ある少女の死



昔、伝言ダイヤルが流行った。



私もそれに便乗して伝言ダイヤルを開設する。


始めは組の資金源になる、ほんのお遊び気分だった。


私に管理が回ってくる。


毎日、変な伝言を特殊な方法で消すのだ。


その為には伝言を聞いていかないといけない。



ある日若い女の子から男性に向けて奇妙な伝言が入っていた。


「私に血を下さい・・・・・・・・・・」


そんな内容だ。


最初はなんだろうと思う。


エロ系統のサイトで「血を下さい・・・」


それが毎日入っている。


異質に思えて私は客の振りをして伝言の答えにメッセージを入れてみた。


想定外の返事が返ってきた。



「私、再生不良性貧血で分類輸血が必要なんです・・・・」


怪我をしたら血が止まらなくなる、厄介な病気で難病に指定されている。



私はその子をほって置けなくなった。


自分はこういう者だと言うことを告げて何か出来ることはないかと何度も伝言で聞いた。


医師から献血の手帳が必要だと言われていたらしい。


その仕組みは複雑で説明の仕様が無い。


分類輸血と言うものだ。


とにかく血が必要だったのだ。


私が今度は伝言板で「血を輸血して、その手帳を下さい!」と言った。


入院先の住所を伝言で吹き込んだ。


その結果全国の善良な人から、多くの輸血の為の手帳が届いた。


彼女に送るのが毎日の日課になってきた。



暫くすると電話で夜中まで話すこともあった。


とても可愛い女の子だ。


手紙も良く来た。

女らしい綺麗な文字だ。



私は息子にも採血をしてもらって手帳を直接病院の方に送った。


かなりの手帳が集まり、それで生きながらえた。


ヤクザの連中はポンをしてないものには400の献血をさせて手帳を作らせる。


一時、ヤクザで採血が流行ってしまった。


みんなこの少女の命を助ける為だ。


しかし、これは公には出来ないことだった。


医師の方では隠密にやりたかったようだ。


カルテの改ざんだ。




そんな手帳の世話も要らなくなった。


少女は骨髄を数千万円出して移植の順番を早くしてもらい立ち直ったのだ。


それもつかの間、再発。


そんな矢先に妊娠がわかった。



少女は

「私は死んでもいいから子供を助けて」と医師にしがみついて泣いた。


私も、傍にいた極道も口を挟めない。


その光景を黙って見ている。


医師は最善の努力をするといった。


日本でこの病気で子供を産んだ人がそのときはいなかったのだ。




無事にだが小さな男の子を出産した。


かなりの出血で母親の方に危篤の知らせが入った。


私は極道の運転する車で猛スピードで病院に向かった。


皆、片手の袖を上げて輸血の順番を待っていた。



無菌室に入れたれた少女は眠っていた。


その傍で医師に言われた


「献血ありがとうございました。これから分類に入ります」


その緊迫した雰囲気の中で眠っている少女を皆で静かに眺めていた。



虎舞龍のロードが流行っていた頃だ。


私はそのCDを持って医師に渡してかけてくれと頼んだ。


静かな無菌室にその音楽が流れた。


私が吹き込んだ声も流してもらった。




「なんでもないようなことが幸せだったと思う・・・・」


なんと切ない歌詞だろう。


私は少女の目から涙が流れるのを見ていた。


極道も鼻水を垂らし、泣いていた。


少女の目は二度と開かなかった。


その数分後に死亡が確認された。


無言だ。無念だ。悔しい・・・・




私は伝言板がいけないとは言わない。


こうして一人の少女が少しの延命を受けたのだ。


長い髪の子で、葬儀のときにそれが地毛ではなかったことを知った。


その子の両親も、ヤクザな連中が葬儀に入ったことを、とても喜んでくれた。


悔いはない。


私にとって「ロード」は聴きたくない歌になっている。


早すぎる青春だ。



最後に少女がくれた手紙の一部を紹介したい


「私の心の扉を少し開けてもいいですか・・・

本当はまだ死にたくないです。

子供をこの手で抱くまでは死にたくない」