なんとなくお正月気分も味わうことなく終わってしまいました。きっとコロナ渦のせいでしょう。昨日は久しぶりに琴弾回廊に行ってきました。回数券を購入したのですが、11回綴りで8000円なにがしかです。年会員制度がなくなったので案の定、すいていました。

 『まなぶ』1月号が届いたのですが、スキャンするとPDFになっているのでJPGでないとアップできません(やり方がわからない!?)。しかたないので生原稿(ワード)を下に貼り付けます。

まなぶ2023年1月号原稿

 2023年度日本スポ-ツ界は視界不良~唯一の明るさは小平奈緒さんの新しい門出

                       森川 貞夫

 

 例年にならって新しい年のスポーツ界の展望を試みたが、どうも先行き不透明感が続きそうだ。一昨年・昨年と続いた2020東京オリパラ騒動は「五輪汚職」の拡大で今年も問題は尾を引きそうだが、果たして電通がらみの「膿」を出し切れるか、元JOC会長への再捜査も大物政治家への捜査拡大も未だ不透明、すべてがまだ「闇の中」というところで正直イライラが続く。

 2024年度文科省・スポーツ庁の「概算要求」を見たが、昨年以上に大風呂敷を広げている。今年度概算要求の総額は昨年度予算からなんと108億円増(昨年度は75億円)の463億1731万円(前年度予算354億8000万円)である。なにがこんなにふくらんだ原因かというと推察するに「運動部活動の地域移行」問題の解決に「地域スポーツクラブ活動体制整備事業」が昨年度予算の約18倍増の81億7700万円、「中学校における部活動指導員の配置支援事業」に同じく昨年度予算の1.8倍増の20億1600万円などなどである。これだけで102億円近く増えている(新規+拡充事業)。

 実際の予算が確定するのは新年度予算が決まる国会待ちだが、もちろん「概算要求額」からかなり削られていくとは言え今年度の108億円増は異常かも知れない。昨年急浮上した「公立中学校部活の地域移行」問題は教員の働き方改革問題とのからみがあるが、すでにこの「時評」で取り上げてきたように経産省地域×スポーツ産業研究会の「最終答申」で示された「公立中学校部活の社会教育への移行」要求は次期学習指導要領改定をも示唆・強要しながら文科省・スポーツ庁を追い込んでいるのかもしれない。その現れが今年度概算要求に反映したのではないか。

 その他のスポーツ庁概算要求は24年パリ五輪、26年ミラノ・コルティナなどをにらんでの「競技力向上事業」(拡充)に103億円、相変わらずの「スポーツの成長産業化・スポーツによる地方創生」などに52億3700万円を要求しているが、果たして満額回答というわけには行くまい。となると昨年の新しいWINNNERくじなど、スポーツベッティング(スポーツ賭博)のいっそうの拡大・拡充のために宣伝これ務めることになるのではないか。

 どうも正月早々いい気分にはなれそうもない。そこで明るい話題を取り上げておきたい。いささか旧聞になるが、昨年10月27日、日本の女子スピードスケートで2018年平昌冬季五輪金メダリストの小平奈緒(36歳)が引退会見の際、2030年の札幌オリンピック招致活動をJOCから要請されたが、それを断わったことを公表した。引退後に母校である信州大学で特任教授となりキャリア形成や健康科学を教えることになるのだという「引退会見」の場にはいささか「場違い」のような発言だったかもしれないが、私は彼女が遠慮がちではあったが、はっきりと「スポーツの純粋な楽しさをもう一度、私自身も考えてみたいと思っているので、今は札幌五輪に関してはいったん置いているところで考えたい。(冬季五輪には)4回出て確かに成長させてもらった思いがあるので、それを利用されたくないなという思いはある」と発言したことに深く感動した。その後、この彼女の「発言」がどのように伝えられたかを確かめようとしたが、一部のスポーツ紙と週刊誌が反応しただけで多くのメディアは取り上げなかった。

日本女子スピードスケート史上初のオリンピック金メダリスト小平奈緒さんの「札幌オリンピック招致活動協力要請拒否発言」は大々的に取り上げてもいい十分な「ニュース価値」はありそうな気がするが、「引退記者会見」の場に同席していた記者たちはもっと追求する質問もしなかったということだろうか。まさかJOCや札幌オリンピック招致活動への「忖度」ではあるまいな。

NHK・TVもあの平昌冬季五輪での李相花(イ・サンファ)選手を国旗でやさしく包み込むようなシーンを何回も流したし、また昨年李選手が小平奈緒さんの故郷長野のスケートリンクを訪ねたときのドキュメンタリー番組を2回も放映したではないか。このことを追及しはじめたらせっかくの小平奈緒への賛辞が薄められそうだ。未だかって居り金メダリストでオリンピック招致活動を断わったアスリートが居るだろうか。

だからこそきっと彼女は自信をもって自分の体験したトレーニングや競技生活だけではない、貴重な世界の人々との交流もまじえて若い学生諸君に伝えていくだろう。今年4月からであろうか、新しく母校の教壇に立つ彼女の姿を思うだけでわくわくしてくる。きっと知的で素敵な教育者・研究者が誕生するにちがいない。小平奈緒さんの新しい門出を読者のみなさんとともに祝いたいものだ。