野生の緑~超強力しつこいギタリスト=グラント・グリーンの物語 | 音楽でよろこびの風を

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世間を騒がす夫婦音楽ユニット 相模の風THEめをと風雲録

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相模の風THEめをとのダンナ
いしはらとしひろです。

ご好評いただいている、「勝手に妄想ジャズストーリー」
今日からは4回連続で、素晴らしきジャズ/ファンクギタリスト
グラント・グリーンを主人公にした『野生の緑』お届けします。
大好きなんですよね、グラント・グリーン。
音色といいフレージングといい、もうドツボのど真ん中。
そんなグラントさんが、僕の脳内にやってきました。

先週の主人公、ハンク・モブレイさんとも
何度も共演しているグラントさん。
ハンクさんから話を聞いてきたのでしょうか?

勝手にジャズストーリー②
野生の緑~グラント・グリーンのしつこい魅力


 現代においては「しつこい」というのは、ひょっとすると嫌われる要因かもしれない。
 だけど、ある種の音楽においては、しつこいは許される。むしろ奨励される場合も、たまにだがある。グラント・グリーンの名において紡ぎ出される音楽の場合は特に。

 家の近所の森林公園のベンチで、のんびりくつろいでいた。
 目には初夏の緑がまぶしい。綺麗な緑の中に身を置いていたら、小学校の頃好きだったみどりちゃんを思い出した。
「みどりちゃん、元気かな?」ふと独りごちてしまう。
 すると。誰かが僕の肩を叩く。
「オレのこと呼んだか?」
 えっと思って振り向くと、バカでかいスーツ姿の黒人の男が僕の肩に手を置いている。
 うわっ、誰だあんた?
「オレの名前を呼んだろう、みどりって言ったろう?」
 はぁ??何言ってんの??しかも日本語で話しかけてる?あ、この脳内に直接聞こえてくるような感じはひょっとして。
「お前、オレのCD最近よく聴いてるじゃないか。いや、それどころかオレのギタープレイのことも好きだとかなんとか、友達に言っていたぢゃないか」
 ???
「グラント・グリーンだ」

えーーーーーー!

 そういえば2ヶ月ほど前に、ハンク・モブレイの霊(通称 モブ霊)と話をしたことがあった。モブレイさんが僕にプレゼントしてくれた音源が、グラント・グリーンとの共演の録音だった。そのつながりなのか?
 それにグラント・グリーンももうとっくに死んでいる。ということはモブ霊ならぬ、グリーン霊?

「まぁそうなんだけどさ、でもグリーン霊だと言いにくいだろ。だから日本語でみどり君でどうだ?」
「み、みどり君って」
 違う。どう考えても違う。みどり君って柄じゃないだろう。グリーンだから緑と言い張りたいんだろうが、そうじゃない。多分。
「いや、それはなんかこっ恥ずかしいですよ。グラントさんじゃダメですか?」
 

 だってあんたは、あのファンキーギターの王者グラント・グリーンなんだろ?

 グラント・グリーン(1935~1979年)
 アメリカのジャズギタリスト。サックス奏者のルー・ドナルドソンに見いだされ1961年デビュー。ブルースやゴスペルに基盤を置きつつも、独特のタメと味のあるギターで人気を博した。60年代後半には強力なファンク曲を録音し、90年代以降、クラブシーンを中心に再評価が高まっている。
 代表アルバムはブルーノートレコードに残された「アライブ」「アイドルモーメンツ」「サンデイモーニン」「フィーリン・ザ・スピリット」「ライブ・アット・ライトハウス」など。



