その村は、田舎の貧しい時代にしては珍しく、旅人が訪ねてくると、優しく迎え入れたそうな。
寒い中凍えている旅人を家に招き、暖かい湯豆腐でもてなしたといいます。
ある晩、この冬もまた、1人の旅人が訪れました。
息を切らし寒さに震える旅人を村の男が見つけ、自宅に招きました。
「さぞ寒かったでしょう、こんなものしかありませんが、体が暖まりますよ。」
村の男はいつものように、湯豆腐でもてなしました。
ところが、
「豆腐しかないのか!!こんなしけたもの腹の足しにならん!」
旅人はあろうことか湯豆腐を外に放り投げて、村人の厚意を踏みにじったあげく、ふて寝してしまったそうです。
なんて非道な心の冷たい奴なんだ…!
怒った村人は、朝方になって外に捨てられたキンキンに凍った豆腐で、寝ている旅人の顔面をぶん殴りました。
旅人は、凍った豆腐で執拗に顔を攻められたため、歯が全部砕けたそうな。
旅人は歯を失い、もう豆腐ぐらいしか食べられません。
「ふいまへんめひあ(すいませんでした)ほうふはへはへへふははい(豆腐たべさせてください)」
溶けかけの冷たい豆腐を食べた旅人は言いました。
「ほえ、ふはふへ?(これ、美味くね?)」
冷たい豆腐を冷たい奴が食ったら美味かった。
そうしていつしか冷たい豆腐を「冷奴」と呼ぶようになったと私は思いたいです。
終