モブ霊 ~勝手にジャズストーリー① 偉大なるサックス奏者ハンク・モブレイとの会話 | 音楽でよろこびの風を

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相模の風THEめをとのダンナ

いしはらとしひろです。

 

ジャズメンの物語を書きました。

やさぐれたジャズではなく(笑)心暖まる話。

「勝手にジャズストーリー」と名付けました。

ジャズは素晴らしいのだ。

 

僕はけっしてディープなジャズファンではありません。

でも、好き嫌いで言ったら、好きです。

それで充分でしょ?

 

30代の後半になるまで、ジャズというものに興味が持てませんでした。

ある日ふと手に取ったのが、

マイルス・デイヴィスとギル・エバンス・オーケストラの共演盤

『スケッチ・オブ・スペイン』

そこから少しずつ、ジャズの魅力にはまっていきました。

 

一時は300枚くらい、アナログ盤を中心に

ジャズのアルバムを持っていたのですが、ある日気がつきました。

「オレ、このアルバムたちのほとんどを買った時の一回しか、

聴いていないんじゃないの?」

そこに気がついて何枚かを聴き直してみましたが、あまり面白くない。

僕はコレクションすることに気持ちが行っていて、音楽を聴けていなかったのです。

その時に、本当に好きだな、とか、これからも聴きたいな、と

思えるものだけを厳選して250枚くらい売ってしまいました。

その後にもたまにジャズのCDを買ったりはしましたが。

買ったらちゃんと何度も聴いて。

でも、一時のとにかくジャズ、という熱気は薄れ、

「たまに聴くいい音楽」と言うポジションに落ち着いていました。

 

再びジャズ熱が高まったのは、今年に入ってから。

新型コロナの影響で、家にいる時間が増え。

でもCDショップに行くこともままならない。

そうだ、家にあるCDやレコードをじっくり聴きなおそう。

 

しみこんできました。

やっぱりいいじゃんジャズ。

今度は前のようにむやみに買いあさるわけではなく、

その時に聴きたいものを買って、素直に聴いていました。

 

前置きが長くなりましたね。

 

そんなある日、ハードバップ期の素晴らしいテナーサックス奏者、

ハンク・モブレイさんが、僕のアタマの中に舞い降りたのです。

 

全編ご覧になる方はこちらへ

   ↓

 

冒頭の試し読みはここから~。

 

勝手にジャズストーリー①

 

モブ霊 その1~素晴らしいテナー奏者ハンク・モブレイとの会話

  いしはらとしひろ 作

 

 インターフォンが鳴って、モニター越しに外をのぞくと、中年の黒い顔の男が見える。

 40代?アメリカ人?

 あのう、アメリカに限らず、外国人の友達や知り合いはいない。僕は国際的な人間ではないのだ。

 おそるおそる「どちらさまですか?」と問うと。

「ハンクです」と日本語で答えた。答えた?なんか耳と言うよりも脳内で聞こえたような気が。まぁいい。ハンクです、と名乗ったがどこのハンクさんなんだ?

 玄関を開けるとスーツを着た黒人。でもそのスーツはすこしくたびれている。

「あやしいものではありません」って言っている時点で怪しいです。

「あなたとお話がしたくて来ました」

 

 この顔。どこかで見た覚えがあるぞ。

 でもオレには、外国人の知り合いはいない。だれ?

「あなた、最近よく私の音楽を聴いていますよね。お礼を言いに」

 えーーーーー、まさか。

 まさかのハンク・モブレイ?見たことあると思ったらCDジャケットだ。マジか。でも、ハンク・モブレイは1980年代には亡くなっているはず。まさかの二乗の幽霊さんですか?

 

 ハンク・モブレイ(1930~1986年)

 アメリカのジャズミュージシャン。1950年代から60年代にかけて活躍したジャズのテナーサックス奏者。『リカード・ボサノバ』のヒットで知られる。アルバムではブルーノートで録音された『ハンク・モブレイ・クインテット』『ソウル・ステーション』『ペッキン』『ディッピン』などが名盤として知られている。

 いわゆるハードバップ期を代表するテナー奏者。

 

「上がってもいいですか」相変わらず日本語で話しかけてくる。

「なんで日本語話せるんですか.ハンクさん」

「だって霊ですから。あなたの脳内に直接言葉を投げてます。それにあなた英語ダメでしょ?私も日本語話せませんし」

 なるほど、確かに耳を通して話している感じではないな。

「そういうことか。まぁ、お上がりくださいな。玄関で立ち話もなんだし」

「日本では靴は脱ぐんですよね」脱いだ靴を律儀にきちんと揃えるハンクさん。

 

 人生初体験、霊をリビングルームに案内して椅子に座ってもらう。霊とは言え、ほとんど生きている人に見える。超精巧な3D、あるいはバーチャルリアリティみたいなもんなのだろうか?

