グラント・グリーン=繰り返すことによる陶酔~野生の緑第二話 | 音楽でよろこびの風を

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世間を騒がす夫婦音楽ユニット 相模の風THEめをと風雲録

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相模の風THEめをとのダンナ

いしはらとしひろです。

 

大好きなミュージシャンほど、語るのに、

言葉を失ってしまうことってありませんか?

だってさぁ、とにかくカッコいいんだよ、聴いてみなって、

なんて具合です。

 

グラント・グリーンというギタリストは、正にそんな人。

そんな人の魅力を伝えたい、と思ったら

本人(本霊?)がやってきたわけです。

 

では、いきましょうか。

野生の緑~グラント・グリーン

第2回です。

 

野生の緑~第1回はこちらから

 


「ねえ、あなたのギター演奏って、なんで繰り返しが多いんですか?」
「違うフレーズ考えるのが面倒くさかったから」
「ええーーーー!そんなイージーな理由なんですか?」
「んなわけないだろ!」あんたは関西人か。ひとりボケ突っ込みをする霊って………。
「オレが繰り返しフレーズを入れているところをよく聴いてみな」
「はぁ。じゃあ、今、僕のアイフォンにグラントさんのアルバムがいくつか入っているから、聴いてみましょうか?オルガンのラリー・ヤングさん、それにボビハチさん(ボビー・ハッチャーソン=ヴィブラホン奏者。僕の中では通称ボビハチさん)なんかと一緒にやっている『ストリート・オブ・ドリームス』どうですか」

 


 

まわりには人もいないので、アイフォンのスピーカーからそのまま音を出す。
「おお、いいね。オルガン奏者とは随分たくさん一緒にやったけれど、ラリーのアプローチは独特だったな」
「そうかもしれませんね。グラントさんが一緒によくやってた、ジョン・パットンさんやジャック・マクダフさんとかのオルガン演奏と比べると、ブルースくさくないというか。このアルバムはグラントさんのアルバムの中でも、涼しさでは格別のような気がします。あと『抱きしめたい』も清涼度数高いですねえ」
「おお、そうかい。まぁオレは暑苦しいと思われてるからな。でも、意外と芸の幅広いのよ、オレ」少しばかりドヤ顔で話す彼。はいはい、わかってますって。
「しかし最近はなんだな、こんなちっちゃい板で音楽聴けたり、手紙のやりとりができたり、映像なんかも見られたりするんだろ。すごいな」
「電話もできますよ」
「オレも生きてる時に、こんなの使いたかった」
「そうですね、こればっかりは時代の恩恵というか。重宝してますよ。だって、町を歩いていて、いいメロディが浮かんだ時なんかも、こいつに吹き込んでおけば一安心ですからね。そこから作った曲、何曲もありますし」今度は僕が少しドヤ顔だ。
「でだ、ほら、今のところ。繰り返しフレーズが出てきたろ。どう感じる?」
 さっきの曲の話に戻った。
「いや、カッコいいです。ここですよね、やっぱり盛り上がるのは」
「一番気持ちを入れたいところ、強く伝えたいところは自然と繰り返しちゃうんだ。もちろんその時によるんだが、オレの音楽の場合、隅から隅までアレンジしまくるようなことも、あんまりないからな。やっぱりジャズはその時その場の、一緒にいる奴らとオレの感情や気持ちのノリとかが、すぐに反映される音楽でもあるし」
 そうですよね。
「大事なことは何度でも言わないとな」とドヤ顔ではなくマジな顔で語るグラントさん。

