〜杉田玄白が古希を前にしたためた健康長寿の心得〜
江戸中期、小浜藩医にして蘭学を日本に紹介した杉田玄白(1733〜1817)は、1774年に日本初の西洋医学書「解体新書」を刊行したことで知られています。同時に「養生七不可」と呼ばれる健康長寿のための心得を古希を迎える前年にまとめ、知人に配布したと伝えられます。
「七不可」とは、健康のために「してはいけない七つのこと」。以下に原文と現代語訳を示し、その意味と現代的意義を解説します。
一.昨日非不可恨悔(昨日の非は恨悔すべからず)
昨日の失敗を恨んだり悔やんだりしてはいけない
過去の過ちを悔い続けても時間は戻らず、精神的に消耗するだけ。日々を前向きに生きる鍵として、くよくよしない姿勢が大切です。
二.明日是不可慮念(明日の是は慮念すべからず)
未来のことを過度に心配してはいけない
まだ起こっていない事態に思い悩むのはストレスの原因に。計画は必要でも、過剰な不安は健康の敵です。
三.飲与食不可過度(飲と食とは度を過ごすべからず)
食べ過ぎ飲み過ぎに注意する
和食中心の食文化の時代でも、胃腸への負担は老化を加速します。腹八分目の摂生こそ、長寿の源です。
四.非正物不可苟食(正物に非ざれば、苟も食すべからず)
変わった食べ物、正しくないと思うものは口にしない
未熟、腐敗、保存が悪い食材は避ける。現代で言えば加工品や添加物への注意もここに通じます。
五.無事時不可服藥(事なき時は薬を服すべからず)
特に不調がないときは薬に頼らない
予防薬やサプリに依存し過ぎず、本来持つ自然治癒力を重んじた考え方です。薬は「治療」に用いるべきで、健康維持にはまず生活習慣の自己調整を優先すべきとする姿勢がここ現れています。
六.頼壯實不可過房(壮実を頼んで、房を過ごすべからず)
元気なときほど無理をしない
「房を過ごす」は夜の刺激を過度に求めること、すなわち性生活を節度を超えて過ごすことを戒めています。若々しさを過剰に頼ることのリスクを示唆しており、自己管理の重要性を説いています。
七.勤動作不可好安(動作を勤めて、安を好むべからず)
楽だけを好まず、適度に体を動かす
散歩や往診の多かった玄白自身の暮らしぶりにも反映されています。生活に緊張と活動を維持し、怠けすぎない習慣が長寿にもつながっています。
杉田玄白は幼少時に虚弱体質で、多くの親族を早くに失っており、健康への関心が高かったとされます。そのため、古希を前にして自身の経験にもとづく養生法を「七不可」として簡易にまとめ、広く伝えたと考えられています。
特筆すべきは、薬に頼らず自己の摂生を重んじる医師としての思想。長寿を支えたのは、栄養バランス、適度な運動、適度な心のあり方(悩まないこと)、不要な薬や刺激を避けること、まさに現代の健康理論とも通じる知恵でした。
さらに晩年まで雨の日も風の日も往診に励み、歩くことを惜しまなかった姿勢には、患者に寄り添い続ける医師としての誠実さと自己管理の一体性が感じられます。
杉田玄白の「養生七不可」は、現代においても十分に通用する健康、心理、生活設計のヒントです。
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過去と未来の「心配」に縛られすぎず、今を穏やかに生きる
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食の節度を保ちながら、本当に必要なものだけを口にする
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薬に頼る前に、まず自らの生活習慣を見直す
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活力のある時こそ慎重に、無理を避ける
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安らぎよりも程よい活動を選ぶ
医師でもあり、長寿者でもあった玄白が自らの体験から編み出したこの「7ヶ条」は、現代の社会ストレスや過食、運動不足、薬の過用といった私たちの抱えるさまざまな問題にも通じる、健やかな暮らしのために大切にしたい変わらぬ価値を持った教えと言えるでしょう。
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