「まぁいいか。ハンクから聞いたぜ。結構こいつはちゃんと話しを聞いてくれるって。どうせお前暇なんだろ?」
 どうせ、とはなんだ、どうせとは。まぁ、どうせ暇ですけど。それにしてもミュージシャンの霊は話に飢えているのか?
「いいですよ、暇ですから。じゃあ、公園で散歩でもしながら話しましょうよ。天気もいいことだし。しかし、どうしてまたここに?」
「おうよ。だってハンクがお前に渡した音源、オレとハンクが共演したやつだって言うし。仲間の噂で、お前がオレのアルバムを好きだと言ってるのも聞いたし」
「凄いんですね、ミュージシャン霊の情報網は」
「ああ、特にこの世に思いを残して死んだやつはな。先週もお前、オレのCD買ってたろ、ディスクユニオンで」
「そんなことまで知ってんですか。おそろしい。おちおち買い物もできませんね」
「ああ、霊は凄いぞ。お前のご先祖さんの霊なんか、すべて見ているからな。エロ本とか買う時は気をつけろ」
気をつけろって言われても。

「オレも死んで40年以上経っちまったのに、まだこうしてオレの音楽を聴いてくれているなんて、嬉しいことだね。ありがとうな」
 グラントさんはモブ霊さんと違って(ハンク・モブレイさんのことを書いた「モブ霊」はこちらから読めます)ざっくばらんな話っぷりだ。まぁでもその方が、あの豪快ファンキーな音楽に合ってるかな。

「よう、お前、自分でも音楽やってんだってな」
「ええ、かみさんと相模の風THEめをとっていうグループをやっています」
「奥さんと一緒にか。いいなぁ。でもよく続くな。なかなか夫婦で音楽するのって大変じゃないか。アイク&ティナ・ターナーとかスタンリー・タレンタインのところとか、夫婦で音楽やってて、でも別れちまったやつらいっぱいいるからな。気をつけろ、お前も」
 大丈夫です。うちはかみさんが神様で、僕はその支配下にありますから(笑)
「ところでグラントさんは、なんでギターを弾くようになったんですか?」
「オレがギターを弾き始めたのは、親父が家でギターを弾いていたからだ。別にプロではなかったけど、ブルースなんかをよく弾いていた。

 それでオレもまずは、親父に簡単な手ほどきを受けて、そのうち気がついたらギターの虜ってわけさ。それこそ、一晩中弾いてたよ」
「なるほど。僕もギターを弾くんで、なんとなくその感じ分かります。それにブルースを聴くのも弾くのも好きです」
「おお、いいね。ブルースでは誰が好きなんだ?」
「フレッド・マクダウェルとエルモア・ジェイムスです。他にも好きな人はたくさんいますけど」
「ふーん。ってことは、お前はブルースの中でもスライド弾きが好きなのかな?」
「ええ、そうですね。でもグラントさんはスライドはやりませんよね。シングルトーンでねちっこく、ねばく」
「こら、人を納豆かオクラみたいに言うな。まぁ、でもそうだな。チャーリー・クリスチャンとかギタリストももちろんコピーしたけど、バップのホーン奏者のフレーズのコピーなんかもよくしていたからな。マイルス・ディヴィスとかチャーリー・パーカーとか」
「なるほど、それでホーンライクな、と言われるあの感じができあがったんですね」
「そうかもな」
「でも、グラントさんも演奏スタイルが結構変わっていきますよね」
「まぁ、当時は音楽の流れの変化も結構早かったしな。オレがブルーノートで録音し始めた頃はハードバップからファンキージャズへ、なんて頃だったし」
 グラントさんは、ファンキージャズ以前も以後も、ずっとファンキーであり続けたルー・ドナルドソンに見いだされ、彼のアルバムのサイドメンとしてデビュー。
 フレーズの音使いなどは年を経るごとに変わっていくのだが、一貫して変わらないのは独特のブルージーさと繰り返しフレーズの多さ。この繰り返しの多さ、言い換えればしつこさが彼の大きな魅力の一つだ。


今日はここまで。

グラント・グリーンさんはブルージーでファンキー、
みたいなイメージが強いですが、

意外と、色々なスタイルで演奏しています。
もちろん、グリーン色に染めてですが。
でも一貫しているのがツィタツィタツィタ~♪と繰り返されるしつこいフレーズ。
きたぁ!と嬉しくなります。
あなたもぜひご一聴を。
幸せになります。

次回をお楽しみに!4話連続です。

勝手に妄想ジャズストーリー
1作目 モブ霊(主人公 ハンク・モブレイ)は
こちらから読めます