狭い取調室だ。窓が大きく開かない。逃亡させない為か?
若い刑事がやってきた。
私はもっと年季の入ったオヤジを想像していたのだ。
何だ?このガキ・・・・
私が中々、口を割らない。
若い新米の刑事はおもむろに机を握り拳で叩いた。
テーブルの上のアルミの灰皿が、気持ちいいほどにすっ飛んだ。
想定外だったのだろう。
若い刑事を仮に宮原としとく。
宮原は「俺が切符を持って入ったんだ!!それを忘れるな!」
切符とは逮捕状の隠語だ。
あの時にこんな宮原なんていただろうか・・・・
私の目も節穴ではない。
そのツラをマジマジと見た。
(この男はいなかった。間違い無い!)
なぜならジジイばかりだったからだ。
そんな新米は記憶に無い。
しかし、後々この宮原は白バイ機動隊の隊長になった。
長い沈黙が続く。
宮原は「頭を冷やしてくる!」と言って取調室から出ていった。
私だって、口を割ったら・・・腹の中で服役の計算などしていた。
沈黙は夕方まで続く。
私はそれには慣れていた。
宮原は執念深い。まるでマムシのようだ。
目つきも鋭い!初犯ならすぐに落ちるかもしれない。
私に就いたのが運のツキだ。
今風に言ったら、その風貌は俳優の宅間伸のような顔だ。
あの目付きなのだ。
取調べは意味がなかった。
帰りの刑事部屋を通るとデスクに新聞紙が広げてあった。
思わず見入った記事が私の目に飛び込んできた。
「鳴海 清 惨殺死体で発見」
京都のクラブ「ベラミ」で山口のオヤジをチャカで殺し損ねた奴だ。
前々から気になってはいた。
(やっぱり、殺られていたのか・・・・)
パジャマ姿で半分腐敗していたと言う。
私は女として、この鳴海清の生き方は好きだ。
その晩、房に帰っても鳴海の顔写真が頭から離れない。
それこそ房の中で一晩中考えていた。なぜ?誰が?
房の中のポン中が
「姐さん!!どうしたの?」と聞くほど目が飛んでいたのだろう。
遭ったった事も無い鳴海に、これほどの情念を持たせてくれた。
しかし、翌日には忘れることが出来たのだ。
私に再逮捕の令状が裁判所から届いた。
「逮捕監禁・・・・?」
忘れていた事だ。
誰もが私がパクられたのを知るとサツに逃げ込む。
出たらタダじゃおかない!!
この日、取調べの前に尿検査の為、紙コップに尿を取れと言う。
今の所は綺麗な体だ。
喜んで受けた。
トイレのドアは開放・・・
そこで出せと言う。水でも入れられたら困るからな・・・・
バカヤロー!!そんなセコイことはしないからドア閉めろと言った。
無駄な抵抗だ。
3人の男が私の放尿シーンをジーっと見ている。
出るものも出ない。
「もう少し待って!!」
「あ~~いくらでも待つよ。。。。。」
これは完璧なセクハラだ
ここでは通用しない。。。
やっと少し出た。
今度はそれを持ったままの姿をカメラを用意して待っていた。
私は自分の尿の入ったコップを片手に笑ってしまった。
もう駄目だ。
何度も笑ってしまう。少しもおかしくない!!
1人の刑事が言った
「みんな、何だか知らないけど笑うんだよね」
ハア~そうなんだ、私だけがおかしいんじゃないんだ。
しかし、その検査の結果に驚いた!!