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地獄巡りにお付き合いください

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忘れもしない、あれは2014年11月、恵比寿ウェスティンホテルのラウンジでのことでした。
下村勇二監督に突然呼ばれ、私はこう言われました。

「僕らと地獄巡りにお付き合いください」

彼が坂口拓を主演に、今までだれも見たことのないアクション映画を撮ろうとしているのは知っていました。ですが、まさか自分がその脚本を頼まれるとは夢にも思いませんでした。

もともと小説畑の人間で、アクション映画の脚本なんて書いたことがありません。
でもまあ、変に楽観的なところがあり、気づいたら「私でよければやらせてもらいます」とあっさりお返事していました。

その返しが冒頭のセリフです。

「僕らと地獄巡りにお付き合いください」

あの時はなんて大げさな、と正直呆れていたのですが、今思い返すと監督は大げさどころか、私がきっと逃げ出さないよう、ごく控えめに伝えてくれていたんだと思います。

それから3年、ほんとうにいろんなことがありました。映画は無事完成し、私の腕は2度と消えない切り傷だらけになりました。

これです。

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なんの傷かと聞かれますが、これまでちゃんと正確に答えられたためしがありません。
映画の脚本を書いていてこうなりました、と言っても恐ろしげに見られるばかり。
けっこういっぱい血が出ましたし、自分でも蛮族の仲間入りだなと思います。

ですが、映画『REBORN』をつくっているあの空間ではこれがごく普通でした。
腕に碁盤の目状に切り傷をつけ〈私の腕じゃありません)、その上にポップコーンを乗せて双六をするなど日常茶飯事。 
その凄まじさたるや、久しぶりに観た映画『ファイト・クラブ』がぬるいと感じたくらいです。

脚本を書いている3年間、私はそういうことに、異常なほど耐性のある人達に囲まれておりました。

もちろん、彼らは私には親切でした。互いの腕を切って固めの盃を交わすような時でも、紅さんはいいよ、といつも私だけ免除してくれました。

ですが、いつまでもそうやっていては仲間入りはできません。虎穴に入らずんば虎児を得ず。あるとき、私は思いきって自分の腕を出しました。

「お願いします」

もちろん、皆さん止めました。女性なんだから無理しないでと。
ですが、そのとき若手役者さんの叫んだ一言で私の心は決まりました。

「ダメです紅さん、一生傷が残りますよ」

一生? 

私は今年で50歳、昭和42年生まれです。人生の折り返し地点なんざ、とうの昔に過ぎています。はっきり言いましょう、ばばあです。

そうか、残りの人生そんなにないんだから、じゃあ切っても大したことないじゃないか。
そうあっさり腹を決め、私は稲川先生、拓ちゃん、お願いします、と自分の血を流しました。

ハシカは大人になってから罹るほど症状が重くなるといいますが、アレです。
学生時代は遊び心を知らず、多感なときにこういう洗礼を受けていなかったから、大人になってそのツケを払っているのかも知れません。

ですが、どうにか脚本は書けたので後悔はありません。
一般的な常識からいって完全にいかれていますが、その「いかれ」の中に何かがある。そう信じて見ていました。

そして、そのカンは間違っていなかったと今では確信しています。

もともと体験学習型の人間ですが、体験にもほどがあります。しかも学習しているかというとその辺もまた謎です。でも、そのほうが人生はずっと楽しく、毎日新しい発見があります。

「渇いた生は傷によって力を増す」とは映画『RE:BORN』の中のセリフですが、まさにそうです、その通り。

そしてこれこそ「怪我の功名」ですが、上海国際映画祭に行った時、ユン・ピョウさん率いる七小福の人達にこの傷を見せたことは映画『RE:BORN』にとって最高の宣伝になったんです。

脚本家がこんな目にあってるんだから、さぞかし凄い映画なんだろうと。

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ああきっとこの日のための傷だったんだな、と思ってしまったくらいです。

まあ、今後は夏になるたびに腕の傷を見られては「ああこの人『そういう時期』があったんだな」と会う人ごとになま温かい目で見られてしまうわけですが。

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こうやって見るとなかなかですな。
温泉もプールもオッケーですが、やはり夏は目立ちます。

柱の傷はおととしの、です(泣)。

(良い子は真似しちゃいけません)

そんな映画『RE:BORN』ですが、いよいよ来月8月12日より新宿武蔵野館他で公開です。

映画『RE:BORN』公式サイト