 それにしても、ハンク・モブレイの霊がうちにやってくるとは。この感じだと、祟りだのなんか恐いことをしに来たわけではなさそうだから、まぁいいか。それにハンクの音楽は確かに好きだし。

「ハンクさん、何か飲みますか?」

「そうですね、紅茶があれば一つ」僕も紅茶党なのでなんか嬉しい。早速紅茶の準備をする。

 

「でも、ハンクさん。僕は確かにあなたの音楽、わりと好きですけど、そんなにたくさんCDを持っているわけではないし、詳しいってほどでもありませんよ」

「ははは。そうはいってもこの最近、私のCDを立て続けに何枚か買ってくれてますよね。まぁ、中古盤ですけど」

「こうして霊になって日本くんだりまで来ていると言うことは、いわゆる成仏はしていないわけですね?」

「ジョーブツ??ほわっと?」

あ、いきなり英語になった.まぁホワット位は分かるからいいけど。

「そうか、キリスト教の人は成仏とは言わないよなぁ。で、ハンクさん、今日こちらに見えたのはどういうご用で」

「先ほども申し上げましたが、お礼ですよ。CDを買ってくれて、僕の音楽に興味を持ってくれて」

 ええ、それでわざわざ!

「仲間に聞いたんです。お礼に行くとよろこばれるよって。それにこのことをあなたが誰かにしゃべったり書いたりしてくれたら、また僕の音楽に興味を持つ人も増えるかもしれないじゃないですか。いわば販促活動でもあります」

「販促!あのう、僕の持っている勝手なイメージですけど、ハンクさんってそういうこととは無縁というか、むしろ苦手そうな」

 ハンクさんはちょっとくつろいだ感じになり、椅子の背もたれの後ろに手を回す。

「ええ、確かに生きている時は、そういうことはからきしダメでした。でも印税って私が死んだ後も、何十年かは子や孫の手元に入り続けるんですよ。子孫のためには頑張らねば」

そ、そういう理由ですか。

「まぁ、でも一番の理由はお礼です。なんと言っても僕が死んで何十年も経つのに、こんな風に熱心に聞いてくださっているんですから」

「僕もこんな形で、ハンクさんに会えるとは思ってもいませんでした。いやぁ、なんかうれしくなってきたな」

 うん。霊と言ってもそんなに不気味な感じではないし、僕の知っているハンク・モブレイの、そうだな、『ソウルステーション』のジャケットの頃よりもう少し年を取った感じかな。

「おや、そこにCDプレイヤーがありますね。せっかくですから、音楽でも聴きながらお話ししましょうよ。最近の日本の音楽でもいいですよ」

 リビングの隅に置いてあるCDラジカセに目をつけたのか、音楽を聴こうと言い出すハンクさん。うーん、ここはハンクさんのCDをかけたほうがいいのかな?いや、たとえ霊といえども本人と一緒に聞くハンク・モブレイ、いいんじゃない。

「ええ、いいですね。じゃあ、せっかくですからハンクさんの音楽を聴きながらお話ししましょうよ」

「わ、私の音楽ですか、ちょ、ちょっと照れるなぁ」

「なに、嬉しいくせに」

「はは、ばれたか。まぁ、販促活動の一環として」

 僕はハンクさんのCDは10枚くらいしか持っていないけれど、その中での最近のお気に入り「ハンク・モブレイ・クインテット」をCDプレイヤーにセットした。

 

「ハンクさんって結構人がいいというか、押しが弱いようなところ、ありますよね」

「よく分かりますね、そんなこと」

 まぁ、音を聞いてなんとなく。それにここまでの会話でも。

「だってものすごくカッコいいリフを作って、自分のアルバムでそういう曲だったらオレがオレがでも良いと思うんですけど、たとえばそれがツーホーンで、しかも相方がリー・モーガンさんみたいにバリバリ吹きまくれる人だと、むしろ彼をたててあげる、みたいなところあるじゃないですか。

 だいたいテーマの書き方、アレンジの仕方だって、相当気を使ってますよね。

 でも、気遣いだけではなくて、当然のことながら、かっこいい。このアルバムだと、トランペットは、これまた優しそうなアート・ファーマーさんだから、全体にソウルフルだけど柔らかい感じがありますけど」

「まぁ、僕はいい曲を書くことには燃えていたからね。僕が音楽に魅力は感じるのは、曲全体の流れの気持ちよさとかだからさ。

 もちろん僕のサックスだって気持ちよく吹きたいし、自信もある。でも、僕だけが目立ちたいわけじゃなくて、特にレコーディングアルバムだったら、何度も聴いてもらうわけだから、アルバムを通して聴いてご機嫌になってほしいよね」

 やっぱり。そういうところが大好きなんです。

 

 

【モブ霊~ハンク・モブレイの物語】

ここから先のお話は こちらからどうぞ。

   ↓

 

 

 

 

というところで、今日はここまで。

しかし大好きなミュージシャンの霊が

突然やってきたら、びっくりしますよね。

 

言うまでもなくこれはすべてフィクションです。

実在の人物、実在のCDアルバムを取り上げていますが、語られるエピソードのいくつかは事実を元にしたフィクション。そしていくつかは僕が勝手に作ったエピソード。まぁ、どこが境目なのか、なんてことも推理?しながら読んで頂くと、楽しさも増すと思います。

 

では次回をお楽しみに!

 


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