しつこさと粘りの極限まで~野生の緑・完結編 | 音楽でよろこびの風を

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いしはらとしひろです。

 

勝手にジャズ妄想ストーリー

野生の緑~グラントグリーンのしつこい魅力

第4話 完結編

 

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ジャズファンクギターの巨人 グラントグリーンの物語。

今日で最終回です。

今日は60年代後期以降のファンク期のお話を!

1968年頃のムショ暮らしで、より研ぎ澄まされた!?

 

「ところで。アルバム『グリーン・イズ・ビューティフル』あたりから、急激にファンク寄りの演奏になりましたよね。特に『アライブ』と『ライブ・アット・ライトハウス』の二枚のライブ盤」

「ああ、そう言われるけど、そんなに弾いてること変わっているつもりはないんだけどねえ」

「そうですかねえ。なんというかフレーズの粘着度とか、あとバンド編成のせいもあるでしょうけどギターの音量も上がっていて、ひずみ気味だけど艶のあるギターの音色もカッコいいですし」

「そのちょっと前に、オレ一回捕まってるじゃない」

一応気を使って触れないでいたのだけれど、グラントさんの方から言い出した。彼は1968年頃に麻薬で実刑判決を受け、収監されている。

「あれ、お薬ですよね」

「まぁね。自業自得だから特に言い訳はしないけど、まぁ、いいもんじゃないね」

「そりゃそうですよね」

「で、そろそろ刑務所を出られるって時に考えたんだよ」

「それは音楽やギターのことですか?」

「もちろん。いや、ムショに入っちゃったから、出たって仕事自体もあるかどうか分からない。こういうことで、そのまま廃業しちまったミュージシャンだって結構いるからね。

 でも、まだ音楽を仕事としてやっていけるなら、もっと自分に忠実な音楽をやっていこうって思ったんだ。

あとジェームス・ブラウンの、音楽にも言っていることにも凄く共感した、ってのもあるかな。黒人であることにプライドを持てってカッコいい決めじゃないか(Say it loud,I’m black and I’m ploud)

 ムショの中であの曲を聴いて、ものすごく力づけられたんだよ」

「へええ。そんな風に思ったんですか。JB、僕も大好きですけど。だからその後はJBさんの曲のカバーも増えたんですね。

 でも自分に忠実にって言いましたが、それまでのグラントさんの演奏だって素晴らしかったじゃないですか」

「おおお、ありがとう。でもな、たとえば一緒にやるプレイヤーや音楽の方向性なんかをある程度決められたセッションなんかもあるわけだ。もちろんオレは、そういうセッションだってその時の全力は尽くしたさ。でもね」

 でも。

 確かに出所後のグラントさんの演奏は、研ぎ澄まされつつそぎ落とされつつ、言うべきことは言うぞという気迫がある。野性味も増している。というか完全解き放たれ状態。

「ま、言いたいことをすっきりはっきり言い切る」

 そしてまた、以前より快楽的でもある。ストイックな快楽?いや、ストイックというのとは違うなぁ。よりファンクであることに貪欲というか。

「で、やりたいやつとしかやらん」

 え、なんかちょっとエッチっぽい。

「エッチは音楽の肝だ」

 はい、仰せの通りで。

「そしてとことん乗せまくる。しつこいくらいにな」

 出た!必殺のしつこい。

 その結果グラントさんの音楽は。歌心全壊、いや違った、まったく逆。歌心全開!

「オレが弾くこの音よ、どこまでも突き抜けていけ、って思いながら弾いてたよ」

 ファンク度をぐんぐん上げて、僕らの腰を揺さぶるようになったのだ。お得意の繰り返しのフレーズも、この頃にはもうものすごい濃度になっていて、それは体の芯からグルーヴを呼び起こすのだ。

 

 しつこいわね、あなた。でも好き。だから好き。状態なのであります。

 

「あと、ニール・クリーキーに会ったのも大きいね。ラテンソウルブラザーズにいた鍵盤弾きだ。奴に音の濃さとは何かってことを、今までとは違う角度から教わった気がするな」

「そうですね。アライブでも2曲ほど弾いていますね。ラテンソウルブラザーズもコテコテ。あと、太鼓の人も強力ファンク化に手を貸していると思うんです。イドリス・ムハンマドさんのドカドカドラム」

