両手を後ろ手に縛る。
足首、両膝を縛る。
まるでダルマの様な格好だ。
回りに10名近くのヤクザが取り囲む。
ステゴロ、木刀、日本刀・・・・・
その全てが一人の不義理をした男に襲い掛かる。
歯が折れ、骨折、打撲は当たり前。
眼などはボクサーがパンチを食らったときの何倍かの腫れようだ。
顔面血だらけになっても文句も言わず、なるがままになっている。
それが、我慢だ。
好きでリンチをしているのではない。
それなりのことをしたから、そうなるのだ。
木刀で思いっきり殴られても、啼きも入れない見上げた根性だ。
その辺のガキとは違う。
ある意味で極道とは、それも承知でなっている。
それが痛いの、ヘチマだのとは言わない。
これこそ袋叩きだ。
殴られても、笑ってる。
警察に飛び込む肝ではない。
組長の女に手を出すとこういう羽目になる。
その後は2~3日寝かしておく。
その後に小指に輪ゴムを巻いて指を詰める。
それで終わりではない。
昔風で言えば、ゲタをはかせる・・・
違う事務所に電話当番でもさせに住み込みで行かせるのだ。
逃げられない。
その時の亭主であった組長が私を呼んだ。
「ヤクザの世界では女を殴らないが、男がその分痛い目にあうんだ。男が助けを求めても手を出すんじゃない!良く見ておけ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「あいつのどこに惚れたんだ!チンポか!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「今なら許せるぞ・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
私は一言も返事が出来なかった。
しかし、そんな厳重な場所から逃がしたのがいた。
現ナマを用意して・・・・・
私が3回目に結婚した男だ。
逃がしたのは私だ。
私は組長からも逃げることになる。
どこに惚れたわけでもない。
男樹だ。組長には忘れてる男樹だった。
ボニーとクライドではないがあちこちを逃げ回る。
いつ死んでもいいと思った。
何かあったら一緒に死のうと・・・・
怖さも恐怖も何も無い。
それほどに惚れ込んだ男だ。後悔もない。
最後には破門になったが、それも承知の上だ。
後に電車の中でシャブで亡くなった亭主だった。
私は自分が原因で指詰めをした男が2人いる。
それだけは人生を狂わせてしまったかと思う。
しかし、今、その男たちは、それぞれが何で指を詰めたの?と女に聞かれて、なんて答えているのだろう。
年の瀬にそんな事を考えていた。