さりとて仕出さむを待ちて寝ざらむも悪かりなむ。」と思ひて片方に寄りて寝たる由にて出で来るを待ちけるに既に仕出したる様にて犇めき合ひたり。
『しいだす』は、仕出し弁当、仕出し屋さんあたりと結びつくと意味が分かりやすいです。誤訳を恐れず、『料理を作って出す』と解釈して十分でしょう。『ひしめく』は、牛が3頭なのですね。確かに。『悪』も取り上げる必要がありそうですが、それはまたの機会に。
漢字の相手をしている場合ではありません。今は助詞を見たいのでした・・・、が、そのまえに・・・
1. カギ括弧は、『さりとて』から?『しいださむ』から?
『む』に着目しましょう。アンダーラインのところです。『む』は、意思・未来推量(~しよう、~するだろうなど)でした。『なむ』は『む』に『な』がついて、さらに強い推量。(これについては、後に取り上げます。今はこの程度で。)これらは『と思ひて』の内容そのものですね。カギ括弧に入ります。
問題は『さりとて』です。これも、言ってみれば『でもさ~』ということなので、『考えている・思っていること』に分類できますよね。というわけで、カギカッコ内に入れます。
もうちょっと詰めましょう。『さりとて』の”結び”を見つけるのがいいかもしれません。『さりとて(=だけど)~なのだ』までがセットになっているはずなので、順に読んでいくと『さりとて~わろかりなむ』で完結します。
助詞に行きたいのですが、そのまえに・・・
2. 主語が全くありませんw
今回の文、主語が全くありません。そもそも、主語って、どう決まるのでしょう。
- 文脈から
- 直前のシーンを引き継ぐ
- 助詞の機能を活用
- 敬語を活用する(今回出てきません)
この文はいきなり心の声から始まるのですが、心の声の内容からも、直前のシーンの続きとしても、『と思ひ』たのは児ということでよかでしょう。その後の展開がどうなるか、助詞に着目して見ていこうと思います。
3. 助詞を見る
4つの助詞『を、て、も、に』が、動詞・助動詞についています。それと、『にて』も気になるので見ておきましょう。もちろん視点は主語がどうなるか、です。
3-1 ~するを~する
前回もありました。
僧たち「~」と言ひけるを、この児心よせに聞きけり
今回は、
しいださむを待ちて/出で来るを待ちけるに
ともに、『Aする(連体形)をBする』になっています。『AするのをBする』という風に『の』を補うとほぼ現代語になるのでした。
一方、前回とは違いもあります。今回は主語がなく、点もありません(点は編集者がつけてくださったものですが)。『AするをBする』の主語はどうなりそうか、をのあとに点を打つとどうなるか、それぞれ見ていきます。
3-1-2 それぞれの主語
『AするをBする』というときの主語は、フツーはAとBで違うと思われます。同じになるとしたら『走るのをやめる』みたいな場合でしょう。(逆に要注意かもしれません。)
ここで出てきた2つの動詞はそれぞれ、『しいださむ』と『待つ』、そして、『いでくる』と『待つ』。『しいだす』は料理を作って出すという意味なので、意味的に、主語は僧たち。待つのは児。出で来る(出てくる、出来上がる)のは『かいもちひ』で、待つのは児。確かに2つの主語、違っていますね。
3-1-2 読点は?