「ああ、あいつのオレたちをプッシュする力は強力だったね。全員があおられたよ、あのバスドラム一発で」

「アライブとライトハウスライブは、今もよく聴いてます。大好きです。超盛り上がります。

 特にアライブ収録の『スーキースーキー』は一時中毒のように毎日聴いていました。グラントさんの弾くリフと、ムハンマドさんのドカドカドラムのコンビネーションが気持ちよすぎて」

「ははは、中毒か。グラント・グリーン中毒ね。気をつけた方がいいぜ。あの頃は客も踊って聴いていたからな。お前も踊りながら聴け」

音のエネルギーのが全開になって放たれる姿。でもそれに接するのは難しいことじゃない。『アライブ』か『ライブ・アット・ライトハウス』のCDを手に入れて、プレイヤーにセットすればいいだけ。簡単に出会えるんだよ。

 

グラント・グリーンは1971年録音の『ライブ・アット・ザ・ライトハウス』を最後にブルーノートを去ることになる。このアルバムも怒濤のようなファンクの嵐。超濃厚盤だ。

「まぁ、しょうがないよ。大恩人のアルフレッド・ライオンはもうその数年前にブルーノートの経営から手を引いてしまっていたし。会社自体もロスに移転することになってしまったし、録音で取り上げるミュージシャンの傾向も随分変わったしな」

1976年にクリード・テイラー率いるCTIから『メインアトラクション』をリリース。それが最後の作品になってしまう。

1979年1月31日、ライブに向かう途中で心臓発作を起こし死去。享年43歳。

 

「グラントさん、まだ、弾き足りなかったよね、ギター」

「そりゃそうだよ。まだ43歳だったからなぁ。やってみたいこともたくさんあったし、こいつと一緒にやれたら、なんてのもいたしな」

「でも、あなたの音楽、90年代半ば以降、クラブなんかを中心にものすごく評価が高まっていますよ」

「うん。それはありがたいよ。それに死んで40年経っても、お前みたいに聴いてくれる奴もいるし」

「誰と一緒にやりたかったですか?」

「そうだな、マイルスかな?」

「へええ、意外というか」

「でも、音の隙間感とかフレーズのデザインの仕方なんか、結構マイルスから学んだんだぜ。まぁ、そうは聞こえないだろうけど」

「そうなんですか」

「今日はゆっくりとこの世界で、音楽話ができて楽しかったよ。それもオレのアルバムについて話すなんて、最高じゃないか」

 最高、といけしゃあしゃあと言い垂れるところが、「含羞の人・モブ霊」さんとは大違いだ(笑)

 

「くつろいでいるところ、邪魔したな。そろそろ帰るよ。ありがとうな」

彼は長い手を、バイバイという感じに振り上げて、背中を向ける。

ファンクギターの巨人、グラント・グリーンさん。

あなたの音楽、大好きです。これからもみんなに伝えていきますよ。あなたのブルースの野生力を。解放力を!

と、数歩歩き始めたグラントが振り返った。

「そう言えば、ハンクから言われてた。お礼というか、おみやげをやっとけって」

「おみやげ?」

 あ、前にハンクさんからもらった未発表の音源のことかな。グラント・グリーンの未発表音源なんて嬉しすぎるかも。

「今、お前の持っているその板に送り込んでおいたよ。家に帰ったら聴け。じゃあな」

板って?アイフォンのことか。

前を向いたグラントは、今度こそ振り向かずに歩いて行く。

「ありがとう、グラントさん!」と大声を出した僕に、右手を「わかったよ」というふうにあげた、その姿がふっと消えた。

 

 ハンクさんの時もそうだったけど、なんでこんなに淋しいのかな。

 

 家に帰るまで、アイフォンの中を確かめるのは我慢した。玄関の扉を開けるとメールの着信があった。

 

「今日はありがとう。話を聞いてくれたお礼に、そしてオレの音楽好きなお前に、とびきりの音源をプレゼントするよ。

 1969年、ムショから出たばかりのオレに、なんとあの帝王マイルス・デイヴィスから声がかかった。話があるからギターを持ってオレの家に来いって。今思い返せば、マイルスがジョン・マクラフリン(ギタリスト)と録音をする直前だったような気がする。

