先週2月28日、カリフォルニア州アーバインで行われた、ジョージ・リーのコンサートに行った。

曲目は、ショパンのピアノコンチェルト第一番、そしてアンコール曲のワルツop.42(ショパン)。

 

今回は、現地にて当日チケットを購入したため、中央部で聴ける席は3階席しかなかった。

これまで聴いた座席は、全て前方部だったが、今回は随分離れた場所からの観覧となった。

これは “計算通り” で、彼の演奏を一度離れたところから聴いてみたいというのもあり、敢えて3階席にした。

 

彼の生の演奏に触れるのは、もう5回以上にはなるが、彼が小さく見える座席は今回が初めてだった。

こんなに小さく見えるのに、ピアノの音は滑らかに一音一音ハッキリと飛んでくる。

『滑らかにハッキリ』聴こえるのが、私が最も魅了される理由である。

「滑らかさ」と「明瞭さ」と「上品さ」を兼ね揃えたのが、正に彼の演奏なのだ。

 

私は速弾きの演奏に心を打たれることが少なく、たいていの速い演奏は滑らかさに欠ける。

「Legato(なめらかに)」という音楽表記があるが、これほどの難しい奏法はあるだろうか。

 

もちろん、弾き方も聴き方も人それぞれであり、人それぞれの楽しみ方があるのが、クラシック音楽。

何に着目して演奏を聴くかは、千差万別。

何に着目して演奏するかも、千差万別。

 

彼の演奏を聴きに行く度感じる事なのだが。

始めと途中で、聴衆の反応が変わっていくこと。

地方でのコンサートは、たいてい地元の人が多く、彼の事を知らない聴衆がほとんど。

オープニングで初めてステージに出てくる際は、決まって拍手はバラバラである。

しかし、一曲目が終わった途端、拍手は明らかに彼の演奏に化学反応を起こしている。

終演時は、これも決まってスタンディングオーベーションとなる。

 

今回、終演後の帰り際、私の左に座っていた、たいそうな御婦人がわざわざ私に話しかけてきた。

「あなた、ピアノ弾くの?彼の演奏、Marvelousだったわね?!彼のワルツは私が今まで聴いた中で最高だったわ!他のピアニストとリズム感が違う。」と。

(Marvelousは、最上級的に使われる褒め言葉。)

 

それを、私に言うのか?と思いながら、「彼の演奏を聴くのは初めてですか?」と問いかけると、「ええ、初めてよ。」と・・・。

私はニヤリ、「私は何度も聴いているが、あなたは音楽をよく分かってらっしゃる。はい、他のピアニストとは違います。」と、ただ申し上げた。 「だから、こんな所までわざわざ来ているんですよ・・」と言いかけたが、そんな事は知る由もないだろう。

 

ダイナミックでもいい、速くてもいい、ただ・・。

アンドラーシュ・シフもいつも言っているが、「上品で気品のある音」なら何でもいい。