いと思います。皮膚科の先生はこれが大体頭に入っているので、患者さんの皮膚の状態よって軟膏を使い分けているという訳です。「この人にはこのくらいの皮膚の炎症が起きていて、このくらいの皮膚の薄さだろうからこの軟膏が効くんじゃないかな」という感じですね。

 

図を見ていただければ分かるとおり、基本的に顔と陰部は角質層が薄いので、何かを塗った場合吸収されやすく、刺激感も感じやすいのです。逆に、手のひらや足の裏は角質が厚いので薬はなかなか入っていきません。例えば顔の湿疹用に処方された軟膏は手湿疹には弱すぎますし、逆に手湿疹に処方された軟膏を顔や陰部につけると強すぎて副作用が出てしまいます。

 

皮膚科に行くとよく処方されるステロイド。ステロイドは炎症を止める作用があるので、かぶれや湿疹、つまり皮膚炎に有効です。ステロイドの副作用については、ニキビ、皮膚の萎縮、毛細血管拡張、細菌感染、局所的な多毛などがありますが、信頼できる皮膚科医の指導のもとで外用するのであれば怖がらなくて大丈夫です。ステロイドに嫌なイメージをもっていて怖がってしまう患者さんもいますが、飲んで全身に作用させるのではなく、あくまでも皮膚炎のある部分に塗るだけなので、局所的な作用です。ステロイドの一番強いランクのものを1日に何本も塗りたくらなければ、糖尿病や副腎不全などの副作用は起こりえないと思います。そもそもステロイドはホルモンなのですが、普通の人はみんなプレドニンというステロイドの種類で5mg分くらい分泌されているんですよね。

 

また、お子さんは身体全体に薬の吸収率が多いので、皮膚科医は年齢と、症状、塗る場所によっての使い分けをしています。

 

これは私が働いているクリニックの看護師さん(可愛くて元気ハツラツな女の子です)の背中です。「先生、ずっと前から痒いのがあって、診てください(T_T)」ということで診察しました。これは慢性湿疹です。きっかけは下着の線維か摩擦ではないかと思いますが、痒くて掻いてを繰り返して湿疹が慢性化してしまったのです。ごつごつ盛り上がっている感じがあると思いますが、これは“苔癬化”という状態です。苔癬化してしまうと皮膚が厚くなっているので、ある程度強めのステロイドが必要ですし、場所も背中ということで、この湿疹には2番めに強いクラスの軟膏(アンテベート®軟膏)を処方しました。慣れるまではあれこれ考えながら薬を選んだりしますが、慣れてしまうとこのくらいであれば数秒でパッと診察できます。診断はなるべく素早くして、その分患者さんへの説明や指導に時間を使ってあげたいです。

 

たかが皮膚、されど皮膚です。ちゃんと皮膚科のことを分かっている美容皮膚科医は本当に少ないです。。私は保険の診察もしているし、美容であってもちゃんと皮膚科学に基づいた医療を心がけています。もちろん全ての物事を知っているわけではないけれど、医者は一生勉強していくものなのです。自分の知識と手持ちの札を増やしてどれだけ患者さんの役に立てるかだと思っています。そしてなるべく優しく、少しでも不安をとってあげられますように。