史料名 玉ー玉葉 吉ー吉記 吾ー吾妻鏡



寿永二年(1183年)
























日付 頼朝 義仲 その他 範頼、義経 朝廷 平家
11月24日                  諸卿に院参を命ずる(吉)  
11月27日              比叡山衆徒蜂起(吉)          これより前に室泊に到着(玉)
11月28日                     大量解官(吉)        
11月29日           室泊の戦い、行家敗北(玉12/2条、吉記12/3、12/7条では11/28)     師家政所始(玉12/3条)     
12月1日     義仲院厩別当となる(吉)                  
12月2日     摂関家の所領八十箇所を義仲に与える(吉11/28、玉12/3条)           
12月3日            この頃までに伊勢の義経義仲軍に追い落とされる(玉12/4条) 葦敷重隆、源有綱ら解官される(吉) 平氏入洛の噂(吉)
12月5日     平氏領を義仲に与える院下文が与えられる(吉)           平氏室にある。南海山陽ほぼ平氏に従う。平氏頼朝と同意する噂、義仲平氏と同意する動き(玉)
12月7日     法皇を西国に連れて行って平家を討つ案が出る(玉)          平氏入洛の動き。能円法眼から藤原範季に申し入れ(玉)
12月8日               法皇怪異により八条殿へ戻す案却下される。(玉)   
12月9日       比叡山僧侶蜂起(吉)            
12月10日                 頼朝追討院庁下文作成、法皇平業忠邸へ移る、除目(吉)   
12月11日           比叡山大衆ひとまず義仲と戦うのは停止(玉)            
12月12日          比叡山大衆まだ和戦両方定まらず(玉)         20日平氏入洛の噂(玉)
12月13日               上西門院、皇后亮子持明院基家邸に行かれる(上西門院乳母死去のお見舞い)(吉)   
12月15日               経房頼朝追討院庁下文に加判、奥州勢力に頼朝追討を命じる内容(吉)  
12月19日 頼朝死亡の噂(吉)    比叡山和平の大衆、神輿を振り下げ奉る(玉)         
12月20日        日吉社神輿を本社に戻す(吉)悪僧が琵琶湖の運上物を差し押さえる(吉)      平氏入洛の噂(吉)
12月21日              京官の任官(玉)   
12月22日 上総介広常殺害される(千葉系図他)          都大地震(吉)   
12月23日     義仲西海へ法皇御幸を望む(吉)                   
12月28日                       平氏と義仲の和平一定(玉)


寿永三年(1184年)

















     
1月1日 鶴岡でお神楽(吾)                  
1月3日 伊勢外宮に大河土荘を寄進(吾)                    
1月4日 頼朝出立の噂(玉)              8日に平家上洛の噂(玉)
この頃            範頼軍の内部で先陣争いが勃発(吾2/1条、7/20条)        
1月6日           坂東武士墨俣を越えて美濃に入る(玉)      
1月9日   義仲と平家の和睦が必定(玉)             
1月11日    義仲近江に下向の話(玉)          13日に平氏入京の噂(玉)
1月12日               平家法皇北陸行きの噂の為和睦に難色(玉)
1月13日   義仲東国下向二転三転(玉) 行家渡野部にいる(玉) 義経の兵千余騎(玉)   平家入京に難色(玉)
1月14日    義仲法皇を連れて近江に行く説(玉)           
1月15日    義仲征東将軍の宣旨を受ける(玉)      後白河法皇赤痢により御幸を拒否(玉)   
1月16日    軍の対応二転三転(玉)   坂東の武士数万に及ぶ、坂東の武士勢多に到着(玉)     
1月19日    行家討伐軍出立、田原を守るため宇治にも出兵(玉)             
1月20日    鎌倉勢と戦い、義仲討ち取られる(玉)   義仲軍との戦い(玉)     


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やがてまた敵が現れ戦いが始まった。
その敵から逃れたときには義仲の側には乳母子今井兼平しかいなかった。

たった二騎となりあてどなく彷徨う義仲。

ふと義仲は前年平家を追い払って入京したときの事を思った。
その時は多くの味方がいた。
木曽からついてきたもの、信濃上野の武士達、そして新たに加わった北陸の武士達。
それに加えて、安田義定、葦敷重隆、土岐光長などの義仲に与力した東海の武将とその配下の軍勢たちがいた。

そして義仲は自らが奉じてきた北陸宮の即位を目論み、その成功を信じて疑っていなかった。

それが今義仲の傍らには今井兼平しかおらず回りは敵ばかりである。

何がいけなかったのだろうか。

奥州藤原氏からの誘いにのって西国攻めを中止したからか、平家との和睦に失敗したからか・・・

そして何故自分はこのようなことになっているのだろうか。
今自分を追う立場となった頼朝との違いは何なのか。
挙兵した時期もそう変わらない。以仁王の令旨を奉じたという点でも違いはない。

血筋の違いーーそれはない。義仲も頼朝も同じ河内源氏の一員で血筋の優劣に差はない。
器量の違いか?それも違うような気がする。
では何なのか。都との人脈の差か?以前帯びていた官位の差か?

