〜沈丁花〜

明日の雨予報を知ったので、午後からスーパーに買い出しに出掛けた。ショッピングカートをカラカラ引いて歩くと道端の緑の草が空に向かって背伸びしている。

赤信号で立ち止まっていると、風に乗って甘い香りがやってきた。沈丁花だ。鼻先をあちこちに向けて、花の姿を探す。生け垣のユキヤナギの白が目に入る。花を落とした濃緑の椿の木もある。

「沈丁花どこ?」

見つからない。信号が青に変わったのでしぶしぶ渡った。

買い物をしたスーパーでは人工的な臭いに辟易した。鋭い光が目を突き刺す。早くここを出たい。

自動ドアを出たら空が見えた。山が見えた。
深呼吸して、さきほどの信号で沈丁花の香りを探した。風向きが変わってしまったのか、もう香りは見つからなかった。