漱石『門』 | さばとごはん

漱石『門』

文化の館のこぶしの褐色の蕾が膨らみ始めて、

白い花弁を覗かせている。

こぶしは本格的な春を告げ知らせる花だと

聞いたことがある。


風はまだ冷たい。

この写真を撮っていると、

「まだ寒いですね」と、

利用者の方が声を掛けてくださった。

コートもセーターも身に付けずに

外を歩くには

まだ少しかかりそうである。


しかし、春の到来は、

やはり嬉しいものである。

何か良い事があったわけでもないのに

心が軽く華やいでいるのを覚える。



さばとごはん-120401_1332~01.jpg


春が来ると、いつも


漱石の『門』の結末部分の描写を思い出す。


主人公「宗助」と妻「御米」との会話である。




御米は障子の硝子に映る麗らかな日影をすかして見て、

「本当に有難いわね。漸くのこと春になって」と言って、

晴れ晴れしい眉を張った。宗助は縁に出て

長く延びた爪を剪りながら、

「うん、然しまた又ぢき冬になるよ」と答えて、

下を向いたまま鋏を動かしていた。



春の到来を喜ぶ妻に


「ぢき冬になるよ」と答える夫。


漱石の胃は死ぬまで痛み続けて、


治ることがなかったろうと、


僕の胃も痛む春である。




『漱石全集』第九巻 『門』  岩波書店