それから彼は、時には二つ、時には五つ、色んな所から帰っては可愛らしいお土産を持って彼の物語を聞かせた。
 その度に“忘れ物”はまた置いていかれ、土産物の数も五十を越えた頃にはさすがに彼女も言わずにはいれなかった。
「じゃあさ」布川は頭を掻きながらおずおずと彼女の傍らに立ち、「口実がなくてもここに来て構わないかな」
「どう言ったところで来るのでしょう?」
 それに続けて消え入るような声で
「私も布川さんが来ると楽しいし」
 布川は何かを言いかけてやめ、その代わりに右手をぐっと握りしめた。それから彼の方を向こうとする彼女を押しとどめ、言った。
「絵になるね」
「え」
「うん、いつも僕は君のこっち側の横顔に見とれてるんだ」
 あら、正面向きはお嫌い?と少し拗ねたように言う園田に彼は思いきり首を振り、いや慣れないというか照れちゃってというか、と必死に言い訳をした。
「とにかく」脇机の上に肘を乗せ布川は園田の横顔を見上げながら言った。「この忘れ物は晴れてプレゼント第一号に昇格したわけだ」
「あら、持って帰られないの」
「嫌じゃ無かったら貰って欲しいな」
 このタイピンだけは他の土産物とは違って、自分用に加工されたオリジナルのものだから。園田と出会って話すきっかけを作ってくれた特別なものだから。
「だからこれが一番目。このタイピンこそお姫様に捧げる百個の贈り物が、この布川浩紀からのものだという証」
 え、百個、と園田は驚いて布川を見つめた。
「うん、百個。楽しみに待ってて」
 時には二つ、時には五つ、布川はまた土産物を携えて園田の元を訪れるのだ。その時々の土産話を、どう話してやろうかとわくわくしながら。
「百個貯まったらどうするの?」
 彼の瞳を見ることが出来ず園田は横を向いたまま尋ねた。
 布川は彼女の横顔を見つめて答えた。
「百個貯まったら……その後の事を話し合いたいな」