がっつり歌うジョン・レノンが好きだ | 音楽でよろこびの風を

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世間を騒がす夫婦音楽ユニット 相模の風THEめをと風雲録

先日、デビッド・ボウイについて文章を書いたら(改めて哀悼の意を)、なんか音楽のこと、好きなミュージシャンや曲のことをきちんと書きたくなった。

で、ジョン・レノンです。言わずと知れた、というよりも、もはや音楽神。悪口など絶対書けない感じ。
上で『好きなミュージシャンのことを書く』と書いておきながら、実はジョンさん、僕の中での位置は微妙なのです。ビートルズでジョンが作って歌った曲、好きなものはたくさんあります。ソロになってからの曲でも、何曲かあります。でも、僕の中で「微妙」なのですよ。特にソロになってからのジョンは。

「ジョン・レノン好きですか?」と問われたら、「好きな曲はあるけれど、ミュージシャンとして好きかと言われるとうーん……。」という感じ。そんな僕にとっての、好きなジョン・レノンのアルバムは。
「サムタイム・イン・ニューヨークシティ」1972年のアルバム。厳密にいうと「ジョン&ヨーコ」名義のアルバムなので、ソロではないのだけれどね。これ、最高っす。

ジョンと言えば「イマジン」という人が多いのだろうけれど、僕にとっては「イマジン」という曲も、アルバム全体も今一つ好きになれない。全体のもわっとした空気感が、生理的になじめないのだ。もちろん、好きな人にはあの空気感がたまらない、ということになるのだろうが。そして何よりも面白くないのが、アルバム全体を通して、ジョンががっつり歌っていないこと。というか、声があまり出ていないように聞こえる。「ジェラス・ガイ」などは、その声の出ていなさ加減が曲にも合っているから良いのだけれど、ほかの曲は「単に練習不足、歌いこみ不足のままレコーディングに臨んだのでは?」という疑問すら浮かんでしまうのです。

軽く歌うシンガーも好きなのだけれど、ジョン・レノンにはがっつり歌ってほしいのだ。
ビートルズ時代のジョン、少なくとも1965年までのジョンは、いつだって本気でがっつり歌っていた。

しかしここでは、「イマジンというアルバムが僕にとっては今イチ」ということを言いたいのではなかった。イマジン信奉者の皆さん、失礼。

その「イマジン」の次に出したのが、僕が好きなこのアルバム 「サムタイム・イン・ニューヨークシティ」。ここではがっつりと本気で歌っている。かっこいい。

ソロになってからのジョン・レノンは、ともすれば「愛」とか「平和」という言葉でくくられてしまう。実際そういうメッセージをはらんだ曲もあったわけだし。
しかし、そういう側面もあったろうけれど、それだけではないはずだ。個人的なしょうもないことや感情を歌ったものも、たくさんあるはずなのに、どうもその辺がなかったことにされているように見受けられるのも、なんだかなぁ。「コールド・ターキー」なんて、麻薬の禁断症状を歌った歌だぜ。大好きな歌だけどね。

ところがどっこい。
このアルバムでは『平和と唱えるだけではやってこない平和』を、あからさまに戦う姿勢でもって手元に引き寄せようという、なんというかジョン自身が「逆イマジン状態」となって熱く突っ走るのだ。そして、これがえらくキマっているのだ。

アルバム制作当時(1971~72年頃)の社会状況を反映した、トピカルかつプロテストな歌がずらっと並んでいる。プロテスト、というからには、「具体的にその問題をとりあげて、世に訴えている」のだ。詩的なオブラートに包むのではなく、正面切ってはっきりと。
ジョンと言えば、それこそ詩的な言い回しにかけては天下一品、僕が言うまでもなく天才である。そういう人が敢えて直截的に表現するときの強さと言ったら。
僕は別にプロテストソング好きなわけではない。でも、ここでのジョン・レノンの姿勢と歌いっぷりにはすごく共感も覚えるのです。とにかく力強く思いっきり歌っているのがいい。「ニューヨーク・シティ」の疾走感。「サンディ・ブラディ・サンディ」の狂気をはらんだ叫び、「ジョン・シンクレア」のふてぶてしさ。鋭利な刃物のジョンとヨーコです。



このアルバムはジョン・レノン単独名義ではなく「ジョン&ヨーコ」名義なので、オノヨーコさんの歌ももちろん入っている。これがまた、かっこいい。特に二枚目のCD(言い忘れたがこれは二枚組のアルバム。一枚目がスタジオ盤で二枚目がライブ盤)=ライブサイドでのヨーコのぶっとびかたはすさまじく、かつ素晴らしい。
頭に象を飼っている天才、フランク・ザッパ&マザーズと共にステージに立つジョンとヨーコ。アドリブかましまくりのシャウトしまくり。タガが外れてしまったのだろうな、二人とも。聴いている方がわくわくするタガの外れ方です。

前作と比べてしまうと、ずいぶんと味わいも向っている方向も違うように見える。しかし「イマジン」を作ったことによって、その次を考えたときに、ジョンは自然にこの地点に引き寄せられたのではないだろうか? あの作品を作ったからこそ、その時の社会と対峙して、直截的なメッセージを発したくなったのではないだろうか。

残念なことに、このアルバムは、生前ジョンレノンが発表したアルバムの中では、おそらく一番人気がなくて認知度も低い(気がする)。
「ジョン・レノン好きなんです。」と言っていた若いシンガーに「サムタイム・イン・ニューヨークシティはどう思う?」と尋ねたら、聴いたことがないというのならまだしも、アルバムの存在自体知らなかったしな。とほほ。

発表当時も、それまでのジョンのソロアルバムと比べると、あまり売れなかったらしい。
ジョンは自信家で、かつナルシストでもあるから、相当がっくりしたと思うのだが。
ソロになってからの流れを踏まえたうえで、本気で世の中と直接向かい合ってがっつり歌ったのに、振り向いたら誰も付いてこなかった。ついこの前まで持ち上げててくれたのにさぁ。

このアルバム全体が、コンセプト的にはひょっとするとヨーコ主体のような気配もある。ここで売れなかったのが、その後のヨーコとの別居やそれに続く酒びたり状態の、直接ではないだろうけれど、遠因のひとつなのではというのは深読みのしすぎか?別に資料的な根拠があるわけではないけれど。

なにはともあれ。
ここでのジョン・レノンは豪快です。轟音のウッディ・ガスリー、みたいなことをやってみたかったんだろうな。

ジョン・レノンに思い入れを持てない僕の、一番好きなジョンのアルバムのお話でした。スカムバッグ!

相模の風THEめをと ライブ予定
1月30日(土)
天使の遊viva
伊東市桜木町2-4-10 0557-38-1533
19時開演です。
①相模の風THEめをと
②ニベケイスケ
③蛇足鈍也(DONYA)

2月6日(土)
渋谷モンキーフォレスト
渋谷区桜丘町10-8
相模の風THEめをと×ワントリックポニー
ツーマンイベント 『2月になると彼らは』
コラボレーション絵画 展示 岡部彩
15時開場 15時30分開演
2,000円+オーダー
楽しませます!
大人のワンダーランド ご一緒しましょう。