 彼の音楽を語るのによく使われる「ブルージー」という言葉。僕も結構その場のノリで安易に使ってしまうが、これが結構正体不明のもので。とはいえ、この雰囲気、ブルージーだよねえ、と言えば大まかなところは通じるし、相手が感じ取っているものも僕と極端には違わないと思う。
 ブルースというと一般には哀しみ、ということになるのかな?でもブルージーな音に含まれるのは切なさとか憂鬱とか、そして時には、何かを解き放つ開放感もあれば、一気に突っ走る感覚なんかも、ブルース的な音の一つとして、受け取る時もある。一口にブルースと言っても、けっして一色ではないのだ。マーブル模様のらせん階段。
 あるいは感情面を抜きにして、音楽的・楽理的に言うこともできる。たとえば主音から3度とか7度の音がフラットしていたり、リズムの力点がやや後ろにあったり。そういうことでも説明はできるのだけれど、でもやはり。それだけではないなあ。
 グラント・グリーンの音楽には、初期も後期も一貫してブルース感覚がある。哀しみの、悲しみのというより、もっと野性的なもの。そして根源的なもの。
「あなたのブルースな感じ、僕はブルーノートでの初録音『グランツ・ファーストスタンド』が好きなんですよね」
「ああ、あれはもう、素のままのオレだよね。初めてだから勝手も分からなかったのもあるけど。それに一緒にやったベイビーフェイス・ウィレットのオルガンが、これまた」
「あの鶏の鳴き声みたいな切り込んでくるオルガン、たまらないですよね」
「子供の頃から教会で歌ったり演奏してたりしてたろ?あの頃のオレたちにとっては教会って特別な場所なんだ。多分白人の奴らよりも10倍くらい、生活の中に占める割合は大きかったんじゃないかな。信仰の場であり、また数少ない娯楽でもあった。そして楽しみつつも本気で音楽する場でもあった。教会での音楽のしみこみ方が深いんだよ、あの頃に育ったオレたちには」
「それがあのファーストアルバムの感じにつながっているんですか?」
「多分な。コール・アンド・レスポンス。そしてゴスペルと熱狂、高揚感。オレの、いやオレたちの根っこだからね。ファーストアルバムだからこそ、あれが生な形で出てきたのかもな。繰り返しが多いのは、オレのギターがプリーチャー(説教師)だからかもしれないぜ」
「なるほど。じゃあ、繰り返しは教会由来?」
「そうだな。あと、ジャズを仕事にする前はリズム&ブルースのバンドでドサ回りしてたのも大きいよ。土曜の夜に盛り上がりたくてウズウズしてる奴らを乗せるすべは、ああいうところで体にたたき込まれてるからな。しつこいくらいがちょうどいいんだ。リフの繰り返しでどんどん上り詰めるあの感じ、最高だよな」
 朴訥だけれど、説得力は深い。でも深刻な顔ではなく、踊れるビートをも持っている。そんな「しつこい繰り返し」 そしてその根っこに横たわるおおらかさと開放感。
 
グラント・グリーンのギターのフレージング、つっかかっているような、とか、たどたどしいとか言う人がいる。確かにメトロノーム的にきっちり揃った演奏ではないけれど、僕にはだからこそ、豊かに感じる。
その辺のことも聞いてみよう。
「グラントさんのリズム感覚についてなんですけど」
「リズム感?いいよ、オレは」もちろん超ドヤ顔。はいはい。
「すいません、失礼かもな質問で。でも、世間にはあなたの弾くフレーズを聴いて、ぎこちないとかギクシャクしたリズム感と感じる人がいるみたいなんです。僕はそんなことない、だからこそカッコいいと思うんですが」
「それでいいじゃん」
「一件落着?」
「お前、セロニアス・モンクのピアノ、聴いたことあるよな?」
「はい、もちろん。僕、モンクさんも大好きなんで、わりとCD持っています」
「それ聴いて、モンク大先生のリズム感悪いと思うか?」
「あの人も独特のリズムの持ち主ですよね。それこそ何かに引っかかったような、ビミョーなタメとか」
「あれはさ、モンクさんが自分の曲や演奏スタイルを研究し尽くした結果なのよ」
「はぁ、そうなんですか?」
「オレだって、モンクと直接話したわけじゃないぜ。ライブでもスタジオでも会うことはなかったし、オレの現役時代、すでに雲の上の人だったからな。
 でも、特に彼の素晴らしいオリジナル曲には、あのギクシャクしたリズムと彼一流の強いタッチは必要だ、と彼は判断した」
「はぁ」
「だから、彼はいわゆる上手に弾くこともできるんだが、そんな風に弾くことは、特に彼のオリジナル曲を弾くに当たっては、あまり意味のないことだったんだ」
「凄い分析ですね」
「いや、そういう風に言っている人は結構いるよ。マイルスなんかもそう言ってたらしいし」
 なるほど、マイルスに言われたら説得力100倍。
「ここまで言えば分かるよな」
 つまり、グラントさんのぎこちなく聞こえるようなフレーズの運びも、分かってやっていると。
 マジか?
「そう。なんといったらいいのかな。体の中でメトロノーム的な正確なリズム、鳴ってるのよ、ちゃんと。でも、それこそ体で分かっているというか、このフレーズは少し遅くとか、やや突っ込んで、というのが瞬間的に手でわかるの。考えているのか?と言われたら考えちゃいない。ただ、オレのこの素晴らしい手が感じるままに、命ずるままに弾くと、ああなるのよ」
「なぁるほど」
「だってあの方がカッコいいだろ?」
「ええ、間違いなく」
 さっき聴いたフレーズを脳内でジャストリズムにして、アクセントも平坦に変換してみる。うーん、今二つだ。
 さすが。

 

 

今日はここまで

第3話に続きます。

 

でこぼこして、超個性的なリズム感やフレージングを持っているからこそ、

今聴いてもエバーグリーン。

 

勝手に妄想ジャズストーリー

野生の緑~グラントグリーン 第1話はこちらから

 

ハンク・モブレイの物語 

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