彷徨いながら義仲は答えの出ない問いを繰り返していた。

「今までなんとも思っていなかった鎧が妙に重く感じる。」
義仲は傍らの今井兼平にむかってふとつぶやいた。
「殿、なんと弱気な・・・」

そう言いながら乳母子の兼平は主がもう心身ともに限界にきていることを悟った。

「殿、あそこに松原がございます。あそこで自害いたしましょう。」
兼平はそう促した。
「そうだな。」

そう返事を返したとき新たなる敵が二人に向かってくるのが見えた。

「殿、ここは私が食い止めます。どうかはやくあちらでご自害を。」
そう叫ぶと兼平は敵にむかって馬を進めようとした。

「四郎。私はそなたと共に死のうと思ってここまできたのだ。
そなたを置いて死ぬことはできぬ。」
「殿を名も無きものの手に討たせるわけにはいきませぬ。
本当に私のことを思われますならばどうぞあちらでご自害を!」

そう叫ぶ兼平の言葉を聞き義仲は渋々馬を松原に向かって進めた。
だが、少し進んだ直後異変が生じた。
馬がまったく動かなくなったのである。
なんとか動かそうとするのだが、馬は深田に足を取られている。

その義仲は兼平に向かって何かを叫ぼうとして後ろを振り返った。

瞬間義仲の額を一本の矢が貫いた。

義仲はどうと深田の中に落ちた。

やがて敵が現れ義仲の首に手をかける・・・・


「相模国住人石田次郎為久、木曽殿を討ち取ったり!」
琵琶湖のほとりの粟津にそのような声が誇らしげに響いた。
鎌倉勢からは期せずして歓声が上がる。

敵と戦っていた今井兼平もその声を聞いた。
兼平も自らの終焉の時を悟った。

「方々しかと見られよ。木曽殿の乳母子今井四郎兼平の最期を!」
そう言うと兼平は自らの太刀を引き抜きその先を口にくわえた。
そしてそのまま馬ら転がり落ちた。

地上に転がる兼平の首からは喉を貫いた太刀がはみ出して大量の血が噴出している。

かくて一時都を制圧した時の風雲児木曽義仲は三十一歳を一期をしてこの世を去った。

だが、この治承寿永の内乱はまだまだ多くの血を欲していた。また新たなる戦が待ち構えているのである。

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次々と襲い掛かる鎌倉勢を打ち破る。

そのような中義仲らにほんの一刻だけ敵のいない時間ができた。

気が付けば義仲の周りには殆ど味方が残っていなかった。
ほんの数騎もいない。
義仲は残ったものの顔を見渡す。
皆鎧には矢が幾つも突き刺さっており、無傷なものなどいない。

その殺伐とした一団の中に一つだけ華やかな存在がある。
義仲に都からずって従ってきた女武者巴である。
木曽からずっと義仲に影の如く従ってきた女である。

「巴、よく生き延びていたものだ。」
義仲は感嘆の声を上げた。
義仲に従っていたものの多くは名のある勇者でさえ討ち取られた。
だが、巴は女の身でありながら数々の修羅を潜り抜けここまでついてきた。

義仲は巴をじっと見つめた。

「巴」
「はい」
「そなたは、ここを離れ生き延びよ。」
「え?!」
巴は心外という顔をして義仲を見つめる。

「そなたはここまでよく戦ってきてくれた。
だが、次に敵が現れたときはもはや吾等は生きておるまい。
そなたは女じゃ。ここでわしらと離れ生き延びて欲しい。」
「でも。」
「でもではない。これはわしの命令じゃ。
そなたは生き延びわしらの菩提を弔うのじゃ。そして木曽に帰り、遺される者達に
わしらがどう戦い、どう生きたのかを伝えるのじゃ。」
巴は感慨深い顔で義仲を見つめた。
「巴、わたしからもお願いする。」
今井兼平も巴に言う。

残った将兵達も祈るような眼差しで巴を見つめる。

「わかりました。殿の命令を承ります。」

そういって巴は一礼して北国を目指して駆け抜けていく。
そこへ一人の武者がおそいかかってきた。
だが、巴はその武者を簡単にねじ伏せ片手に抱える。そして力任せにその首をねじ切った。

「殿、これが私の最後の武者働きでした。
これを一期としてわたしはただの女に戻ります。そして殿のご命令を確実に果たします。」
巴はそう叫ぶと、はるか彼方へと走り去っていった。

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