あたりはオレンジ色に染まっていた。もう夕方か?

今日は何か変だ。

体にシャブを何回入れても、あの感覚が来ない。

ポンプから吸い上げる血が重たそうにドロッと下に落ちる。

(あー、こんなに私の血は汚れてそまった)

そんなことを考えてると亭主が帰って来た。


「なんだ!切れ目か?」

(何が切れ目だよ!テメエだってポン中だろ)


亭主が水を持って二階に上がった。

(あのヤロー、ネタやるんだな)

案の定、さっきとは違う顔の亭主がいた。

晴れ晴れとした顔をしている。


「ねえ、私にも頂戴よ!!」

何処かイラついていた。本当に切れ目だ。

違う、今のモノでは満足がしないのだ。

亭主のモノを期待していた。


私がベットに入ったまま起きようともしない。

する気にならないのだ。


「ほら、余り使いすぎるなよ・・・・」

そう言って私に差し出した。

ついでに言った。

「綺麗な水とスプーン持ってきて」

言われた通りにしてくれるのも、効いてるからだろう。

普段ならモノグサで動かない亭主だ。


昼間から長い時間をかけて針の先を研いでいた。

趣味だ。

普通ならやらないだろう。

コットンに針を撫でて、その具合を確かめる。

スーっと通るのは嬉しい。

これはやった人間にしかわからないだろう。

ポン中とはそんな時間に労力をつかっているのだ。


亭主の置いていったネタを見た。

結構いいモノだ。

動かない私は、この時だけは素早い行動になる。

スプーンに入れてるのも面倒だ。

シリンダーを抜いて、直接ポンプの中に入れた。

全くの目分量だ。

少し大きなガンコロが入った。

ま、効かないからいいか・・・・・・・


水を吸上げポンプを振った。

中を見たらドロっとしたシャブの濃さか。

まるでガムシロップみたいだ。


私は医療で使うゴムのチューブを持っていた。

それを左腕に巻いて血管を浮き上がらせる。

何処にでも入りそうな血管が青く浮いている。

でも、打つのは同じ場所になってしまうのだ。


刺した。

血を吸上げてニタっと笑う。一発で入ると嬉しいものだ

そーっとシリンダーを押した。

(なんか違う!!早くポンプを洗って片付けなきゃ)

その間10秒ぐらいの出来事だ。


私は異変を感じ座椅子に座りこんでしまった。

その瞬間だ。

まるで電気ショックにでもかかかったように座椅子ごと2㍍ぐらい飛んだ。

全身の筋肉が硬直して、動けない。

心臓もおかしい。止まる・・・・

息が出来ない・・・・また止まる


飛ばされた場所から半日は動けない。

私はこの時に、過剰摂取で死ぬことを考えていた。

3日3晩この苦しみから逃れられない。

いっそのことこのまま死んでもいいと思う。


体が足の先からどんどん硬直してくる。

目の前にあるがその数cmも動けないのだ。

数時間後、やっとの思いで求心を手にした。

シャブで使った水で1ビンのんでしまった。


それが幸いしたのか体に血の気が戻ってくる。


長い留置生活でウトウト寝ることが多い

決まって見るのはこの夢だ。

内心、この時のことがバレたら困る。

そんな神経が夢を見せてくれるようだ。


宮原が珍しくにやついた顔でやってきた。

私としては嬉しい。

取調室に行けば、好きなものを食べてタバコは吸いたいだけ吸える。

この日は「何か食いたいものはないか?」などと聞いてきた。

ダンキンドーナツを買いに行かして、ペロリと食べてしまった。

こんな後には決まって嫌なことがおきる。


「00ひろみ再逮捕だ。何だかわかるよな!」

目の前が白くなってきた。


あーー!!頭に来る。

今度は何だよ!


頭にくるような生易しい事件ではなかった。

知らぬが仏だ。

この晩、明日の令状を気にもせずに眠っていた。


でも、良く考えると、警察署の中で違う刑事がいた。

私の顔を見て刑事に言った

「取調べが終わったら、こちに借りていいかな」

私はこの言葉が耳から離れない。