肩こり4 | 治る力

治る力

鍼灸・マッサージを生業にしている者が思うことを
綴ります。ときに前向きに、ときに後ろ向きに

肩こりの原因として、①筋肉が主体となるもの

(神経絞扼障害のないもの)と、

②神経絞扼によってその筋肉を支配している

運動神経の興奮が主体になるものがあります。

 

鍼灸治療として、②運動神経性のコリでは、

神経絞扼部に刺鍼したほうが、

より原因疾患に対してとなりますが、

①②のどちらが原因となっているかは
程度の問題であって、これを判別するのは難しく、
どのコリであっても双方を併せ持っていると考えられます。
 
こっているときは、運動神経の興奮も高まっているし、
筋肉の可動性も悪くなっているわけです。
肩こりのメカニズムを分析すると、
このようなことが考えられるということです。

 

補足:神経絞扼があってもなくても、こっているのは筋肉です。

その、こっているという情報は知覚神経を通じて

脳へ送られます。

知覚神経が神経絞扼を受けた場合、

その情報は、コリというより痛みとして感じられます。

 

原因がどちらであっても、

局所治療、神経絞扼部治療の両方を行ったほうが

より効果的です。

 

神経絞扼障害で上部頚神経に対しての鍼灸治療は

次の通りです。

 

上部頚神経後枝の治療点

・項部、後頚部のコリ・痛みに対して

・C1(天柱)

筋   肉 → 僧帽筋、頭半棘筋、頭板状筋、大小後頭直筋  

運動神経 → 副神経、勁神経叢後枝

知覚神経 → 大後頭神経

※最大の厚みを持つ筋肉は頭半棘筋です。

 

天柱に刺鍼するということは、

副神経、勁神経叢後枝と、その神経に支配される

僧帽筋、頭半棘筋、頭板状筋、大小後頭直筋などの筋肉、

また後頭部の知覚を支配する大後頭神経へ

働きかけるということになります。

 

運動神経も知覚神経も刺激することになるため、

コリにも、痛みにも効きます。              

 

※大後頭神経三叉神経症候群
眼精疲労、目の奥の痛みに対しても天柱を用います。
三叉神経は、眼神経・上顎神経・下顎神経からなり、
解剖学上、大後頭神経と隣接する部分があるため、
機能的に密接な関係が生じると考えられています。
眼神経は、眼球各部、前頭部の皮膚、鼻粘膜などに分布し、
その知覚を支配します。

 

 

後頭部~側頭部~頭頂部のコリ・痛みに対して

・C2(玉沈)
筋   肉 → 後頭筋
運動神経 → 顔面神経
知覚神経 → 大後頭神経
 

・後頚部のコリ・痛みに対して

・C3~C5(挟脊穴)  

筋   肉 → 頭頚板状筋、頭頚半棘筋

運動神経 → 頚神経後枝運動枝

知覚神経 → 頚神経後枝知覚枝

 

※ここに記された神経は全て脊髄(頚)神経の後枝です。

 

 

上部頚神経前枝の治療点

・側頭部のコリ・痛みに対して

・C2、C3 (天窓)

筋   肉 → 広頚筋、胸鎖乳突筋

運動神経 → 顔面神経、副神経、頚神経筋枝

知覚神経 → 小後頭神経、頚横神経

 

・C1、C2 (天容) 

筋   肉 → 胸鎖乳突筋、顎二腹筋

運動神経 → 顔面神経、副神経、頚神経筋枝

知覚神経 → 大耳介神経、頚横神経

 

知覚神経である小後頭神経と大耳介神経は側頭部を

走行していて、側頭部の痛みを抑えるために、局所治療以外では

同神経走行部の天窓、天容を用います(運動性のコリにも)。

 

天窓や天容に刺鍼するということは、
胸鎖乳突筋などの筋肉性のコリ、
顔面神経などの運動神経性のコリ、
大耳介神経などの知覚神経性の痛み
にアプローチするということです。
 

※運動神経に刺鍼する目的が、運動神経が興奮し、

その結果として生じている筋緊張(スパズム)を

鎮めるためであるのに対して、知覚神経刺鍼の目的は、

求心性神経を刺激することで痛みやコリ感を緩和させよう

というもの。しかしツボ(つまり皮膚)には必ず運動神経と知覚神経が

通っているため、痛みとコリの双方に効果があります。

 

・前側部のコリ・痛みに対して

・C3、C4(天鼎)

筋   肉 → 広頚筋

運動神経 → 顔面神経、副神経、脊髄神経筋枝

知覚神経 → 鎖骨上神経

※頚部の前側部なので、一般的な肩こりの範疇では

ないかもしれませんが、頚神経支配ということで列挙します。

 

 

下部頚神経(C5~T1)に対しての治療は以下の通りです。

〇後枝の治療点(運動性・知覚性の両方を刺激)

・後頚部~肩甲上部のコリ・痛みに対して

・C5~T1 (挟脊穴)

筋   肉 → 頭半棘筋、板状筋、僧帽筋

運動神経 → 脊髄神経後枝筋枝

知覚神経 → 脊髄神経後枝皮枝

 

・大椎(C7T1棘突起間)

筋   肉 →

運動神経 → 脊髄神経後枝筋枝

知覚神経 → 脊髄神経後枝皮枝

 

〇前枝の治療点(運動性・知覚性の両方を刺激)

・肩甲骨とその周囲のコリ・痛みに対して

・肩中兪

筋   肉 → 僧帽筋、肩甲挙筋、斜角筋

運動神経 → 副神経、肩甲背神経、肩甲上神経

感覚神経 → 頚神経後枝、腕神経叢後枝

 

※この穴は、伏臥位での刺鍼時、鍼尖が浅層部(僧帽筋)

までであれば脊髄神経後枝刺激となるが、

鍼尖が深層部(斜角筋)まで届けば、前枝刺激となります。

           

・エルプ点(腕神経叢刺激点、気舎穴より正中線側)

筋   肉 → 胸鎖乳突筋、広頚筋、前斜角筋

運動神経 → 肩甲上神経、肩甲背神経、腋窩神経

感覚神経 → 鎖骨上神経

 
取穴部位としては、鎖骨内側3分の1より上1寸。
胸鎖乳突筋の後縁。胸鎖乳突筋の後縁に沿って、
天鼎(大腸経)の下方。
 
腕のしびれを伴う肩こりや頚腕症には、
後述する胸郭出口症候群の他に、
頚椎の異常(神経根症)からくるものがあります。
これは腰椎の変形や、神経根が障害されることによる
下肢の痛みやしびれとメカニズム的に同じです。
腰下肢痛のところで述べました通り、
神経根に鍼を当てるのは難しいため、
「腰神経前枝刺鍼(坐骨神経ブロック点刺鍼)」を用いるのと同様に、
腕神経叢刺鍼(エルプ点刺鍼)を用います。
しかし腕神経叢刺鍼によって鍼響きが得られたとしても、
神経根の圧迫が取り除かれない限り、
痛みやしびれの軽減やその持続時間には限界があります。

 
 
運動神経性肩こり、刺鍼部位まとめ
〇上部頚神経後枝に対して
天柱          項
②玉沈          頭(後頭)
挟脊穴(C3~C5)   頚
 
〇上部頚神経前枝に対して
天窓          側頭部
天容          側頭部
 
〇下部頚神経後枝に対して
挟脊穴(C5~T7)  頚~肩甲上部
⑦大椎          上部肩甲間部
 
〇下部頚神経前枝に対して
⑧肩中兪         肩甲間部、肩甲骨周囲
⑨エルプ点                肩甲患部、肩甲骨周囲