肩こりの原因として、①筋肉が主体となるもの
(神経絞扼障害のないもの)と、
②神経絞扼によってその筋肉を支配している
運動神経の興奮が主体になるものがあります。
鍼灸治療として、②運動神経性のコリでは、
神経絞扼部に刺鍼したほうが、
より原因疾患に対してとなりますが、
補足:神経絞扼があってもなくても、こっているのは筋肉です。
その、こっているという情報は知覚神経を通じて
脳へ送られます。
知覚神経が神経絞扼を受けた場合、
その情報は、コリというより痛みとして感じられます。
原因がどちらであっても、
局所治療、神経絞扼部治療の両方を行ったほうが
より効果的です。
神経絞扼障害で上部頚神経に対しての鍼灸治療は
次の通りです。
〇上部頚神経後枝の治療点
・項部、後頚部のコリ・痛みに対して
・C1(天柱)
筋 肉 → 僧帽筋、頭半棘筋、頭板状筋、大小後頭直筋
運動神経 → 副神経、勁神経叢後枝
知覚神経 → 大後頭神経
※最大の厚みを持つ筋肉は頭半棘筋です。
天柱に刺鍼するということは、
副神経、勁神経叢後枝と、その神経に支配される
僧帽筋、頭半棘筋、頭板状筋、大小後頭直筋などの筋肉、
また後頭部の知覚を支配する大後頭神経へ
働きかけるということになります。
運動神経も知覚神経も刺激することになるため、
コリにも、痛みにも効きます。
三叉神経は、眼神経・上顎神経・下顎神経からなり、
解剖学上、大後頭神経と隣接する部分があるため、
機能的に密接な関係が生じると考えられています。
眼神経は、眼球各部、前頭部の皮膚、鼻粘膜などに分布し、
その知覚を支配します。
・後頭部~側頭部~頭頂部のコリ・痛みに対して
・後頚部のコリ・痛みに対して
・C3~C5(挟脊穴)
筋 肉 → 頭頚板状筋、頭頚半棘筋
運動神経 → 頚神経後枝運動枝
知覚神経 → 頚神経後枝知覚枝
※ここに記された神経は全て脊髄(頚)神経の後枝です。
〇上部頚神経前枝の治療点
・側頭部のコリ・痛みに対して
・C2、C3 (天窓)
筋 肉 → 広頚筋、胸鎖乳突筋
運動神経 → 顔面神経、副神経、頚神経筋枝
知覚神経 → 小後頭神経、頚横神経
・C1、C2 (天容)
筋 肉 → 胸鎖乳突筋、顎二腹筋
運動神経 → 顔面神経、副神経、頚神経筋枝
知覚神経 → 大耳介神経、頚横神経
知覚神経である小後頭神経と大耳介神経は側頭部を
走行していて、側頭部の痛みを抑えるために、局所治療以外では
同神経走行部の天窓、天容を用います(運動性のコリにも)。
※運動神経に刺鍼する目的が、運動神経が興奮し、
その結果として生じている筋緊張(スパズム)を
鎮めるためであるのに対して、知覚神経刺鍼の目的は、
求心性神経を刺激することで痛みやコリ感を緩和させよう
というもの。しかしツボ(つまり皮膚)には必ず運動神経と知覚神経が
通っているため、痛みとコリの双方に効果があります。
・前側部のコリ・痛みに対して
・C3、C4(天鼎)
筋 肉 → 広頚筋
運動神経 → 顔面神経、副神経、脊髄神経筋枝
知覚神経 → 鎖骨上神経
※頚部の前側部なので、一般的な肩こりの範疇では
ないかもしれませんが、頚神経支配ということで列挙します。
下部頚神経(C5~T1)に対しての治療は以下の通りです。
〇後枝の治療点(運動性・知覚性の両方を刺激)
・後頚部~肩甲上部のコリ・痛みに対して
・C5~T1 (挟脊穴)
筋 肉 → 頭半棘筋、板状筋、僧帽筋
運動神経 → 脊髄神経後枝筋枝
知覚神経 → 脊髄神経後枝皮枝
・大椎(C7T1棘突起間)
筋 肉 →
運動神経 → 脊髄神経後枝筋枝
知覚神経 → 脊髄神経後枝皮枝
〇前枝の治療点(運動性・知覚性の両方を刺激)
・肩甲骨とその周囲のコリ・痛みに対して
・肩中兪
筋 肉 → 僧帽筋、肩甲挙筋、斜角筋
運動神経 → 副神経、肩甲背神経、肩甲上神経
感覚神経 → 頚神経後枝、腕神経叢後枝
※この穴は、伏臥位での刺鍼時、鍼尖が浅層部(僧帽筋)
までであれば脊髄神経後枝刺激となるが、
鍼尖が深層部(斜角筋)まで届けば、前枝刺激となります。
・エルプ点(腕神経叢刺激点、気舎穴より正中線側)
筋 肉 → 胸鎖乳突筋、広頚筋、前斜角筋
運動神経 → 肩甲上神経、肩甲背神経、腋窩神経
感覚神経 → 鎖骨上神経
後述する胸郭出口症候群の他に、
頚椎の異常(神経根症)からくるものがあります。
これは腰椎の変形や、神経根が障害されることによる
下肢の痛みやしびれとメカニズム的に同じです。
腰下肢痛のところで述べました通り、
神経根に鍼を当てるのは難しいため、
「腰神経前枝刺鍼(坐骨神経ブロック点刺鍼)」を用いるのと同様に、
腕神経叢刺鍼(エルプ点刺鍼)を用います。
しかし腕神経叢刺鍼によって鍼響きが得られたとしても、
神経根の圧迫が取り除かれない限り、
痛みやしびれの軽減やその持続時間には限界があります。