こんな状況ながら、なんだかドラマのワンシーンを見ているようだった。長身の男性が田中を確保し、それを見つめるマチさんの目からこぼれる涙。
「怪我はないか。すまん、遅くなった」
「どうして……」かけよろうとするマチさんを止めて、彼は田中の腕を縛り上げ床に組み伏せる。

「死んだと聞かされて、私…」
「いやあ、ドジっちゃってね」
 携帯を取り出し彼はなにごとか呟く。それから安堵の表情を浮かべてマチさんのほうへと歩み寄った。
 田中の見張りは私が交替。投げられた衝撃でガラス玉は取れたみたいだけど、血で染まった口の中にストッキングを詰め込んで頭の後ろで縛り上げた。田中が抗議の顔して私を睨んできたがお構いなし。「大丈夫、未使用品ですから」それから床に転がっている田中のピストルを拾い上げた。暴発が怖いから突きつけたりはしないけど、これから始まるクライマックスシーンの邪魔だけはされたくないし。
「布川さん、ですよね」
 声をかけてから少し後悔。抱き合ってるふたりの邪魔をしたのは私かも。
「こちら、フミさん。助けてくれたの」マチさんの紹介にペコリと頭をさげる。「二本柳教授の学生さんで」
 とそこに駆けつけたのは当のヤナギ先生だった。曹操キタル。
「布川も園田さんも無事か」
「先生助かりました。ギリギリセーフ」
 ああ、マチさんから聞いた通り、想像したような声で想像したように少しおちゃらけて。
 布川さんが研究室に飛び込んで行ったあと、先生は何だかの関係者と共に田中の協力者を探していたそうだ。
「裏門のそばに止めてあったワンボックスに四人乗ってた。ビンゴだったよ。他の連中は残党が居ないか探索中だ」
 布川さんはしがみつくマチさんをソファに座らせる。「日本にはそれほど潜伏していなかったはずだから大丈夫とは思いますが。え、マチさんそれは」
 ああ、今頃気付いたか。まああんだけ固く抱き合ってたらお互いの顔なんて見えないよね。
「マチさん、いい?」私はバッグからコットンを取り出して彼女の顔のルージュを拭き取る。
「怪我でもしたのかと」
「素顔は布川さんにしか見せないんだって」
 フェイクのアザを拭き取ってもマチさんの顔は赤いまま。その熱を冷ますように両手で覆いながら彼女は言った。
「私にもわかるように説明して」