2.願いがかなえられる樹

 

荒涼とした砂漠地帯を、男が旅していた。

まわりには木もなく、人もいなかった。

朝早く宿をたち、昼がすぎるころには、もうへとへとに疲れきっていた。太陽が暑く、日陰も見つからなかった。 
かなり遠くまで歩いたあと、彼はゆくてに大きな樹を見つけた。

よろこんでその木陰にたどりつき、ようやく一息ついた。

樹には多くの枝が広がり、その下はとても涼しかった。

彼はそこに座り込んだ。 
「なんて暑いんだろう。咽喉(のど)がからからだ。冷たい水が飲めたらいいのだが・・・」 
そう思った瞬間、突然目の前に、コップになみなみとつがれた冷たい水があらわれた。 
男は一瞬驚いたが、咽喉の渇きには勝てず、そのままコップを手にとって、ごくごくと一気に飲みほして、ほっと一息ついた。 
彼は、この樹が普通の樹ではないことを知らなかった。

それは「カルパヴィラクシャ」という思いをかなえる樹だった。

この樹の下で思ったことは、一瞬にしてすべてかなえられるのだ。

そんなこととはつゆ知らず、男はこう思った。 
「お腹がすいた。なにかおいしいものを食べたい」 
その瞬間、ごちそうを山盛りにした大皿が目の前にあらわれた。ご飯に何種類ものカレ-、チャパティや豆のス-プ、ミルク菓子やもろもろのデザ-ト、そのほかにも数えきれないほどのごちそうが並んでいた。

彼はつぎつぎと皿の料理をたいらげた。それはなんとも言えないほどおいしかった。

彼は、満腹になるまで食べつづけた。 
朝早くから長時間歩いたことと、すばらしいごちそうを食べて満腹になったことで、つぎに彼は眠たくなって自分自身につぶやいた。 
「眠くなってきたが、ここは小石だらけで寝心地がよくなさそうだ。やわらかなベッドがあればいいのだが・・・」 
と思った瞬間、どこからともなく豪華なベッドが彼の脇にあらわれた。

彼は、ベッドの上で身体をおもいきり伸ばして、こう思った。 
「朝から歩きっぱなしでへとへとだし、足も痛い。だれかマッサ-ジしてくれる人がいればいいのに・・・」 
すると、ベッドのわきにうつくしい女性があらわれて、彼の足をもみはじめた。 
彼はこころから満足した。願いはすべてかなえられる。まるでおとぎの国にいるようなかんじだった。

そうして、彼はようやく不思議に思いはじめた。 
「いったい、これはどうなっているのだろう? この樹の下で思ったことは、なにもかも現実になる。私は夢を見ているのだろうか。それにこんなところで眠ってしまったら、危険にちがいない。もしもここに虎が出てきたら・・・」 
彼の考えが終わらないうちに、もう、空から虎が飛び出してきた。

「あ、まずい! 食べられてしまう」 
と思った瞬間、虎は彼に襲いかかり、ずたずたにして彼を食べてしまった。 
これが、彼の願いごとの結末であった。 


この世はカルマヴィラクシャ――思いをかなえる樹――だ。なにごとも思ったことはかなえられる。 
かなえられていないとしたら、それは思いにたいして中途半端であやふやだからだ。ほんとうにそれが欲しいのかどうか、もう一度自分に確かめてみる必要がある。(続く)

 


* ビパッサナ瞑想リトリート10日間の旅
※最初の3日間だけの参加も可能です
- 10days - 
2024年 4/27(土) - 5/6(月祝)
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2024年 4/27(土) - 29(月祝)