獄中結婚とは


「貴女は今自分の言ってる事が判っているんですか?」


それは強い口調の検事質問だった


「これから懲役に行こうと言う人間と何で結婚するんですか!」


私の最後の夫になった男の裁判での一コマだ


私は何でそんなことを聞かれるのだろうと逆に不思議だった


「懲役に行ってくれるから結婚するんです」


半ば呆れ顔だったが頭にきたのは


「貴女はどんな家庭に育ったんですか!」


大きなお世話だ

私がどんな家庭で育とうが関係ないだろう


判決の日だった

下された刑は1年4ヶ月のしょんべん刑だ


私はこの裁判所でこの男の裁判を傍聴しなければ獄中結婚なんて考えもしなかっただろう


男は人生の半分を中で過ごしている

性格も破滅型だ


シャブで狂って交番を襲撃し現逮されたのだ


その過程をずっと私は傍聴していた


たまたまという傍聴だ。

廊下に覚せい剤という文字を見て興味本位で覗いてみたのが始まりだった


初めて弁護士に結婚したい旨を伝えたら驚いていたが喜んでくれた


紆余曲折あったが私は待つ身の女になった


毎日毎日手紙を書いてお互いを知るようになった


そろそろ満期も近づいて私も世話しなくなる


住む場所、仕事、と各方面に頼んで歩いた


いよいよ放免の日だ


私は前日に横刑の近くに泊まっていた


内心どんな人なんだろうと色々考えたら眠れなくなり横浜の夜に繰り出した


朝方宿に帰り早い放免の時間に眠気も落ち着きもなくなる


カタギになってちゃんとやろうというのが私たちの出した結果だ

横刑の扉が開いて3人の放免があった


初めて直接肌を触れたのは握手だ


そのままタクシーに乗り千葉まで向かう


あんなに手紙を書いてお互いを知ってたつもりが実際にあうと言葉が出てこなかった


朝方まで呑んで彼の胸のつかえが取れる


カタギじゃやっていけないということだ


私はヤクザとはやっていけないという事になる


朝5時ごろタクシーを呼んで刑務所内で紹介された人間のところまで走り去っていた


私は彼の為に用意した作業着をゴミ袋に無表情で入れていた


これでいいんだ


そう思うことで私はその足で離婚届を出しに行く


握手をしただけのはかない夫婦だったけど後悔は無い


「ヤクザになるなら立派な極道になって」


その言葉を彼は覚えているだろうか


結婚を決めたのも私と生きてきた道が似ていたからだ


しかし別れても悲しみも涙も出なかった


それだけ情が無かったという事だろう