全てに追われている。
ヤクザに追われ、警察にも追われる。
人間が逃亡するのには北の方と言われているが、ご多分に漏れず北へ逃げる。
年をさかのぼっていた。
ある酒場で一人の中年の男がスナック酒を呑んでいたのだ。
そこに私たちが入っていった。
ドアを開けるなり、カウンターに座っていた男が私をめがけて殴ってきた。
私はシラフだ。
何でこんな知らない男に殴られなければならないのか・・・・
反射神経とは恐ろしいものだ。
凶器は明かせないが、あるもので男の頭を思いっきり殴った。
正当防衛だ。
やらなきゃやられる。
数分もたたないうちに男は伸びてしまった。
小さなスナックでの出来事だ。
初めて会った男にドアを開けた瞬間に殴られて黙っている私ではない。
罵声を浴びせながら、修羅のごとく叫んだ。
「ふざけるんじゃねー!!」
下に倒れた男はピクリともせずに動かない。
良く見たら脳味噌が白く頭から流れ出ている。
(死んだのか?・・・・・)
スナックのママはそういう場面に慣れているようだ。
すぐにライトを消して、ドアに鍵をかけた。
私たちは黙ってその様子を眺めていた。
内心、ヤバイとは思っていたのだが・・・・・
ママはどうやら地元のヤクザを電話で呼んでいた。
数分もしないうちにヤクザが数名きた。
何か私に向かって言う。
「あんたんとこの事務所はどこだ!?」
私も呼ばざる得なかった。
静まり返っている店内で、脳味噌を出して倒れている男を尻目にそんな会話をした。
自分の組の人間に電話をするのは気が引けたが、場面が場面だ。
呼ばないわけには行かない。
電話をしたら通常1時間で来るところを30分できた。
組員も顔が青ざめている。
私など能面状態だ。
私に何も非が無い。
地元のヤクザと組員がなにやら話している。
どっちに引き渡すかだろう。
地元のヤクザが男を引きずっていった。
その跡をみたら、血の痕跡と脳味噌が残っていた。
死んだとは思いたくなったが、生きてるとも思えなかった。
ヤクザの手際はいい。
私はその後毎日、新聞を見た。
何日たってもニュースにもならない。
時効だ・・・・・・
もう20年以上は過ぎている。
今日は正月の3日だ。
その日だった。