 多分ハービー・ハンコックが話をしてくれたんだろうな。やつとはいい録音を一緒にしたし、マイルスとは長く一緒にやっていたわけだし。ばかでかい家に着いたらハービーとマイルスが出迎えてくれた。

 マイルスはエレクトリックギターをバンドに入れるつもりで、いろいろな奴を試している、と言う話は聞いていた。今日はオレか。

 とは言っても正式なオーディションというわけでもなく、もちろんレコーディングでもなく。30分くらい3人で雑談してた。ハービーと一緒にレコーディングした時のエピソードなんかを話して、大笑いしたその後に。急にマイルスが『ちょっと軽く一緒に音を出さないか』と言い出したんだ。

 3人で一緒に地下のスタジオに行き。そこにはすでにアンプもセットしてあった。やっぱりオーディションだったのか。

 ドラム、ベースなし。ハービーのピアノとマイルスのトランペットとオレのギター。三人でスローなブルースと、ドリアンモードで簡単なテーマだけ設定した曲をジャムった。

 マイルスはそれを録音していたんで、帰る時にダビングしてくれ、と頼んだら、マスターごと持っていっていいよ、と言われた。まぁ、それでオーディションには落ちたって分かったんだけどな。手元に置いて聞き返すまでもない、ってことだからな。

 とはいえ、マイルスのことは尊敬していたから、これはいい記念だったよ。たまに聞き返してにんまりしていた。まぁ、大した演奏ではないけれど、希少価値はあるだろ?(笑)

なんてったってマイルスとオレとハービーだ。

 お前には『特別に!!!』聴かせてやるよ。お前の例の板の「アイチューンズ」とか言うところに入れておいた。感謝を込めて」

 

アイチューンズを開くと「GG&MD/Blues」というファイルを見つけた。ああ、ドキドキする。そのファイルを恐る恐るクリックすると………。

 

野生の緑 完

 

野生の緑~グラント・グリーンのしつこい魅力

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というところで、4回にわたってお届けした『野生の緑~グラント・グリーンのしつこい魅力』いかがでしたか?

彼のしつこさは、一度ハマると癖になります。快感です。

この物語で取り上げたもの以外でも、名盤名作たくさんあります。

ぜひご一聴を。

 

最後に出てきた、マイルス・デイヴィスとグラント・グリーンの共演なんて、あったら本当に聞いてみたいですよね。


言うまでもなくこれはすべてフィクションです。

実在の人物、実在のCDアルバムを取り上げていますが、語られるエピソードのいくつかは事実を元にしたフィクション。そしていくつかは僕が勝手に作ったエピソード。まぁ、どこが境目なのか、なんてことも推理?しながら読んで頂くと、楽しさも増すと思います。

 


ジャズの隠れたヒーローたちの物語。

ここからも書き継いでいきます。

来週はブルーノートを陰で支えた男、色気のアルテナーを吹く男、アイク・ケベックの物語をお送りします。

 

モブ霊

~優しさのテナーサックス ハンク・モブレイの物語

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【相模の風THEめをと情報】

相模の風THEめをとの映像はこちらから見られます


11月22日(日) いい夫婦の日
相模の風THEめをと結婚14周年記念ライブ!
久々のリアルライブ+有料配信ライブ

*リアルライブ
相模大野カフェツムリ
神奈川県相模原市南区相模大野6-15-30-2
地図アプリ~「相模大野 カフェツムリ」ですぐ検索できます。

 

この日はお客様の間隔や換気にも気を使いつつ開催
予約限定8名様
18時開場 18時30分開演
価格 3000円+飲食オーダー
ライブは二部制で、途中休憩&換気タイムを入れます。
リアルライブ観覧予約はこちらから
ご予約をいただいた場合は、一日以内に予約確認の返信を致します。

料金は当日精算で大丈夫です。

*有料配信
ツイキャスより配信します。
観覧方法は後日お知らせします。
18時30分より開演
映像はアーカイブとして当日より2週間保存しますので、
当日見られない方も後日鑑賞できます。

 

 

今年になってたくさんできた新曲の数々と、ライブができない間に練り上げたサウンドとネタ(笑)あなたの耳と体がよろこびます。

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