現場の人 | 音楽でよろこびの風を

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世間を騒がす夫婦音楽ユニット 相模の風THEめをと風雲録

現場の人。

僕はお掃除の仕事を続けている。
いわゆる現場仕事。
でも、現場、という言葉はその文字を見れば分かるように
建築現場に限らず、あなたが、私が、当事者として関わっている
全ての場所に当てはまる。


現場ではいろいろなことが起こる。
生きている人間が動いている状況と対応しながら進めていくことだから、当然だ。
嬉しい偶然、あら大変なハプニング。
僕も随分もまれてきた。


20代の頃は住宅基礎工事の職人をやっていた。いわゆる鳶。
建築現場でも一番荒っぽいと思われる現場。
その仕事で基礎用のコンクリートの打ち込み作業をやっている時に
バコッといういやな音。
コンクリートを支えるはずの金枠が崩れてしまった。
決壊。
生コンがどんどん流れ出してくる。
その仕事を始めたばかり、慣れない僕はそれを見て呆然としてしまった。
しかし、その時、一緒に仕事をしていたYさんは
スコップと板切れ数枚持って、コンクリが崩れたところに突進。
流れ出るコンクリに板を当てて食い止め、
「おい、いしはら、オレが止めてる間に、早く足元の生コンをスコップで寄せてくれ」
ぼうっとしているわけにいかない。
僕もあわてて駆け寄って、スコップで必死に生コンをかい出した。
まだ僕も仕事に慣れていなくて、非常事態にぼっとしてしまった若かりし頃だけれど、
あの時、すっ飛んでいったYさんの必死の形相と、
対応スピードのものすごい速さは「仕事人の鑑」として僕の心に深く刻まれた。


ああ、現場ってこういうことだよな、と生コン流出が収まってしばらくたってから、思った。


あーだこーだ言う前に、反射神経で体が動く。
その時の最適な行動をすぐに取れる。
仕事力で現場力のお手本。


僕もあれから随分たくさんの「現場のアクシデント」に遭遇した。
そしてたくさんのことを学んだ。

現場は予想外のことが起きて当たり前。
でもそれを防ぐために、色々な段取りがあり、下準備がある。
それをきっちりやっておけば、事故やアクシデントの大半は防げる。
そしてまずい事が起きたら、迅速に行動。

そして、いろいろなことをクリアしながらも現場は進んでいき、
完成に至る。

もちろん何のアクシデントもなく予定もオーバーせず、大変スムーズに進み仕上がりのよい現場だってある。
いや、プロなのだから、そちらの方が多くて当たり前。
そうならなければいけないのだ。


でもうまくいく現場の裏には、今までの失敗や大変だったことが
全て生かされている。その重みを知っている人は頼もしい。


終わりよければすべてよし。

でも、その「よし」には全てが含まれているのだ。



音楽においても現場でいろいろなことが起きる。
ライブの現場、レコーディングの現場、作曲の現場。
予定通り、思い通りにいかないこと、多々ある。
建築現場とはいささか違う種類の「アーティスティック」だの「クリエイティブ」だの、
そういう部分での問題もある。
でも志を曲げないで、なおかつ現場なりに対応していく、
その時できそうな最善の事をすばやく見つけ、すぐ動く。
これはお蔭様で結構出来るようになった。

建築現場や掃除の現場と、原理や理屈は全然変わらない。



今日の僕の掃除の現場は、何事もなく、ほぼ予定通りの進捗で終えられた。
帰りの道が混んでいて、帰るのにいつもよりだいぶかかったけど、それもよし。

この文を書いたら、今度は相模の風レコードの現場。
CDプロモーション用に何枚か営業資料を発送する。
ついさっきまではレコーディングの現場。
自宅スタジオで、リズムパターンの打ち込みをしていたのだ。


仕事をするにあたって、いつも現場の人でいたいなぁ。
そしてまた、どんな仕事でもそうあれかしと思う。
自分の現場、と思えばこそ、仕事に誠実になれるってもんだ。
高みの見物でもなく、誰かの事をあーだこーだ評論するでもなく
自分の現場で忙しい、やることがある幸せ。


現場感覚。
現場対応。
現場の人。