この問いに至ったのは、

授乳中のことだった。

 

膝の上に座り、ピタリと私に身体を寄せる我が子。

生後1か月の息子は、

 

はむっ はむっ

 

と一心不乱にしゃぶりついている。

 

真剣な顔で飲み始めた彼の見開いた目は、

だんだん緩んできて、

次第に細く、細ーくなって、

ウットリと閉じていく……

 

しかし、瞼を閉じてもなお

 

はむっ はむっ

 

と彼はしゃぶり続けるのだから、

可笑しくて思わず笑ってしまう。

 

 

なんて器用なのだ。

かわいい……

 

この顔が、好きだ。

たまらなく好きだ。

 

授乳は、我が子への愛着を感じる時間である。

しかし、息子が寝てしまった後、

母はどこか取り残された気分になる。

 

 

片方10分ずつ、合計20分の授乳時間。

1日に9回授乳するとすれば、

 

180分、つまり

3時間も

授乳に費やしていることになる。

 

 

『3時間あれば、何ができるだろう……』

 

寝不足の頭でぼうっと考える。

 

育児書には、

授乳中は子どもと目を合わせなさいとか、

話しかけなさいとか、

母子のコミュニケーションの時間なのだとか、

そんなことが書いてある。

 

しかし、子どもが寝てしまったら、

取り残された母はどうしようもない。

 

 

『3時間あれば……』

 

子どもが生まれる前までは、

3時間なんて、

さして長い時間とも感じていなかった気がする。

 

ネットサーフィンをしたり、

ぼうっとYoutubeを眺めたりすれば、

あっという間に飛び去ってしまう時間だ。

 

 

しかし、子どもが生まれると、

時間というものの価値が高騰する。

 

1日のうちの大半を子どもの世話で費やし、

 

授乳

オムツ替え

抱っこ

家事

 

授乳

オムツ替え

抱っこ

家事

・・・

 

この繰り返しであくせくしているうちに夜になる。

しまいには、

暗闇の中で泣き叫ぶ子を揺らし続け、

 

眠れ、眠れ、眠れ……

 

やっと寝た。

 

そう思った瞬間に、

自分も布団へダイブ。

 

こんな日々である。

だから、

自分のための時間は、ほぼない。

 

 

だからこそ、

お世話の中でも大きなウエイトを占める授乳時間が、

愛おしいのに、

恨めしい。

 

1回たったの20分とはいえ、

 

1日で3時間

8日で24時間

 

ということは、毎週1回、

まる1日をただ座って過ごすのに等しいのではなかろうか。

 

 

『この時間で、何ができただろう』

 

ふと思う。

もし、この時間を何か別のことに使っていたら。

 

いや、授乳の時間だけじゃない。

もし、子育てに費やしている時間で、

まるで別のことをしていたなら。

 

もっと言うと、

子育てに費やしたお金や労力も、

別の使い方をしていたなら。

 

そう、つまり、

子どもを産むという選択をしていなかったら、

今頃私は何をしているのだろう。

 

子どもを産んで、私は何を失ったのだろう?

 

途方もない問いにぶち当たってしまった。

 

~後編に続く~

 

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