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匡介「××先生!」
「あ...鳴海先生...」
匡介「もしかして、瀬崎先生を探してる?」
「ご存じなんですか?先生がどこにいるか...」
匡介「どのに行ったかまではわかんないけど、さっき会ったんだよ。入口で」
「え...?」
(瀬崎先生、さっきまでここに居たんだ...)
「どっちの方向に行ったか分かりますか?」
匡介「タクシー拾って、正門を右に曲がって行った」
「...右?」
匡介「うん。瀬崎先生の家とは逆方向だなって思ったから間違えない」
(どこに行こうとしてるんだろう...?もしかして、お母さんのところ?)
「あの、羽田空港ってどっちですか...?」
匡介「羽田?羽田なら普通は左に行くけど...」
「じゃあ...」
(一体、どこなの...)
匡介「...忘却...」
「え...?」
匡介「いや、今思い出したんだけど...瀬崎先生が別れ際にボソッと言ったんだよ。『忘却か...』って」
「忘却...」
不意に、ポピーの花畑の光景が思い出された。
「鳴海先生、ありがとうございます」
匡介「え?ありがとうって、今ので何か分かったの?」
「ええ、たぶん...とにかく行ってみます」
走り出した私の背に、鳴海先生が呼びかけた。
匡介「あのさ...」
「はい...?」
匡介「連れ戻してくれるってことだよね?」
「...ええ。そのつもりです」
匡介「...よかった。必ず連れ戻してね、一成さんのこと。この病院の今後は、××ちゃんに掛かってるんだから。頼んだよ」
「...」
匡介「××ちゃんなら、きっと大丈夫...」
「鳴海先生...」
匡介「待ってるから。2人そろって早く帰っておいでよ」
「...はい!」
〈ポピーの花畑〉
息を切らせて駆けつける。花畑の真ん中に、瀬崎先生が立っていた。
「瀬崎先生!」
一成「...××」
「よかった...見つかって...」
一成「どうしてここが...?」
「忘却...」
一成「...」
「いつか母が、ここで言っていたのを思い出したんです。『ポピーの花言葉は忘却』だって。『嫌なことや悲しいことがあったら、ここにくればすべて忘れられる』って...」
一成「そうか...知らなかったんだ。ずっと...しっていれば、ポピーを供えたりしなかった...」
「別に、先生がすべてを忘れたくてポピーを送っていたなんて思っていません。忘れたいなら、そもそも花なんか送らない。違いますか?」
一成「...」
「ポピーは母の一番好きな花でした。きっと、毎年たくさんのポピーに囲まれて母はお墓の中で喜んでいたと思います」
一成「...」
「...先生。帰りませんか?私と一緒に...」
一成「...そうはいかない。俺はもう...」
「医師を辞めるからですか?」
一成「...ああ」
「みんなが瀬崎先生を待っているのに...?」
一成「...誰も待ってなんかないだろ。俺のせいで、たくさんの人に迷惑をかけた」
「迷惑、ですか...その通りですね」
一成「...」
「患者さんは、急に主治医がいなくなって不安になってます」
一成「...」
「入江先生はあの病院を立て直すには、瀬崎先生の力が必要だっておっしゃってます。鳴海先生は、絶対にあなたを連れ戻してこいって...」
一成「...」
「私だって...」
一成「...これは、けじめなんだ。俺なりの...」
「けじめって、誰に対しての?」
一成「それは...」
「私も母も、そんなこと望んでないって言ったら?」
一成「...」
「医師であり続けることが、一番の償いだと言ったら...?」
一成「君は言ったはずだ。どんなにたくさんの命を救おうと犯した罪はなくならないと」
「ええ、言いました。今でもその気持ちに変わりはありません。だから...」
一成「...」
「瀬崎先生には、未来のために医師を続けて欲しいんです。過去を清算するためではなく...」
一成「××...」
「私も前を向きますから、先生も前を向いてください。私、前を向いて歩いていきたんです、先生と...一緒に...」
瀬崎先生に手帳を差し出す。瀬崎先生は、手帳をじっと見つめた。私は瀬崎先生に手帳を握らせる。
一成「...」
「これは、瀬崎先生がもっているべきです。自分を戒めるためじゃなくて、これからの患者さんに活かしていくために...」
一成「××......いいのか?それで...」
「...ええ。いいよね、お母さん...!」
私は大きな声で叫んだ。
「もう、幸せになってもいいよね...」
(瀬崎先生と...)
花の香りを胸一杯に吸い込み、目をつむる。胸の奥にしまってあった複雑の思いが、ひとつずつ消えていく気がした。
病院前でタクシーを降りる。
「みなさん、お待たせしました」
入江「瀬崎先生、お待ちしてましたよ」
匡介「お帰り、一成さん、××先生」
師長「瀬崎先生...」
一成「みなさん...」
あやめ「いいじゃないですか、湿っぽいのはもう。ねえ?」
匡介「そうだよ、一成さん。俺たちが欲しいのは言葉じゃなくて、その腕だからさ」
師長「ちょっと匡介、なんて言い方するの!」
一成「いや......ありがとう」
入江「...早速ですが瀬崎先生、やるべきことは山積みです.ご協力いただけますね?」
一成「もちろんです」
入江「よかった...それじゃ、みなさん。そろそろ患者さんのところへ」
みんなが病棟へ戻っていく。後に続こうとすると、瀬崎先生が夜空を見上げてつぶやいた。
一成「島根の空は...ここよりもずっと、きれいなんだろう...」
「...え?」
一成「今度の休み、一緒に君のお母さんのお墓に行ってくれないか?」
「ええ、いいですけど...」
瀬崎先生は、手帳を取り出す。
一成「これを...君のお母さんに渡そうと思う。これを渡してすべてを報告し、きちんとゆるしてもらいたい」
「でも、その手帳は...」
一成「新しくしようと思うんだ。ここらか再出発するために...」
「瀬崎先生...」
私は大きくうなづき、ようやく心からの笑みを浮かべた。
GOOD END
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