前回に見た文では『僧たち~と言ひけりを、児~聞きけり。』で、『を』のあとに点がありました。今回はありません。試しに今回の文に点をうつと、
しいださむを、待ちて寝ざらむもわろかりなむ。
かたかたによりて寝たるよしにて出で来るを、待ちけるにすでにしいだしたるさまにてひしめきあひたり
いや、もう、わけわからなくなりますwww。よって、
『を』のあとに点は打たない。
と結論しておきましょう。でも前回のは点があってもうまくいったのはなぜだろう。
3-2 ~して~する、~する由/様にて~する
~を待ちて寝ざらむ
~と思ひて片方に寄りて寝たる由にて
これは、現代語の『ああして、こうして、そうする』と同じでわかりやすいです。主語は同じやね。簡単やん。・・・その後悲劇が訪れるとは、このときのさだのおか、知る由もないのであった(謎)。
現代語から具体例を探してみましょう。『て』が二つ以上になると国語の先生にダメ出しくらいそうなので、そうそうみられるものではないと思われます。そんな中、貴重な例。さだまさしさんの『歳時記』から。
早く咲いてと、毎朝祈って、水を過ごして、枯らしそうになって、眠らず君は看病してたよね
3重連です。最後に主語が明かされるのも、味わいです。
『ざらむ』も簡単に見ておきます。『ざら』は打消しの助動詞『ず』の未然形+意思の助動詞『む』となっております。まとめると、『寝ないでいよう』となります。教科書もガイドも、この『む』を意思(=~しよう)とは取っていないようです。訳に反映されていません。お菓子ができるのを待ってるんやん、どうみても「寝ぇへんでぇ~」に決まってますやん。詳しくはまた後に触れます。
本当に寝てしまった、実際に仕出してしまったのなら、さだまさしさんのように、
思ひてかたかたに寄りて寝たりて出で来るを待ちける
既に仕出したりて犇めき合いたり
と書いたはず。(『たり』は完了の助動詞でした。)
ところが、ふりをしただけ、様子を察しただけなので、名詞の『由』や『様』を挟む必要が出てきて、『~して』のパターンが維持できず、
寝たる由にて(出で来るを)待ちける
既に仕出したる様にて犇めき合ひたり
『~にて』で書かなければならなくなったと思われます。ゆえに、この『にて』は『~して』の続きと捉えます。というわけで、にての後ろの動詞も同じ主語を持ちます(キッパリ)。
(いやだからまずいって。)ただし、『~するを~する』は、主語が一瞬切り替わるので、注意が必要です。
この『にて』も後に取り上げます。
3-3 ~するも+形容詞
極めて不十分な理解で書いてしまったので、訂正しています。が、まだ不十分です。
ここでは簡単にすませます。次の稿でしっかりと取り上げます。
寝ざらむもわろかりなむ
『言ふを』は、『言う
のを』と、のを補って訳せばよいというのがありました。それと同じと思われます。『寝ざらむ』は、『寝ないでいよう』という意味でした。『も』がついて、『寝ないでいようとするのも』という意味になります。
『~するを』との違いも考えましょう。『を』が目的語を設定する力をもっているので、『~するを~する』という感じで、動詞で受けることになります。たぶん『~するを』は形容詞で受けられないと思われます。『~するも』は、also の意味では動詞では受けられないと思われます。
今回の『も』は、形容詞で受けていて、『AするのもBだ』となっています。Aは主語相当、もちろん『Aする』の意味上の主語は別にあります。ひょっとしたら、『は』も使えるのかもしれないですね。『寝ざらむはわろかりなむ』あるかな?
結論。『連体形+も+形容詞』では、主語に変化はない?
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以下、間違っていました。『~するも~する』で、『けれども』にならない例がすぐに出てきます。
仮に『~するも~する』のパターンだと『も』が『けれども』という意味になりそうです。次の文が有名です。
リアカー無きK村、動力借ろうとするもくれない
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3-4 ~するに
『~するに』は、『~すると』(逆接や理由もあるらしい)という意味なので、主語が変わると捉えてよさそうです。
出で来るを待ちけるに既に仕出したる様にて犇めき合ひたり
はどうなるかというと、
~と(児が)思ひて(児が)片方に寄りて(児が)寝たる由にて(かいもちひが)出で来るを(児が)待ちけるに(僧は)既に仕出したる様にて(僧は)犇めき合ひたり
となります。
『を』の前、『に』のあとで主語は変わる。『て』は前後で変わらず
『を』の前は、何の前触れもなく主語が変わるので、要注意です。
うむ、わかってきたかもしれん。
次回は、大量に先送りしている活用関連です。