319:鬼滅の刃の女性キャラを「役割語」で斬る(お遊び) 2021年9月 | 週刊 昔のバックパッカ―

 胡蝶しのぶは敵にも「です」、「ます」を使って話す。

「わぁ凄いですね・・・」と鬼に話しかけた後、「こんばんは、今日は月がきれいですね。」と挨拶をしている。注①

 命乞いをする鬼に「助けてあげます。仲良くしましょう。協力してください。」と告げるが、攻撃を受けると反撃、鬼を切り殺して「仲良くするのは無理のようですね。残念残念。」と言う。注②

初登場のときは半死半生の我妻善逸に「もしもし大丈夫ですか。」注③、と声をかけている。

須川亜紀子は、鬼殺隊の中で実力も位も高い「柱」の一人であるしのぶを「キャリア女性・母親・姉としての役割を実現している」と言っている。注④ しのぶは薬の調合ができる。非力で鬼の首を切れないが、鬼を殺す薬で敵を倒す。主人公たちが怪我をしたときは、しのぶの屋敷で療養する。〈女性ことば〉だがどこかおっとりした話し方はキャリア女性よりも、ケアをする女性を連想させる。

 同じ薬を扱う女性に、鬼だが鬼と戦う珠代がいる。

 珠代は医者でもあり、話し方に知的な上品さ見える。「鬼となった者にも「人」という言葉を使ってくださるのですね」注⑤、と年下の炭次郎にも敬語を使う。自分が鬼にした愈史郎を「この子」と呼ぶ。炭次郎を叩いた愈史郎を「よしなさい、なぜ暴力をふるうの。」、「次にその子を殴ったら許しませんよ」とたしなめる。注⑥ 鬼故に200歳を超えているが、30代前半くらいに見え、母親のようなイメージがある。

 「柱」の女性としてはもう一人、「恋柱」甘露寺蜜璃がいる。「柱」である「蛇柱」伊黒小芭内に思いを寄せていて、後に両思いとなる。実力はあるが、伊黒に助けられる場面もあり、「行くぞ」と伊黒が言うと、「はいっ」とハートマーク付きで答えてついて行く。注⑦

「キャーッ、伊黒さん素敵!!」注⑧

と若い〈おんな言葉〉を話す。好きな男性に守られ、ついていく女性の部分を持っている。

 須川は「伝統的な女性性というものに絡め取られた女性の苦悩が、しのぶや蜜璃をはじめ様々なキャラで表現されている」注⑨、と述べている。しのぶ、珠代、甘露寺は戦いの途中で亡くなる。ケアをする女性、母、男性の後ろにつく女性という伝統的な女性は亡くなった。次世代の女性は炭次郎の妹・禰豆子と、しのぶに引き取られ修行をした栗端落カナヲだ。

 禰豆子とカナヲには話さないという共通点がある。禰豆子は鬼に変えられた後はうなり声しか出さない。サザエさんのイクラちゃんは「バブバブ」と幼児語を話すが、あれと同じで言葉として意味がとれない。禰豆子は体力回復のためによく寝ているが、それも幼児を連想させる。

 カナヲも自分の意思で言葉を発せらず、行動もおこせなかった。誰かに命令されるか、命令が無いときはコインを投げて、裏表を見て行動を決めていた。炭次郎が「表が出たらカナヲは心のままに生きる」とコインを投げ、表がでたことがきっかけで自分の言葉を発するようになった。

 禰豆子は鬼に変えられているが炭次郎とともに鬼と戦う。炭次郎のピンチを助けるくらい強い。守られる女性ではない。カナヲはしのぶを食い殺した鬼に「いま食った柱の娘より実力があるかもしれない」と言われるくらい腕がたつ。薬を調合する場面はなく、ケアをする女性から抜け出している。しのぶに鍛えられ、育てられたカナヲと珠代の薬によって人間に戻ろうとしている禰豆子は伝統的な女性性をまとっていない。鬼滅ブームの要因の一つとして女性人気の高さがある。注⑩ 民俗学では「子供と老人はともに「死」の世界に近い存在」で人ではない。注⑪    人は言葉を得て人となる。禰豆子とカナヲは人として生まれることで、新しい女性像を示し、女性を引きつけた、なんてね。

 

 

注①『鬼滅の刃5巻』41話、〈ジャンプコミックス〉集英社

注②『鬼滅の刃5巻』41話、〈ジャンプコミックス〉集英社

注③『鬼滅の刃5巻』35話、〈ジャンプコミックス〉集英社

注④「「鬼滅」、現代を移す女性キャラ しのぶ、多様な役割実現/蜜璃、恋も仕事もあきらめない」2020年12月6日、朝日新聞、朝刊27頁

注⑤『鬼滅の刃2巻』14話、〈ジャンプコミックス〉集英社

注⑥『鬼滅の刃2巻』15話、〈ジャンプコミックス〉集英社

注⑦『鬼滅の刃16巻』140話、〈ジャンプコミックス〉集英社

注⑧『鬼滅の刃16巻』140話、〈ジャンプコミックス〉集英社

注⑨「鬼滅」、現代を移す女性キャラ しのぶ、多様な役割実現/蜜璃、恋も仕事もあきらめない」2020年12月6日、朝日新聞、朝刊27頁

注⑩鬼滅の刃:“女性人気”にとどまらない理由は - MANTANWEB(まんたんウェブ) (mantan-web.jp) (2019年12月30日)2021年9月24日閲覧

注⑪佐野賢治・谷口貢・中込睦子・古家晋平、編『現代民俗学入門-「Ⅵ生と死」』1996年、吉川弘文館、187頁