「全く鎌倉に行ったた者共は口々に自分の手柄ばかり並べ立ておって他のものを誉めることはしようとはせぬ。」
今度は地面を蹴った。
吉見次郎は憤りのあまりそんな言葉を口にしたが、この当時自分の手柄を大げさに喧伝するのは当然のことである。
勲功は恩賞に通じる。
自分の勲功を認めてもらわなくては、恩賞は少なくなる。
それゆえに自分の手柄を主に報告し、世の中にも噂を広げておかなければならない。
他の人の勲功を宣伝する余裕など当時の武士たちにはあるはずがない。

「誰もわれらが勲功を言うて下さるのならばわしが使者になる。そしてわしが鎌倉殿に殿のお手柄を披露する。
そうじゃ、それが良い。今から殿にわしを使者に立てるように申し上げてくる。」
愚痴をこぼしているうちに興奮してきた吉見次郎はいきなり主のもとへと走り出した。
当麻太郎はあわててその後を追った。

吉見次郎が主の元に飛び込むと、主ー源範頼は静かに文をしたためている最中であった。

「殿!」
吉見次郎が主に声を掛けると、範頼は手を止めて吉見次郎の方に向き直った。
「申し上げたいことがございます。」
吉見次郎は先ほど当麻太郎にぶつけた不満を洗いざらい範頼に申し述べた。
範頼は一言も発することなく黙って吉見次郎の言葉を聞き続けた。

半ば興奮しながら話すその言葉を聞き終わると範頼は静かに答えた。
「今そなた達の働きの見事さを鎌倉殿への書状に書き記しておる。」
「それでは!」
「同じ文に小山殿や下河辺殿、太田殿などのご活躍も記しておるが。」
その言葉を聞いて吉見次郎は絶句した。

「殿、小山殿らのお働きに関してはいまさらご報告は無用と存じ上げますが・・・
鎌倉において、彼らの働きは存分に広まっておりまするゆえ。」
「私は鎌倉殿より、合戦の状況を事細かに公正に伝えるように言われておる。」
「しかしそれでは。」
「鎌倉殿は、それぞれに恩賞をあたえねばならぬお方。
恩賞は公正に与えられねば不満が生じよう。
その為にも、戦の詳細は正しく伝えられねばならぬ。」

前回へ 目次へ 次回へ

にほんブログ村 小説ブログ 歴史・時代小説へ